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大きな、温かい手  作者: オムラ
番外編
11/14

4年後 01







私はこの国の騎士団に所属する騎士だ。

騎士団には4つの団で成立していて、それぞれが別の役割を担っている。

その中でも私が所属しているのは第一騎士団で、主に王宮の警護、より王族に近い所で警護をしている。

私は第一騎士団で副団長を任されている。その役職に就いたのは5年前であった。

5年前、私が副団長に就くとともに団長の職に就いたのが、私の同期でもあるベルクだ。

ベルクとは騎士になってから知り合ったのだが、出会った当初から馬が合い、それからの付き合いだ。


ベルクは私と同じ年であるはずなのに、その落ち着いた雰囲気から年上のように思うことが多々ある。

身長ならば私の方が上なのだが、何せ恰幅が良い。

どっしりとした安定感のあるその雰囲気は、団長に相応しい。

しかしやや不器用なところがあるため、そこらへんは私がフォローしていた。



出会ってから10年以上、団長と副団長という関係になってから5年。

これだけ長い時間を共にいると、何かあった時に察することができる。

そのことに気付いたのは、確か4年ほど前だろうか。

最初はほんの些細な変化だった。気のせいかとも思った。

しかし、その変化は次第に確実なものとなっていった。

まず残業をすることなく、仕事が終わるとすぐに帰宅するようになった。

前までだったらギリギリまで残っていて、むしろそのまま泊まること時折あったぐらいだった。

そしてベルクの纏う雰囲気も、以前よりも柔らかいものになった。

団員たちもそれを感じてか、積極的にベルクに話しかけるようになり、第一騎士団の雰囲気も良好だ。


きっと、家で何かあったに違いない。

ベルクは私や他の団員と違って、自宅から通勤している。

私の知らないところ、つまり家で何かベルクにとって良い影響があったのだろう。

だが、いくら聞いてもベルクは口を割らなかった。

最初のうちはしつこく聞いてはいたものの、頑固なベルクは揺らぐことはなかった。




しかし、それを漸く知るときが来た。





















午前の稽古が終わり、一息ついて書類に取りかかろうとしたときだった。

団長と副団長に与えられた部屋に二人でいたときに、ドアをノックする音と共に「ベルク団長宛てのお忘れ物を持って参りました」という声が聞こえてきた。



「……俺の忘れ物?」

「私が受け取ります」



ドアを開け、やたらと大きい鞄を受け取る。

実際持つと、ずっしりと重い。

一体何が入っているのだろうか。


「見覚えはありますか?」

「確かに俺の鞄であるが……何かを忘れた覚えはない」



不審物、か?そういえばこれを持ってきた者は誰が持ってきたとか何も言っていなかった。

私自身も聞くことを忘れていた。

いくらこの国が平和だからと言って、油断はいけない。

意識を改めなければ。


「危険物の臭いはしないので大丈夫だとは思いますが、一応私が確かめます」

「……いや、俺が、」

「団長は念のため下がってください」


鞄を下に置き、チャックに手をかける。

ゆっくりとそれを開けていくと、その中には……






「え」








あまりにも予想外すぎて、私はそれを凝視してしまった。




「おじさんだれー?」

「パパはぁー?」




それは、子どもだった。

2歳ぐらいの子どもが男の子と女の子の二人、通りで重いわけだ。

子どもたちは二人とも黒髪で瞳の色はスカイブルー。

黒髪はこの国では中々見かけない。どこか遠い国にはいると聞いたから、その出身の子だろうか。


最初の内は私を見つめ返していた子どもたちだったが、すぐに飽きたようにキョロキョロし始めた。

すると何かを見つけたように、目をキラキラさせて笑顔になって言った。








「「パパ!」」








そう言って、子ども2人が駆けて行った先には、我が友人のベルク。

ベルクは困ったような顔をしながら、二人を両腕でそれぞれを持ち上げていた。


「……お婆の仕業か」

「ベルク」

「……何だ」

「どういうことか、説明してもらおうじゃねーか」



職場では普段の口調を出さないようにしていたが、この時ばかりはあえてそうしなかった。今これからは完全にプライベートだ。

ベルクもそれを察したらしく、苦い顔をしながら頷いた。

子どもたちは父親との再会を喜んで、無邪気な笑顔を見せていた。
























「えーと、つまり、お前は4年前には既に結婚していたと」

「ああ」

「それを長い付き合いの俺にも言わなかったのは、奥さんを他の野郎に見せたくなかったからだと」

「……ああ」

「あの子たちは双子で、上にもう一人いると。そんでさらに今度また生まれると」

「…………ああ」

「なあ、ベルク。その魔法使いのばーさんが何でわざわざ旅行から一時帰宅してまで、子どもたちの存在を同僚に教えたのかわかるか?」

「…………嫌がらせ、か」



でっかい身体を精一杯縮めて(それでもでかい)いる姿は何だか滑稽だ。

何だか動物をいじめているような気がしなくもないが、こいつは友人のベルクだ。はっきり言ってやらなくてはならない。


「違う。……お前、奥さんのこと大事なんだろう」

「勿論だ」

「だったら自重しろ。薄々気づいているんだろう」

「……」

「ばーさんはいくら言っても聞かないお前をたしなめる為に、俺に教えたんだよ」

「奥さんのこと大事に思うんなら、好きならば、わかるな?」

「……ああ」


渋々、と言う言葉がピッタリの顔だった。

昔はこんな風に感情を表に出さなかった。

きっとこれもベルクの奥さんの影響だろう。

これは、会わないと気が済まない。


「今度、奥さんに会わせろよ」

「断る」

「……」

「……」



この後、書類を片付けながらもずっとベルクを説得し、仕事が終わる頃に漸く約束を取り付けることが出来た。

二日後に、ベルクの家を訪問することになった。

ベルクは嫌そうではあったが、言質は取った。

ベルクをこんなにまでしてしまった奥さん……非常に楽しみだ。








ちなみに、子どもたちはいつの間にか鞄の中に戻って眠っていた。









スナイパーベルク

タイトルにしようかと思いましたがさすがに自重しました。





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