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大きな、温かい手  作者: オムラ
番外編
10/14

最終話直後









「じゃあ、行きましょうか」




お婆はそう言って、廊下に続くドアを開けた。

そこには廊下が、なかった。そう、あるはずの廊下の代わりにあったもの、それは、



「「……優里?」」



テーブルを囲んで食事をしていた我が父と母であった。え、何で、と言うまでもなくお婆の力なのだろうけれど。

二人はこちらを見つめたまま驚いている。そりゃあ急に出て来たものね!驚くだろうよ!



「あんた何で家に帰ってきてるの。会社辞めたの?」



え、そこなのお母さん。普通お父さんみたいに口を半開きにして、ついでに持っていた箸も下に落とすぐらいのリアクションがあっても良いと思う。


そんな風に突っ込みを入れていたら、ベルクが急に一歩前に出て、



「突然の訪問になり、大変申し訳ございません。本日、娘さんとの結婚をお許しいただきたく、参りました」



ベルクって時々空気読めないよね。

父はますます混乱したらしく、半開きだった口は本開きになっている。母はというと持ったままであった箸を落として、言った。



「優里が結婚できるなんて……!」



おい、母よ。











放心状態の父と興奮状態の母へこれまでの経緯を、お婆の魔法を実際に見てもらうことでなんとか納得してもらった。

(ちなみに今この世界の時間は、私があちらの世界に行ったその翌日らしい。よって失踪騒ぎになっていたりはしていない。)


そして何故か今、「熟した大人だけでお話があるから貴方達は取りあえず出て行きなさい」とやけに意気投合してしまった母とお婆に家を追い出されてしまった。

そう、ベルク(例によってお婆の力でこちらの世界の服を着用)と二人で街を歩いている。



ベルク、目立つ。



2メートルを超す身長に、がっちりした体格は、なかなかお見受けすることができない。

今すれ違った女性は「熊だ」と呟いていた。気持ち、凄くわかります。


注目されている張本人のベルクはと言うと、不思議そうに周りを観察していて、自分が注目されていることを全く気にしていない。

その鈍感力、私に下さい。

自分が注目されているわけでもないのに、何だか緊張してしまっている。


少し俯いてベルクの隣を歩いていたら、いきなり視界が変わった。


「っえ!」

「ユリ、どうした?足が痛いのか?」


俯いた私を具合が悪いと判断したらしいベルクが、いつものように私を抱き上げたのだった。

ベルクは心配そうに私を見つめている。その姿にキュンとしてしまった。


「ううん、大丈夫です。ありがとう、ベル、」


私の鈍感力は一瞬であった。

ベルクのこのパフォーマンスで、より注目を浴びてしまったらしい。女子高生なんかは「キャー」とか言っている。きゃー。

駄目だ耐えられん!私は顔を隠すためにベルクの首に腕をまわし、抱きついた。



「ユリ?やっぱり具合悪いのか?」

「……どこかで休憩したいです。ここをまっすぐ行って次の曲がり角を右に曲がって暫く行くと公園に行くのです」

「わかった」



ベルクは私をギュッと抱きしめ、小走りで公園へ向かってくれた。


公園に着くとベンチに座った。いや、正しく言うとベルクはベンチの上に座り、私はベルクの上に横座りで座らされた。

降りようと試みるも、ベルクは抱きしめたまま離さず、私の頭を撫でている。いや、嬉しいんだけどね。さっきよりは人がいないといっても、いることには変わりはないからね。

しかしベルクのホールドは堅い。少し格闘して諦めた私は、顔をベルクの首元に埋めて、周りをシャットダウンした。

直前に見た小さなお子様を連れた若いお母さんの集団のニヤニヤ顔は、見なかったことにして。













ベルクが頭撫で撫でに漸く飽きたころには結構な時間が過ぎていて、あのニヤニヤ集団も帰っていた。

私たちは、今度は普通に二人並んで家に帰った。


家に帰ると、何故か宴会を始めようとしていた。

いやいや今日は土曜日ですけれども、今まだお天道様はお休みになっていないですよ。



「おめでたいことを祝うのに時間なんか関係ない!」



既に一杯飲んでいた母が叫んだ。父はいそいそと料理をテーブルに運んでいる。

完全なるカカア天下の図である。


さあ、皆で飲むわよ!との母の一声で、宴会がスタート。ベルクは父と何やら話しながら飲んでいて、母とお婆の相手は私がする流れになっていた。ずるい。





そして何だか騒がしい時間はあっという間に過ぎていき、気が付いたら私とベルク以外は皆眠ってしまっていた。いい大人(本人たち曰く「熟した大人))が何をやっているのだか。

しかし、二人の相手をしていた私も疲れから眠気がピークに達していた。

ソファに凭れかかって船を漕いでいると、ベルクが近づいてきて私を横抱きにする。



「ベッドで寝ような」



ほとんど夢の世界へと旅立っていた私はこの時何故か



「ベルクだいすきー」



とか言ってベルクに抱きついたらしく。そしてそれを受けてベルクが私の唇に初めてキスしていた、なんてことを知るのは暫く経ってからのことだった。






まあ取りあえずこんな感じで、お互いの保護者への挨拶は終わったのでした。










次の番外編は数年後の設定の予定です。



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