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大きな、温かい手  作者: オムラ
本編
1/14

01


走る、ひたすら走る。

全速力で走ったのは何時振りだろう。数年ぶりであることは間違いない。

しかしここまで必死になって走ったのなんて初めてだと思う。

死に物狂いで走るなんて、平和ボケした日本では中々有り得ない状況だろう。

何故私が走っているのか。それは、此処が日本ではないどころか、全く別の次元である、かもしれないからだ。

ものすごく曖昧なのはご了承ください。何分私自身が把握しきれていないのです。


ざっくりと説明すると、まずおよそ2時間前に遡る。


約2時間前、仕事を終えた私は会社から帰宅した。鍵を開け、扉を開けるとそこは闇であった。わけがわからない。

疲れていた私は何に気がつくこともなくそのまま闇に足を踏み入れ、落下した。

落下して着いたのがここだった。

ここは森であった。木々に囲まれ、マイナスイオンがぷんぷんしそうな森である。異世界の。

何故異世界だと判断したのか、それは私が死に物狂いで全力疾走している原因でもある奴の存在だ。

奴と出会ったのはここに落下してから1時間と30分ほど経ってからだ。

どうにかして森から出る、若しくは誰か人と出会うためにも私は森を徘徊していた。1時間も過ぎて気に凭れて休んでいた時だった。



奴が目の前に現れたのだ。



奴、その正体は見たことのない獣であった。

日本は勿論、世界中探しても存在しないような獣。それこそファンタジーの世界にしか出ないような獣なのだ。


基本的なフォルムは犬、だ。

ただしそれにいくつかの付属物がある。

一つは角。額から一本にょきっと生えている。

二つめは色。ベースは灰色なのだが、手足や耳など所々が金色だったりショッキングピンクだったりする。

そして極めつけの三つ目は羽だ。

奴は犬のくせに羽をつけていたのだ。


その時私はここが日本ではない、それどころが私の知っている世界ではないと考えた。

しかしじっくり考える間もなく、犬もどきは私めがけて突進してきた。

そんでもって冒頭に至るわけだ。


犬もどきは四足を使って駆けてきている。羽を使って飛んできたらどうしようと思ったが、あれはもしかしたらただの飾りなのかもしれない。というかそうであって欲しいな。



だが、そろそろ限界が来ている。元々体力に自信があるわけでもないのに、その上しばらく運動をしていない。

今までもっていたこと自体に驚くぐらいだ。


「っく!」


とうとう限界がきた。何も無いところでこけてしまい、倒れてしまった。

やばい、早く立ち上がらないと。奴が、


「グルルルルルッ」

「!」


遅かった。

後ろを見ると、すぐそこには犬もどきが。しかも羽をバサバサさせて浮いている。宙に浮くことで、何だか威圧感が増しているように見えた。

やばい、死ぬ。

身体が震える。

夢だと思いたいのに、さっきこけたせいで生まれた痛覚がそれを否定する。



なんで、だれか、たすけて。



犬もどきとの距離がゼロになりそうになり、現実から逃げるように目を瞑った。





「グァアアアアアアアアッ、ァァッ」




酷い呻き声が聞こえて、そして途絶えた。



私は、死んでいない。



安堵からか疲労からか、一気に体の力が抜ける。…あれ?助かったのは良かったけれど、一体何が起こったのだ?


恐る恐る目を開けると、そこにはさきほどの犬もどきを優に超すほどの大きさの熊のシルエットがあった。




今度こそ、終わった。

私はそこで意識を手放した。













目を開けたら熊がいた。


「ひっ!」


と、思ったら熊みたいに大きな人だった。

私はふかふかのベッドの中にいて、熊さんは枕元で私の顔を覗き込んでいた。


意識を失う直前に見た熊さんはこの人だったのだろうか。

熊さんの容姿は欧米人のような容姿だった。髪の毛は金色の無造作ヘアー(適当ともとれる)。彫りは深く、目の色は綺麗なスカイブルー。身体つきは熊かと思うほどなのだから、相当がっちりしている。鍛えているのがよくわかる身体である。

ぼーっと熊さんを観察していたら、熊さんは眉間に皺を寄せて喋った。


「      」


ん?


「…      」


どうしよう、何を言っているのかさっぱりわからない。すっかり失念していたが、ここは異世界なのかもしれないと予想していたのだった。熊さんが話しているのはきっとこの世界の言葉なのだろう。

決して日本語ではなく、英語でもない。フランス語でもないし…つまり全く耳にしたことのない言葉なのだ。

語尾が上がっているから、何か問いかけをしているのかもしれないが…。名前を聞いているのか?


「…優里」


熊さんは首を傾げた。

私は人差し指で自分を指さし、


「優里」


と言った。


熊さんはじっと私を見つめた。


「                」


さっきよりも長い言葉。何か違うことを問いかけているらしい。でも、わからない。とゆうか、さっきのも本当に名前を聞いていたのかもわかっていないのだ。先ほどの熊さんの反応を見る限り間違っていたような気がするのだが。

私は首を左右に振った。わからない。何もかもが、わからない。


熊さんは再び私のことをじっと見つめた。

すると、熊さんの大きい手を自身の胸元に当てて


「ベルク」


と言った。

ベルク。この人の名前なのだろうか。


「…ベルク」


私がそう言ったら、熊さんは目を細めて頷いてくれた。

そして、その大きな手を私の頭にのせ、撫でながら



「ユリ」



と、言った。

その手が暖かくて、安心して、泣けてきて。

私は子供のころ以来初めて、他人の前で声を出して大泣きした。





息抜き小説です。

初めてのトリップものでした。

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