隣人失格
その町に、一人暮らしの高齢の女性、Aさんが住んでいました。
Aさんは足腰が弱く、買い出しに行くのも一苦労。それを見かねた隣人のBさんは、定期的に「何か買ってきましょうか?」と声をかけ、代わりに買い物をしてあげるようになりました。
Bさんは純粋な善意から手伝っていましたし、Aさんもいつも嬉しそうに「ありがとう、本当に助かるわ」と、お礼に小さなお菓子などを渡していました。
周囲の住民も「Bさんは本当に優しい人だね」と褒め称え、誰もが美しい助け合いの光景だと思っていました。
1年ほど経った頃、Aさんの物忘れが少しずつ激しくなっていきました。
ある日、Bさんがいつものように買い物を済ませて届けると、Aさんは怪訝な顔でこう言いました。
「頼んでいたお釣り、500円足りない気がするんだけど……」
Bさんは驚き、レシートを見せて計算が合っていることを丁寧に説明しました。その場はAさんも「私の勘違いね、ごめんなさい」と納得したように見えました。
しかし、これを境にAさんの疑心暗鬼は加速していきます。
「昨日、Bさんがうちの庭を覗いていた」
「頼んでいない高い品物を勝手に買ってきて、お金を請求された」
Aさんは近所の人たちに、Bさんの悪口を少しずつ吹き込むようになりました。最初は誰も信じていませんでしたが、Aさんがあまりにも悲痛な顔で、具体的に「被害」を訴えるため、次第に周囲の目も変わり始めます。
「Bさん、本当はAさんのお金を誤魔化しているんじゃないの?」
「親切を装って、お年寄りを騙しているのかも」
そんな根も葉もない噂が町内に広まり、Bさんは周囲から白い目で見られるようになってしまいました。挨拶をしても無視され、まるで犯罪者予備軍のような扱いを受けます。
純粋な善意をあそこまで踏みにじられ、さらに周囲から孤立させられたBさんは、精神的に限界を迎えました。
「もう二度と、あの人の手助けはしない。関わるのをやめよう」
そう心に誓い、BさんはAさんの家に行くのを完全にやめ、完全に無視することに決めました。
Bさんの手助けがなくなってから、Aさんの生活は一気に困窮しました。足腰が悪いため自力で満足に買い物へ行けず、頼れる親戚もいません。
近所の人たちも、口ではBさんを批判していましたが、自分が代わりにAさんの面倒を見るほどの覚悟はなく、誰も手を差し伸べませんでした。
それから1ヶ月後。
Aさんの家の前を通りかかった住民が、異変に気付きました。郵便受けには新聞が溜まり、家の中から異臭が漂っています。
警察が駆けつけたところ、Aさんは室内で孤独死していました。死因は栄養失調と衰弱でした。
この結末を知った町の人々は、手のひらを返したようにBさんを責め立てました。
「あなたが急に買い物をやめたりするから、Aさんは亡くなってしまったんだ」
「見殺しにしたのと同じだ」と。
結局、Bさんはその町から逃げるように引っ越していきました。




