5章
玄関の前に立つ。
どこか、雰囲気が違った。
ポストにはチラシが詰まっている。
人の気配がない。
恐る恐る扉を開けた。
家の中には、憔悴しきった相方がいた。
いつものテーブルに座っている。
目の前には、冷え切ったコーヒーが一つ。
胸が、わずかに震えた。
溢れそうになるものを堪えながら、
握りしめていた紙を開く。
ふと、空気が揺れた気がした。
向かいの椅子に座る。
カタン、と小さな音が鳴る。
その音につられて、相方が顔を上げた。
目が合う。
淀んでいた瞳に、一瞬だけ光が宿る。
「……私も、死んだの?」
指先が、頬に触れようとして――止まる。
ぽたり、と涙がテーブルに落ちた。
「夢かなぁ……」
その声は、どこか嬉しそうだった。
テーブルの上のコーヒーに視線を落とす。
私の分だろうか。
相方が淹れたのに、飲めなかったコーヒー。
不意に相方が立ち上がる。
「コーヒー淹れるから、待ってて!」
そう言って、キッチンへ駆けていく。
ミルの音はしない。
インスタントだった。
それだけで、すべてが分かる。
私はテーブルの上で手を動かす。
ミルクと砂糖を揃える。
やがて、香りが戻る。
かちゃり、とカップが置かれた。
相方が向かいに座る。
テーブルの上を見て、目を見開いた。
ミルクと砂糖。
そして、私。
視線が合う。
私は、ぺこりと頭を下げた。
思わず、笑みがこぼれる。
いつもの朝だった。
相方の表情が、ふっと緩む。
そして、微笑んだ。
相方も、ぺこりと頭を下げる。
——ああ。
もう、大丈夫だ。
胸の奥が、少しだけほどける。
私はゆっくりと口を開いた。
「さよならを言いに来た。」
相方の目が揺れる。
「生きて。」
それだけを、伝える。
相方は、少し唇を噛んで――
微笑んだ。
「……わかった。」
その言葉を聞いた。
目に焼き付けようとして、瞬きをする。
——次の瞬間。
もう、そこにはいなかった。
向かいの椅子を見つめる。
ぽたり、と雫が落ちた。




