種も仕掛けもない
休日の公園にて、一人で手品の練習をしている青年を見かけた。
少し近づいてみると、すぐにその彼が日本人ではないことがわかった。
よくあるシルクハットから鳩を出す手品を何度も繰り返していたが、一息ついたところで声をかけてみた。
「やぁ、精が出るねぇ。お兄さんはプロの人かい?」
「ハイ! コニチワ。ワタシぷろチガウ」
日本に来てまだ日が浅いのだろう、どうやら日本語は片言のようだ。
「なら、まだ見習いってことか。手品はもう長いのかい?」
「テジナ?」
「あー、マジック。マジックを始めてからどれくらいだい?」
「オゥ、まじっく! まじっく、ウマレテスグネ! ワタシノクニミンナソウヨ」
「生まれてすぐたぁ、そりゃまたすごいねぇ。しかもみんなときたか。ずいぶんと変わったお国柄なんだなぁ。どうだい今ここでひとつ披露してみちゃくれねぇかい?」
「オーケーオーケー!」
こちらの希望が通じたのか、彼は後ろを向いてなにやらごそごそと準備を始めた。
そしてそれも整ったようで、こちらを向き直り、にかっと笑いながら親指を立てて見せた。
応じてこちらも親指を立てると、こちらも準備完了と受け取ったようで、早速演技を始めた。
「エー、タネモシカケモゴザイマセン。コレまじっくスルトキイウキマリ。オシエテモラッタ」
誰に習ったのか、手品師の決まり文句を言いながら白いハンカチをひらひらとやってみせる。
そしてそれをシルクハットに収め、帽子の横っ腹を軽く二度ほどたたくと、数羽の白いハトが飛び出し、青い空に羽ばたいた。
「おー、やるねぇ! なかなか見事なもんだな、こりゃ!」
ほめつつ彼の肩をたたくと、照れたようにはにかみながらサンキューサンキューと繰り返した。
「ところで、あのハト飛んでっちまったようだけどいいのかい? そのうち帰ってくるんならいいんだけど」
もうどこに行ったかもわからなくなったハトのことが気になって聞いてみた。
「はとダイジョーブ! イッパイイルカラ!」
「まぁ、たくさん飼ってるんなら少しくらいいいのかね」
「イエス! コノナカイッパイイマス」
彼は帽子を指さしながら言うが、当然帽子の中は空っぽだ。
「この中? なんもないじゃないか」
「ノー! ココカライクラデモはとダセマス。コレワタシノまじっくネ!」




