96話 これも青春
ー ガチャ
「さぁ、入ってユミ! 部室久しぶりだろうしね!」
苦笑いしながら部室に入ってくるユミ
ほんと久しぶりなんじゃないかな?
二年生なってから1〜2回くらい?
退部こそしてなかったけどユミは帰宅部の佐伯と一緒に授業が終ると帰っていた
「ほんとに、久しぶり… まさか部活動以外で入ることになるとはね」
ユミはそこらの椅子に適当に腰をかける
わたしはせっかくだからと、雑巾をかたく絞って畳を乾拭きし始める
「どうしたの? 佐伯は?」
「うん、まぁ話しってのはそのことなんだけど…」
俯きながら足をぷらぷらさせたり少し落ち着かない様子のユミ
ぽつぽつと話し始めた
「もうずっとなんだけど マコちゃん(佐伯誠)ってすごく一緒にいたがるのね? わたしのことそれだけ好きでずっと一緒にいたいって言ってくれるんだけど…」
「…そのせいで結構わたしの時間も奪われててね… 最初はわたしも彼氏が出来て嬉しかったり、一緒にいたいって気持ちも強かったからそれで良かったんだけど、だんだん自分のやりたいこともできなくなってきてて…」
佐伯のやつ そんなに独占欲強めだったのか…
もしかしてユミが部活出れないのも佐伯のせいなの?
「クリスマスも親から親戚が来るから家にいなさいって言われてて、マコちゃんにも説明したんだけど すごく機嫌悪くなっちゃって…」
あらら… ユミにとっちゃ気まずいよね
ユミも佐伯のこと嫌いとかじゃないんだろうけど、振り回されてるって感じかな〜
「こんな愚痴みたいなのミサに聞いてもらっても仕方ないのはわかるんだけどさ、最初もなんだかんだ助けてもらっるし… ここんとこの事情も説明したかったしね…」
おいおい、わたしのが経験豊富だっての!
現在のわたしはまだまだ乙女だけどさ?
「クリスマスって、明日だよね? 今日は? イブじゃん?」
「今日はいつも通り一緒に帰って、お昼食べてからまた待ち合わせしようって言ってたんだけど… さっきまたクリスマスの話しになってマコちゃん怒ったから逃げてきた… もう、わかんないよ」
「じゃあもう佐伯は帰ったんかな?」
「わかんない…」
なるほどね、そういうことか…だったら、
「ひとつ確実に言えることは、ユミから謝っまちゃダメってこと! ユミはなーんも悪くないし、謝ることによって佐伯がまた調子に乗るからね!」
俯いてた顔を上げてわたしの方を見るユミ
「マコちゃんが謝ってくるまで待つの?」
「それが一番だろうけど、そういうの男は難しいんよね… 変にかっこつけるから… バカバカしいけど」
うんうん頷くユミの目が少し元気を取り戻してるように見える
「もし、謝ってこれたら大したもんだよ佐伯! でも期待しないで? だから、何事もなかったように話してきたらユミも普通になんにもなかったように接してりゃいいの…」
「なんにも言わず 今までと同じってことよね?」
大きく頷くわたし
「それでまた佐伯がクリスマスのこと言おうものなら」
「ものなら?」
ごくり… ユミは生唾を飲み込む…
「そん時は『前にも言ったよね?わたしの予定』って強めに言ってやれ!」
「つまり、お互い対等だってこと! ユミの予定、佐伯の予定を知った上で二人で約束すれば互いのこと考えてるってことになるじゃん?」
「今だと一方的だよ、ユミの好意に甘えてるだけ!」
うんうん、うんうん、とユミの頷きも大きくなってく
「恋愛なんて対等でなきゃ!!」
ユミはパチパチと両手を叩きわたしの話しに拍手をしていた
「なんかすごい! ほんとその通り! ミサってどうしてこんなに頼りになるの!?」
そりゃごもっとも… こんな青い悩みなんて遠い昔に通り過ぎてきたから
(いまの悩みの方が大変すぎるしね)
「最終的に『好き』なら乗り切れるよ! きっと佐伯も冷静になればわかるはず! もしわかんないって言うなら連れて来な?」
アハハハと笑うわたしはすっかり『おばさん』だった
なんかものすごく久しぶりに『自分』が出ちゃってた気がした
「ありがと! ミサ!! ミサに話してよかった! 頼りにしてますぅー!!」
わたしは畳を拭いた雑巾をもう一度洗って、干した
部室の戸締まりチェックを二人でしっかりして、
ーカチャリ
部室に鍵をかけてユミと二人で部室を後にした
「あれ?美紗緒?」
旧校舎から出たところでマキと出会った
テニスのユニフォームを着ていたから今から部活なんだろう
「そっちは、確か…えーっと、た、た、竹井!!」
さすがマキ! ユミのことも知ってるんだ
「確か佐伯とつき合ってる竹井ユミだ!」
あ、やっぱり情報源はそっち系だよね…
ユミはペコリと頭を下げる
お互い知ってはいるけど…くらいの間柄なんだろう
「あれ?いつもの一緒の二人が珍しい… 佐伯のやつさっきからウロウロしてたぞ?」
「えっ?どこで!?」
ぐっと身を乗り出して佐伯の居場所を聞く
もしかしたらユミを探してるのかも?
「ここ来るまでだから新校舎の方だっけかな? 二年の階らへんだったはず」
わたしはユミと顔を合わせた
マキにお礼を言うと、
ユミはー うん ーと頷いて新校舎へ向かっていった
わたしとマキはユミの背中を見送ってた
「で? なにかあったの? 竹井と?」
「なんだろね?」
はぐらかしたわたしに頬を膨らませるマキ
そのマキの様子が可笑しくて思わず吹き出すわたし
青春っていいなぁ〜〜〜〜〜!!




