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9話 風景


「おはよーー!!!」


ドタドタと慌ただしく階段を降りる音

こんなにからだって動くんだ!?と中学生の自分の軽やかさに驚く!

当時はそんなこと意識することもなかったが一度60代を経験してるわたしにはわかりすぎるほど違いがわかる

ダイニングへの扉を開けると そこには母と父がいた

いそいそと朝食の支度をする母… テーブルで新聞を広げながら朝食を食べる父…

しばらくその光景を立ちつくして見ていた

二人とも当たり前だけど 若くて元気そうに見えた

そりゃわたしが中学2年生の時なんだし それで普通なんだろうけど、亡くなるまでの二人をずっと見てきた身としては驚きと懐かしさが込み上げてきていた


子どもの頃、毎朝のように見ていた朝食の光景

この光景が当たり前だと思ってた現在いまのわたし… だけど当たり前じゃなく永遠じゃなかった…

そんなことわかったのはもっともっと先のことだ

だけど、わたしはその先も経験している

わたしは、母も父も看取ったんだ…

その都度後悔してた… もっとちゃんとなんでも話せばよかったって… 大切に想ってるって伝えればよかったって… いつしか涙があふれてた

こんな朝の慌ただしい時間なのに わたしは悠長に物思いに耽っていた…


「なにしてんの?! 美紗緒!! 早くごはん食べちゃいなさい!!」


⋯⋯⋯あ、思い出した、この頃のかあさんめっちゃ口うるさかったんだったっけ…


「美紗緒、時間そんなに余裕ないんじゃないか?」


広げた新聞の端からわたしをチラリと覗く父

わたしは父の読む新聞の日付を盗み見る


1978年10月02日(月)

(なるほど、月曜日か…)


「あ、うん、おはよー」


ほんとはもっと両親に甘えたり抱きつきたかったりしたかったけど今はがまんしとこ…

そもそもまだ現状が把握すらできてないんだし…

考えるのは今は後回しにしよう

わたしは両親に悟られないよう涙を拭いて、一人ぶつぶつ言いながら椅子にすわる

そんなわたしを怪訝そうな表情で母が見ていた

テーブルには丁寧に朝食が用意されていた

目玉焼きにウインナー、薄切りのトーストが一枚

あとはオレンジジュース…

オレンジジュース? もうこんなの飲めないんよ…

ある年齢からイケる甘さと無理な甘さが出てた

それが何歳から?なのかはわからなかったけど

おとうさんが飲むために淹れているコーヒーのいい香りが鼻についた


「おかあさーん コーヒーない?」


いくつの頃からか わたしの朝はコーヒーになっていた

わたしの注文に驚いた顔をして振り向く母

父もさっきまで見ていた新聞を下ろしてわたしを見る


「美紗緒? あんたコーヒーなんて苦くて飲めたもんじゃない!って言ってなかった??」


「え? そんなこと言った? いつ??」


そんなこと言ってたんだ!? さすがにそんなの忘れてる!! そんな前の事覚えてないし…


「昨日⋯ わたしは一生オレンジジュース《これ》だなぁー!とか言って…」


「えっ⋯⋯⋯。」


よりによって昨日って!!!

めちゃめちゃタイミング悪いじゃん


「なーんてね! 苦いコーヒーでも飲んでオレンジジュースの美味さを実感しようかなーって??アハハ⋯」


「くだらないこと言ってないで 早く食べちゃいなさい!!」


母はくるりと踵を返して背中を見せるとまたいそいそと動き出した きっとわたしたちのお弁当を用意してくれてるんだろう…

父も新聞を目線まで上げると黙々と朝食を食べ出した



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