88話 進路
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「美紗緒は高校卒業したらどうしたいんだ?」
その日の夕飯後、いつもの団欒の席で父がわたしの進路について聞いてきた
わたしが花火大会でいない間に母と話していたんだろう
テレビを観ててもどことなく父の様子がそわそわして見えてたのはそういうことか
「うん、ずっと考えてた… わたし進学したい」
初めて進学の意思を両親に告げた日のことは覚えてる
まだ世間のことなにも知らないわたしにはもう少し時間がほしいんだって、もう少し学びたいんだって
その時の自分の素直な気持ちを その時の精一杯で伝えたのを覚えてる…
「まだ高校生のわたしが社会に出ていきなり働くのが想像できないの 子ども過ぎるし、もっと学びたい…
わがままかもしれないけど進学したい」
ほんとは十分過ぎるほどの人生経験は現在のわたしにはあるけど… でもここは大事な分岐点
外すわけにはいかないところなんだ
「そうか、美紗緒のことだしなんにも考えてないとは思ってなかったけど、いつ話してくるのかな?と思っててね」
そりゃいろんな心配がつきまとうお年頃ですからね
「で、もう志望校は決まってるのか?」
「うん、〇〇短大なんていいなって思ってる」
「〇〇短大??」
わたしは過去わたしが通ってた短大の名前を出した この約三年間どうにかこうにか過ごせてるのも大きな相違がなかったからだと勝手に思ってる
だったら大学も過去と同じところに通うのが筋ってもんだ
「なぜ〇〇短大なんだ? 美紗緒ならもっと上も目指せるだろう?」
・・・えっ? まぁいまのわたしならそうかもだけど… それじゃ困るんですけど
そっか、高校に入ってからは勉強が難しくなって中学の時ほどの成績は残せてないにしても過去のわたしに比べたら現在のわたしの成績は悪くもないもんね…
親だって夢見ちゃうってことなのかな…
「そんなに買い被らないで? 今のわたしの実力だったら〇〇短大くらいが調度いいんだって!」
「美紗緒、勝手に自分の可能性を閉じようとするもんじゃないよ」
・・・ 父さん…そんな風に言ってくれるんだ…
いつもわたしの言うこと肯定してくれてた父さん
過去は進路の相談をした時には『がんばって勉強して行きたいところに行けるように努力なさい』って言ってくれてた
さっきの言葉にしても その時々のわたしの状況に見合った言葉を選んでかけてくれている
母は口にこそ出さなくても頷いてわたしと父の会話を聞いていた
わたしについて父としっかり話し合ってるからこそ黙ってわたしと父の会話を聞いていられるのだろう
親のありがたみや、子を想う気持ちはよくわかってるつもりだ
わたしだって母親として二人の子どもを大学まで出してる… だけど、いまこうしてまた親の優しさ、ありがたみに触れてる
自分が親になって、子育てして、一生懸命がんばってるつもりでも、それはどこまで行っても親目線であって、子ども自身がなにをどこまで思ってるかなんてわかるはずもない
現在ここでわたしを育ててくれている両親にとって もしかしたらわたしがもっといい大学を目指してくれることこそが一番に望むことなのかもしれない
少なくとも現在のわたしの成績が両親にそう思わせてるんだとしたら…
本気でがんばれば現在のわたしなら公立の大学だって目指せるかもしんない
もっと上を目指すと言えば きっと両親は喜んでくれるだろう…
だけど…ごめん、おとうさん、おかあさん
わたしは自分の幸せを選ぶよ
なににも変えられないわたしの幸せを…
勝手かもしれない、お金だってなにもかも全部丸投げなのに自分勝手言っちゃう!
だけど、悲しまないでほしい
わたしは絶対幸せになる! 幸せになって孫ちゃんたちに会う!!
『子の幸せを願わない親はいない』
そう信じさせてください…




