74話 マキのやらかし
「こっちへおいで」
小声でマキを畳の部屋へと呼ぶ
マキは息を潜めて畳に上がってきた
わたしは周りを見回した後、静かに障子を閉めた
「どうしたの? なんかあったの?」
少し安心したのか畳にへたりこんだマキは壁にもたれながら話し始めた
「テニ部の先輩にめっちゃ文句言われた 誤解だってのに」
「えっ?? なんで? どうした?」
「友也と先輩の彼氏が友だちでさ、どっちが力強いか張り合ってさ、わたしのこと持ち上げて力比べするってなって二人してわたしを持ち上げたんよ…
そしたら先輩の彼氏がわたしのこと持ち上げてた所を先輩に見られてたみたいで…」
友也ってのはマキの現在の彼氏
あくまでも現在のってだけね…
「それで?」
「さっき、わたしの彼氏となにしてんの? みたいに怒ってつっかかってきてさ、逃げてきた…」
バカバカしいと思った
そんなことで力比べなんかになんないし、それ見て怒るテニス部の先輩もどうかしてる…
「ちゃんと状況説明したの?」
「したよ、力比べしてたんだって…」
「そしたら?」
「そんなの意味ないだろ?って…」
そこはわかるんだ先輩… わかるからこそマキが無邪気に抱っこされて喜んでるように感じたのかもね…
「どうしよ…めっちゃ先輩怒ってた… ラケットぶんぶんしてさ… 叩かれるかと思ったよ⋯」
「ちなみに先輩って?」
「楠木先輩…」
あぁ〜楠木先輩ね… すごく綺麗な人 テニスがお似合いって感じの 『エースをねらえ』で例えるなら『お蝶夫人』って感じかなー
「綺麗な人はね、プライドが高いの… だから自分の彼氏が例え誤解であっても他の女と、ましてや後輩の女子とイチャイチャしてるとこ見たらプライドを傷つけられたように感じて怒ることありそうよね」
「そういうもんなの?」
そういうもんだろ?と心の中でつぶやいた
敢えて口にしなかったのは相手が高校生だから…
「で、楠木先輩から逃げて茶道部に駆け込んで来たってわけ?」
わたしは呆れ顔をマキに見せながら言った
マキは黙って頷いていた
「こんなとこに入って来て、マキまで根暗になっちやうぞ?」
わたしはここぞとばかりに嫌味で返す
冗談とも本気ともとれる口調で…
「なにそれ?そんなのまだ覚えてたの?意外と根に持つタイプなのね、美紗緒って」
突っかかってきそうな勢いのマキ
最初に言ったのはそっちだろー?
わたしも人差し指を口の前にあてながらマキを見る
慌ててマキはわたしの後ろに隠れた




