71話 ファーストコンタクト
担任の先生が入ってきていよいよ新しいクラス2年生D組が始まった
先生の挨拶の後、軽い自己紹介がおこなわれクラスメイトの顔と名前が一致していく
覚えてる子、すっかり忘れてた子、薄情だなと自分で思いつつもそんなもんだと思う
どれだけ仲良くしていようと、まだまだ17歳だとこれから積み上げて行く時間の方が圧倒的に長い
次から次へと記憶は更新され続け、また上書きもされていく
自分の記憶になにが刻みつけられるかなんてほんとにわからない
あ、そっか…だから一瞬一瞬を大事にしなきゃいけないんだ、なんてわかったふりもする
わたしが自己紹介をしている間、マキがわたしのことじっと見つめていた…
その後、始業式も終わり明日からの予定を聞いたところで今日の学校は終わりになった
始業式はお昼までだったのでお弁当もなく、学校は午前中に終わる
とりあえずユミの様子でも見に行くか、なんて考えながら帰りの支度をしていると…
「重綱さん? だったよね?」
たくさんのプリントをカバンの中にかたしていた手を止め声のした方へ振り返る
声をかけてきたのはマキだった…
「え、うん、そうだよ、重綱美紗緒 あなたはたしか…」
「大泉眞紀…よろしく」
え?なんで?どうしてマキがわたしに声をかけてくるの? マキとの出会いってこんなだっけ…?
「こちらこそよろしく… どうかした?」
わたしは冷静さを装いながらマキを観察する
朝見た男子も今はいなくてマキ一人だ
面識はなかったはずなのにどうしたんだろう
「こないださ、男子と一緒にバス停にいたよね?」
こないだ、こないだ…? あー!! 春休みの森下先輩の時!? わたしはマキに気づいてたけどマキもわたしのこと覚えてたの!?
「男子と…? もしかして、それって春休みのこと?」
「やっぱり重綱さんだったんだ? わたし向かいのバス停から見てたんだよね、うちの制服だから気になって見てたんだ!」
よく覚えてたね…
マキはそういう話し大好きだもんね
確かに、誰と誰がつき合ってるとか敏感だったわ
「あれね、茶道部の先輩 部活帰りに帰る方向一緒だったからね」
「そうなの?彼氏じゃないんだ?」
「まさか? ちがうちがう! 先輩にも失礼だよ」
わたしはくすくすと笑いながらもしっかりと否定する
きっちりと否定しておかないと話しがおかしくなる案件だ
「ふーん… なーんだ、てっきり彼氏かと思った」
つまんなさそうなマキ
きっと過去はこんなことなかったんだろう
だって森下先輩との仲だって違うんだから
「ていうか、茶道部なんだ? 根暗ちゃんなんだ?」
「は? はぁー????」
キャハハ!と、笑い声が聞こえたかと思うとクルリとわたしに背を向けて去ってくマキ
言い返すヒマすらなかった
「ごめんごめん!茶道部ってテニスコートから見るといつも日陰になってるから… そんでみんな根暗なのかなー?って」
捨てゼリフにしても聞き捨てならないマキの言葉
言いたいことだけ言ってマキは教室を出てった
なんなのよ… なにしに来たわけ?
思いもよらぬマキとのファーストコンタクトにわたしは戸惑いを隠せなかった…




