66話 森下先輩へ質問
バス停に向かう道中 森下先輩からユミについて聞かれた
「しばらく竹井さん見ないね? 確か重命さん仲良かったよね? なんか知ってる?」
変にごまかすこともなかったので わたしは正直に森下先輩にユミのことを話した
「なるほどね、それも大事なことだ だったら温かく見守ってあげなきゃね! 青春してるってやつだね」
思ってた以上に理解があるなと思った
茶道部より男なんてけしからん!とか言うんじゃないかと思ったけど、そんなこともなくすんなりと納得してくれたから
なんなら応援までしちゃいそうな勢いだった
「先輩は好きな人とか、気になる人はいないんですか?」
軽い気持ちだった
話題がないよりはいいかな?くらいの…
「いるよ、今度の部長のこと密かに気になってる」
えっ!? 思わず驚いて立ち止まってしまった
そんなにすんなり話すんだ?
今度の部長って、確か…三年生の安藤桃香さん
確かに後輩にも気さくで優しくてなにに対してもきめ細やかな心遣いのできる人だ…
わたしが驚いて立ち止まったことなんて気にもとめてないように森下先輩はペースを崩さず歩いてく…
わたしはその背中を追う
「つ、伝えたんですか? 気持ち⋯」
少し息を詰まらせながらの質問に チラッとわたしを見た森下先輩は、
「まさか? 密かに気になってるってだけ」
前を向きなおしボソッとつぶやく…
誰に言うともなく話してた、わたしと目を合わせることを避けてたのかも
「告白…するんですか?桃香さんに」
「どうだろう? 気にはなってるんだけど、正直まだわからないからね…」
前を向いて話す森下先輩の表情はわからなかったけど
こうもスラスラと話してくれるもんなんだろうか?と少し不思議に思った
「なにがまだわからないんですか? 好きなんじゃないんですか?」
きっとバス停に着いちゃえば森下先輩とはバイバイだ
そうなる前に聞いておきたいことはズバズバ聞いてしまえと思ってた
「彼女は茶道への理解が深い、所作も綺麗で女性ならではの華やかさも兼ね備えている」
わたしは桃香さんを思い出し森下先輩の言うことにいちいち納得していた
「ぼくはね、もしかしたら彼女の茶道への姿勢に惹かれてるのかも知れないのかな?って…」
「だって、彼女のことはよく知らないから…」
なるほど、とも思った。
だからユミのことも理解ができたのかとも…
なにより森下先輩は茶道を愛しているんだ、とも
「で、だ。 重命さんはどう思う? ここまで話したのは女子の率直な意見が聞きたいからなんだし」
えっ ここに来てそういう展開!?
悪いんだけど、森下先輩のことも桃香さんのことも過去じゃほとんど知らなかったんだし、二人の関係がどうなったかなんてわからないし、
「どう?って…どういう意味で、ですか?」
「ぼくが惹かれてる対象…かな?」
いや、そんなのわかるわけないし…
自分でわかってないのにわたしにわかるわけないじゃん…
「または、彼女がぼくのことどう思ってるんだろ?」
悩むとこが根本的にズレてる⋯
考えてるだけじゃわかりっこないだろうな、と思った
「そ、それは、桃香さんに直接聞いてみるしか?」
「どうやって?」
「つきあう…とか?」
「気持ちもわからずにかい?」
「つきあえば、わかるじゃないですか?」
「なるほど」
森下先輩は少し黙り込んで考えてる様子だ
つきあえるかなんて桃香さんの気持ちもあるんだからわからないんだけどね
「ぼくが自分の気持ちに気づくって意味でもそれはありかもだね…」
どういうことだろ?森下先輩ってなに考えてるのかわかりづらい
「それってどういう意味ですか?」
考えてもわかるわけないからズバリ聞いてた
「つまり、安藤さんに話してみてつきあえたらそれはそれで彼女のことが知れるし、断られたら断られたで自分自身がどう感じるか知れる。」
「つまり?」
「ぼくが断られてショックを受ければ安藤さんへの好意があったんだと知ることができるんじゃないかな?」
「⋯⋯⋯」
なんにも言えなかった…
きっとまだ恋を知らないんだろうなとも思った
そんなこと言えるわけないけど
茶道への愛はあるのに…




