64話 茶道に対する想い
「不思議だ、重命さんはホントに茶道部に入るまで茶道を習ったことはなかったのかい?」
「は、はい、そうですけど…」
「僕はキミの茶道に対する興味と理解の深さにすごく感心していたんだ ううん、僕だけじゃない、市原先生だってそうだ 市原先生とはよく二人で話すんだけどキミが茶道部に入ってきてからは市原先生はよくキミの話しをするんだよ」
堰を切ったかのように話し出す森下先輩
次から次へと止められないかのようにでてくる森下先輩の言葉に 今まで持っていた印象と随分違うんだな、と感じた
「僕が初めて茶道に触れたのは おばあちゃんとの遊びだった
小さい頃は内気で家の中で遊ぶのが大好きな子どもだったみたいでね、一緒に住んでたおばあちゃんとよく遊んでたんだ」
「その遊びが茶道だったんですか?」
「まぁ次第にそうなっていったんだろうね… 僕は意味もわからずおばあちゃんの真似をしたり、言われた通りにしていたみたいなんだけど 僕が茶道の真似事をしているのがおばあちゃんはすごく嬉しかったみたいで」
そりゃそうだよ、わたしも孫ちゃんたちと遊ぶのが大好きだったし… よく折り紙を作ってあげたら喜んでくれたな… 真似しようとしてた孫ちゃんたちが折り紙をぐちゃぐちゃにしてたりしたっけ…
「それはおばあさま喜びますよね! お孫さんである森下先輩と遊ぶのはおばあさまにとって最高の時間だったんだと思いますよ!」
「うん、僕もおばあちゃんが喜ぶ顔が見れるのが嬉しくてもっともっとって茶道にハマっていったんだよね…」
なんだろう…うまく言えないんだけど、森下先輩の言ってることにキュンとしたわたしがいた
そんなこと孫ちゃんたちに言われたら間違いなく抱きしめてしまう自信があったから…
「や、や、優しいんですね、、、森下先輩は…」
そう言うのが精一杯だった
不覚にもさっきの森下先輩の言葉に孫ちゃんたちを思い出してうるうるしてしまっていたから
「重命さん、どうしたの?」
「め、目にゴミが入ったみたいで… い、痛い…」
天井を見ながら目をパチパチすることで涙でゴミを流そうとしている小芝居でこの場をごまかそうとした
「どれ? 見てあげるよ…」
ぬっと近づいてきた森下先輩の顔が目の前一面に迫った
「だ、大丈夫ですからっ!!!」
さすがにびっくりしたわたしは両手でブロックしてしまう 森下先輩に悪意がまったくないのはわかってるけど さすがに近すぎるし、状況に困る!
「ならいいんだけど、洗い流しておいでよ」
嫌な顔ひとつせずさっきまでいた場所に戻ってお茶菓子を食べる森下先輩…
きっとこういう人なんだ、ただの優しい人
わたしはそそくさと立ち上がりシンクで顔を洗いながら涙も洗い流した




