61話 思いつき部活動
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ジリリリリリーーーン ジリリリリリーーーン
ある春休みの午後
部活動もなく、どこへ行くともなく、今日もベッドでゴロゴロとぼんやり本を読みながら過ごしていると、電話の音が響いてきた
「ハイハイ、今でますよー」
いつもの調子で母が電話に話しかけながらかけよる
「はい、重命です⋯」
母が話す声が聞こえてきて、わたしは意識を電話から読んでいた本へと戻す
「美紗緒〜、茶道部の森下さんって方からお電話よ〜」
⋯⋯⋯えっ!? 森下先輩!?
ガバっとベッドから起き上がると手にしていた本を枕元に置いて急いで部屋を飛び出し階段を降りた
母から右手で受話器を受け取ると左手で口の周りを覆いながら話す
「も、もしもし 美紗緒です…」
挨拶もそぞろに なぜだか小声で返事をしていた
「あ、重命さん? いきなりでごめんね もし明日お暇なら茶道部に来ない? 春休みはうちは殆ど活動してないから退屈で… 気まぐれ部活動みたいなのでも、どう?」
森下先輩の言葉に一瞬戸惑う
これって…どういうことなんだろ…
まさか?ってことはないよね…
「えっ…あのっ…それって二人でってことですか?」
あ、思ってたことそのまま声に出ちゃった…
「え? まさか? アハハハ、僕にはいくらなんでもそんな権利ないよ アハハハ」
受話器の向こうで森下先輩の笑い声が聞こえる
ただただ恥ずかしかった…
「わ、わかりました! わたしも退屈してたところなので気まぐれ部活動楽しみにしています!」
「よかった 今のところみんな予定あるとかで断られてたから嬉しいよ じゃ、そういうことで明日よろしく! 僕はもう少し声かけしてみるね」
森下先輩は明日の予定と用意するものをわたしに告げると電話を切った
ー チン!
わたしは受話器を置いて振り返ると、そこには母がいた… ずっとこんな近くにいたの⋯?
「茶道部の先輩?」
「うん」
「明日茶道部行くの?」
「うん」
「へ〜」
「なによ?」
「べつに〜」
なにを考えてるのかわからない母の態度…
表情だけはニヤニヤしていた
(そんなんじゃないし)
わたしは心の中だけでつぶやいた
部屋に戻ったわたしはベッドに寝転んだ
読みかけだった本に手を伸ばしてはみたけど
別に読むつもりもなかった
退屈だった春休みに少し予定ができたのも嬉しかった
ここんとこ変な寂しさを感じてたので久しぶりにみんなと会えるのが楽しみだった
みんなといるとその中の『重命美紗緒』でいられたから
こんなことだってもちろん過去はなかったことだけど、いいよね…?
『こんなこと』の積み重ねにだんだん慣れていってる自分がいた…




