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53話 詩



文芸部の部室はガラガラだった


それでも数名の部員らしき人がいて部室の隅っこで話している わたしはできるだけ静かに部室へ入った

『どうぞいらっしゃい! ゆっくり見て行ってくださいねー』

それでも気づかれるわけで、声をかけられる

ペコリと頭を下げ部室の中へと進む

部室の四方をぐるりと囲むように展示された作品たち

真ん中には机が集められ同じように作品が展示されている 中には文化祭用のものであろう油絵がキャンバスに描かれている

本格的に見えた油絵もよく見るとマンガのキャラクターだったり有名人だったりと なるほど美術部とは違うんだ と納得させられる


どうやら継人つぐとはここにはいないみたいだ

もしかしたら継人も校内の出し物を見に行ってるのかも知れないな、なんて考えながら作品を見ていた

自然と継人の名前を探してしまう



[いまのぼく]  3年 永久ながひさ継人つぐと



動かなきゃ始まらない

誰に頼るわけでもなく

自分が動かないとなにも変わらない

なにもしなくても 変わっていく

僕を置いて変わっていく

いまが過去と未来のはざまなら

過去の自分に悔いを残さないように

未来の自分に希望と言う名のバトンを渡せるように

いまを精一杯一生懸命に生きよう

誰のためでもない 自分のために

その自分が誰かのためになれるのなら

僕がいまここにいる意味があるように思える

なによりも未来の自分に胸を張れるように



継人らしい詩だな、と思った

受験を控えてなんだろうな、なんて感じるのはやっぱ年齢のせいなんだろうか?

不安や焦りを感じる中にも 自分を信じなきゃって想いを感じる…

わたしは継人の詩をなんども味わうかのように眺めていた


「あんまりじっくり見られるのはやっぱ恥ずかしいもんだなー」


突然後ろから聞こえた声に自分がこの場にどのくらい立ち止まってたのかわからず慌てた


「す、すいません! ど、どうぞ!!」


サッと横に避けて急いで場所を譲ろうと振り返った先には、継人がいた

照れくさそうにニコニコして…


「詩や俳句や川柳とかってさクラブの活動としては地味だよねー。 いざこうして展示してもさスペースもこんなにちっさくて」


「そんなことありません! 素敵だなと思います」


突然話しだした継人は どうしてだか自虐的とも言える発言をしてた


「そう! 素敵なんだよね、だってこれだけを書くのには自分の想いが溢れてこなきゃ書けない!そのための時間を僕は文芸部で大切な仲間たちと過ごしてきた」


わたしはポカンとしながらも頷いていた


「高校生活なんてたった3年なんだよ? あっという間って思った時にはもう終わる! 大切に過ごせよ、後輩!!」


ハハハと笑って立ち去って行った継人

わたしじゃなかったら絶対『変なやつ』認定されてるだろう…


だけどわたしには継人にとって文芸部は大切な場所だったんだろうなと感じた

受験が近づいたり、卒部したりと肌で高校生活の終わりを感じちゃってるんだろう

おセンチになってるってとこかな…

後になって あの時、あの場所 なんて思い出すことなんていくらでもある

まさに今の継人にとっての文芸部がそれだってこと


⋯てか、さっき声かけたのわたしってわかってたのかな⋯?




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