41話 高校一年生
1980年 4月
今日は特別な日だ
二度目じゃん?と言われても今日が特別な日に変わりはない!
真新しい制服に袖を通す!気持ちも新たに引き締まる
鏡に映る自分を見る 襟はちゃんとしてる? ネクタイは曲がってない? チェックは怠らない!(最初のうちだけだったけど)
まだまだ似合わない制服姿だけど ひと目見ただけでピカピカの一年生だとわかる まさに制服に着られていると表現できちゃう出で立ちだった
そう、今日は高校の入学式!
今日からわたしは県立神城南高校の生徒!
清々しい気持ちと、それに応えるかのような晴天がわたしの新たな門出を祝ってくれるかのようだ
爽やかな春の陽気に誘われて今日からわたしの高校生活が始まるんだ
わたしは『いってきます!』を告げると家を飛び出した
昨日と今日でなにも変わらない世界
だけどわたしは昨日と今日で変わってる
だって今日から高校生だから♪
いつもの坂を下ったバス停でユミと待ち合わせをしてる これからはユミと一緒にバスで通学
「おはよー!」
久しぶりに会ったユミは髪を切っていた
ミディアムショートくらいあった髪の毛もショートカットと言えるほど短く切った髪型は 大人しそうに見えていたユミの印象を活発な少女に見えるくらいには変えていた
気分だけじゃなく見た目も変わりたかったのかな?なんて思ったりもした
久しぶりのユミとの会話はこれから始まる高校生活に向けての話題だった
クラスや部活の話し、友だちや勉強の話し、話せることはいくらでもあった
不安と期待の入り交じったユミの気持ちが伝わっくる
小学生から中学生になる時もこんな感じだったんだろうか?なんて少し考えてみる…
わたしが過去に遡って来たのは中学2年の2学期、そこからの追体験はあるけどそれ以前となるとさすがに思い出すことは困難だ
バスの外を流れる景色がまるで時の流れのように感じ、その速さを実感してしまう…
バスに乗って学校に着くまでの短い時間じゃユミが満足いくまで話すには足りるはずもなかった
それだけユミのワクワクが伝わってきてたから
「いよいよだね…」
県立神城南の正門前に立ち止まるわたしとユミ 『いよいよ』に身震いしてるユミ
わたしたち以外にも同じように立ち止まる子たちが見えた
きっと一年生だろうな、と感じた
ベビーブームの煽りを受け5年ほど前に校舎の拡張をしたらしい学び舎の佇まいはさながら団地のように見えなくもない… 真新しいけど味気ないコンクリートの建物の奥の方には木でできてる旧校舎がひっそりと佇んでいた
学校見学や入試の際に訪れてはいたが 今日は晴れてここの生徒としての登校だ
ユミの身震いがなんだかわたしにも伝染ってくるように感じた
「よし!」
小さく頷いたユミはわたしの手をとって校門をくぐる
「こうしてると落ち着くから」
わたしを見て照れくさそうに笑うユミ
髪を切って見た目の印象は変わっていてもユミはユミだ 自分以上に変わる周りの環境に不安がつきまとう…誰でも最初はそうだよね、なんて思いながらわたしは繋いだ手をそっと握り返した
校門を抜けてしばらく歩くと たくさんの生徒が集まっている場所が目についた どうやらクラス表が貼ってあるらしい
わたしとユミはドキドキしながらクラス表を見に行った(もちろんわたしは知ってるんだけどね)
「ミサと一緒のクラスがいいなー」なんてユミはかわいいことを言ってくれていた… 大丈夫だよ、わたしとユミは同じクラスだから、なんて心の中でわたしは呟く そんなユミの想いとは裏腹にわたしが探していたのは別の名前だった
「あった!あったよ!!ミサ!! E組!! 一緒だよ!わたしたち!!!」
飛び上がってわたしに抱きついてくるユミ
嬉しさよりもホッとしたのが勝ってるんだろう
さっきまで感じていたユミの緊張が少し解れていくのを感じた
(⋯見つけた)
ユミと抱き合いながらもわたしは探していた名前をクラス表から見つけていた
(大泉眞紀… B組だったんだ…)
辺りを見回してもマキの姿を見つけることはできなかった それだけたくさんの生徒が集まっていたから
「ミサっ、いこっ!!!」
わたしとユミは一年E組の場所を確認すると人混みを掻き分け教室へと向かった




