117話 大切なもの
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その日のマキとの帰り道、噛み合わない話しに疲れたわたしは途中から無言になっていた
いくらわたしが土井くんとは関係ない、そういう仲でもないと言ったところでマキはわたしの必死で弁解する様がおもしろくて仕方ないと言った感じでからかってくる
無言であろうとなかろうとこの日はさすがに疲れて帰った
お風呂に入って、ご飯を食べて、いつものように過ごしていても早くベッドで横になりたいと考えてた
きっと、きちんと頭の中を整理しなきゃいけないと思っているからだ
自分の身体?頭?がいま求めてるのは、きっと、そういうこと…
なんて考えながら部屋に戻ったわたしはベッドへ身体を放り出した
ほんとは少しでも勉強もしなきゃいけない、宿題だって、明日の学校の用意だって、そんなこと全部わかってたけど今やらなきゃいけないこと、考えなきゃいけないことはそんなことじゃない
これまでだって過去と同じルートを絶対に外れてないなんてことはないと思う
だって、大きな出来事以外はふだんなにしてたなんてまるっきり覚えてなんかないし、覚えてることの方が少ないくらいだ
だから余程のことじゃないことはわたしが勝手に目をつぶっていた
だけど、大きく違ってることがやっぱりわたしの過去を変えようとしている
ううん、もしかしてそれはわたし自身が犯してしまってることなのかもしれない…
『茶道部』現在間違いなく過去と最も違っちゃってる
故に『土井くん』って存在も出てきてる
もしかしたら土井くん自身は過去の茶道部にもいたかも知れない…わたしが知らないだけで
だけど少なくともわたしの過去の記憶には存在していない
しかも、森下先輩や吉田くんといった存在よりも明らかにわたしへの干渉は大きいように思える
彼の存在がこの先マキがわたしへ継人を紹介してくれる未来に影響がなければいいけど…
もし…もしだよ、わたしが運命が変わるのを受け入れるのなら…、土井くんともっと仲良くなってもいいかもな、土井くんのこともっと知ってもいいかな、なんて思ったりすることもできる
だったら、大学だってもっと目指せるだけ上を目指していけるのかもしれない
現在が楽しくないわけじゃない…
だから悩んだり迷ったりすることだってある⋯
ー ガバッ
居ても立ってもいられなくなったわたしは勢いよくベッドから飛び降りると勉強机に向かう
デスクマットの下から孫ちゃんや子どもたちの似顔絵を取り出した
自分で描いた似顔絵… 上手じゃないかもしれない、似てないかもしれないけど その絵が子どもや孫ちゃんたちだと言うことはわたしにはわかる
わたしにしかわからないんだ…
ついさっき自分の頭の中に浮かんだ考えを思い出して涙が出る…
ー 会いたい… 会いたい…
舞、瞬、ともくん、
みゆちゃん、りんちゃん…
まさかこんな気持ちになることがあるなんて思ってもいなかった
それだけわたしの置かれた立場や状況が違ってきているんだ
だけど、だからこそ、わたしはもう一度心に誓った
ー 絶対にわたしはみんなに会うんだ! ー
これからもいろんな選択に迷うこともあるだろう、だけど今誓ったことだけは迷っちゃいけないんだ!
その日、わたしは似顔絵を枕元に置いて眠りについた




