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小説

暗い霧の街

作者: 永井晴

お金持ちの家に生まれたその子は、生地のしっかりとした服を着ていたが、何も飾るようなものはなかった。ただ何を求めるでもなく暗い霧雨の街をさまよっていた。

ある夜、少年は橋の下に自分よりも若い男の子を二人見つけた。彼らはボロを着て、けばだってしまった毛布で互いを包んで温め合っていた。どうやら二人は兄弟らしかった。少年は弟の方と目が合ったが、咄嗟に目を逸らしてしまった。そして、そのままの足で街のパン屋に閉店際ギリギリで駆け込んだ。それから少年はポケットにあった硬貨を全部はたいて、腕にいっぱいのパンを抱えながら急いで雨の街に戻った。何処も全くの人気がなく、世界は崩壊の時を静かに待っているようだった。

橋下の子供たちは怪しがりこそしたが、最終的には大きな紙袋を抱きしめてパンをほおばった。

少年の一時の満足はすぐに暗い雨に洗い流された。もはや寒気の裏返しにも思えた。子供たちは一瞬たりもとも充足の時を見ないというのに。

少年は何も告げずにその場を立ち去った。何だか、全てが浅ましく感じられた。橋の上、一つの街灯が寂しげな舞台を照らしている。霧のような雨は辺りに白く、ただ漠然と存在している。遠くに淡く光って見えた小さな灯りが消えた。少年はいつものように独りであった。

二人の子供は目の前の川に大きな水しぶきが上がるのを見ていた。少し水面は泡立ち、やがて元に戻った。

古びた橋には、雨に染みてずっしりと重くなってしまった綺麗な服のみが残っていた。


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