『へたな朗読者』
その朗読者は、必ずしもうまい朗読者とは言えませんでした。しかし、その朗読者本人は、壁の厚い、窓の小さい家に住んでいて、その家で朗読の練習をしていたので、浴室で歌を歌うとうまく聞こえるのと同じ理由で、自分の朗読を、実際よりもうまく感じてしまっていたのでした。
ここまでなら、特にどうという話でもありませんが、その朗読者は、自分の朗読を多くの人に聞いてほしくなってしまいました。小さなホールを借りて、速記問題朗読コンサートを開こうと企画したのです。
公共のホールを調べたところ、市民の文化活動に使う場合、入場無料なら、出せないこともない金額で借りられることがわかりました。さらに、小ホールと大ホールの使用料が同じだったので、大ホールを借りてしまいました。
当日の観客は、知り合いの速記者が数人でしたので、被害者は少なく済んだのですが、朗読者の、その後の朗読者人生にとって、大きな汚点となったのでした。
教訓:朗読コンサートは、誘われても行かない、かな。