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49.愚かなりアルタ総督 世を狂わす怪書の正体!

 初めての大陸旅行の上、更に文化の都行きを強引に押し付けられた私ー!

 ガケっぷちを飛び越えて大陸の、更にガケっぷちから再ジャーンプ!


 なんて私の気持ちを知ってか知らずか、ザイト様が粗方をさっし調べを付けていたケニエに聞きます。


「この騒動の後ろには?」

「今のところ確認できていませんが、懸念されているシャクレ4世の影響はなさそうです」


 あの糞垂れジャクレ顎国王、関係なし?!


「何故?」

「シャクレ王国には技術・文化・芸術の本拠に手出しする伝手が無い様です」

 ジョボイですわね。


「まだ上陸して1日なのに…」

 呆れて言ったらその答えは…

「先行させていた部隊に外交事務所等を当たらせ、無電で情報を分析させました。

 カラクリナ様が自ら運転されたのもこの情報を鑑みてです」

 ほええ~。何という知の連携!


「貴女を連れて来てよかったわ~」

 ケニエは跪いて答えました。

「御恩を返すには程遠いです」


 申し訳なさそうにクリナが若い技師達に詫びつつ頼みました。

「技師の皆さんにアホ兄の影響がある地区を共有して、重点的に補強工事をお願いします。

 でも私は、実家の命に従ってアルタへ戻らなければいけません。

 これ以上奴を放って置けば、他の産業を潰されかねません」

 皆が頭を抱えた。


「門外漢ながら発言します!」

 と、フナノリア様。

「この大工事にここまで妨害出来るという事は、それなりの厭らしい政治力があるのではないでしょうか?

 恐らくは、アルタの重鎮を影響下に置いて、失敗の責任を全てカラクリナ様に押し付ける準備も出来ているかと推測します」


 心配される最悪は、現実では最良とザイト様が言いました。

 頭が痛いですわね。

「カラクリナ様。如何にその奸物と戦われるのでしょうか?」


 カラクリナ様は、深呼吸して、微笑まれました。

「政治に関わる立場に無い筈の軍人、フナノリア様に心配させてしまい、申し訳ございません。

 そして、ご心配とご忠告を頂き、有難う御座います。本当に良い出会いを得ましたわ」

 一転して厳しい表情で。

「最早アルタはツンデール様の友たり得ません。

 敵がその気なら、焦土戦術です。

 全ての技術権利をクソ兄に否定して頂き、破棄して頂きましょう。

 そして、改めてフロルに移譲しましょう」

 げ。


「貴女の故郷の権利を他に譲ってしまうのですか?」

「捨てたのは向こうです。世界を変える力を失ったアルタはもう滅びるしかないでしょうね」

 クリナは寂しそうに言います。

「それは彼らの愚かな決断なのです」


「あなたはアルタを裏切ったと言われませんの?」

 尚も心配するフナノリア。

「ご心配頂きすみませんが。

 アルタの総督は交代制で、再任されませんのよ?

 なので任期が終われば私もタダの商人の娘です」


 じゃ何で貴女の兄は貴女を排除しようとしたの?

「あのアホ兄はそれを世襲制にしようと企んで、兄に甘々な父がそれを咎めないのが原因です。

 もう我が家はアルタに留まれないでしょう」

「何もそこまで実家を追い込まなくても…」


 その時答えたカラクリナの顔は…

「力を持った者の愚かな決断は、多くの命を奪い、多くの幸せを産む未来への道を閉ざすのです。

 挑んで、入念に用意して、それで起きた事故であれば未来は開けます。

 しかし、愚かな怠慢で起こるべくして起こされた時、それは決して許されない事となるのです。

 我が家は、最早、既に許されない存在となってしまったのです」

 もう親とか家とかを越えた決意に満ちた表情となっていました。


「私も同行します」

 気が付けば私は口走っていました。

「技術提供元は私の領地です。

 引導を渡すのは私の役目です」

「待ちいな、契約纏めたウチの出番奪うなて!」

 そうでした!

「ザイトはん、論破要員として同行してもらえんかいな?」

「私からもお願いしますわ」

「喜んで。愚か者の醜い踊りを肴に乾杯しますか」


 巡礼鉄道は三歩進んで二歩下がった感じでしょうか。

 私達はフナノリア様の指揮する鋼鉄艦でアルタへ向かう事とした。


******


「カラクリナ・キヨーネ・アルテ・アスティ・マルコ・トレビアーノ!

 お前は未熟な技術で総本山に災いをもたらし、アルタ共和国の名誉を地に落とさんと企んだ犯罪者だ!

 この拙い技術への認可を取り消す!」


 文化と芸術の頂点と言われたアルタ共和国の議会。

 そこはアホの独壇場と化していました。何故?!


「畏まりました。

 私はトレビアーノ家の名を捨て、アルタを捨てます」

 カラクリナ様が秒で返しましたー!


「ゴリア王国はアルタ共和国の一方的な外交欠礼に対し国交断絶、技術提供の拒否を宣言すると同時にフロル公国とへの技術移転を宣言します」

 トリッキも間断なく畳みかける様に宣言し、議会の一同は眉間に皺を寄せながら誰も何も言いません。


 で、私は…。出番なし!!


 何だかその昔、って言ってもつい2年だか前に見た様な景色ですわね。

 ここは私、あのクソ兄にアックスボンバーにブレンバスター、ジャブアッパーでノックアウトする役でしょうか?

 でもアルタ一同が固まってて何も言って来ないので私も動けませんしー。


 更にトリッキが追い打ちを掛けます。

「なお、巡礼鉄道に対するサボタージュについて、ボルケノ王国、ボーシー王国から逮捕状が出ています!」

「「「何だってー!!!」」」

 あ、何も言わない議会のオッサン達が初めて動いた!


「更に総本山からもサボタージュの首謀者への審問を得ています。

 アルタから明確な回答が無い場合は、総本山は今後アルタとの取引や宗教行事の停止、司教の引き揚げも検討するとの意見も伺っています」

 あら。再び一同が固まりました。


 そして、総督、トレビーノ閣下が。

「カラクリナ。そこまでにしてくれないか」


…は?

 カラクリナ様は、表情も変えず実の父に返しました。

「総督、仰る意味が解りません。これは外交的に相手方から…」

「お前の我が儘だろう?もう女の子のお遊びは御仕舞だ。

 全部元に戻すんだ」


 ダメダメですわこの総督。

 あ、トリッキがニッコニコですわ。


「総督閣下はここにはいらっしゃらないのですか?

 どなたがこの国の行いに対して責任を負われているのか、さっぱり私にはわかりませんが?」

 これにもこのダメ総督は…

「王女殿下とて、まだ少女だ。国交を担われるには…」

 言いやがった。


「既にアルタからの攻撃は我がゴリア王国に放たれた!

 数多くのサボタージュは我が国の名誉を汚し、頻りに無辜を殺傷する攻撃である!

 あの男は目の前で起きている事も見えない盲と思える。

 他に、誰か責任を取れる代表者に通知しなさい。


 私は女王陛下メリエンヌ3世の全権大使として、アルタ共和国に宣戦布告します!」

「お嬢さん!お遊びはそこまでだ!」

 駄目だ、全然話にならない。


「総督!これはもう戦争が始まってしまいます!」

 ダメ親父の隣の中年が叫んだ。

 しかしトリッキはそれすら否定する。

「いえ、始めたのはそちらですよ。もう戦争は始まっています」


 しかし駄目親父はやっぱり駄目駄目だ。

「女如きが国について論じるというのはふざけていませんか?」

「それは我が女王への侮辱と受け止めます」

「そもそも神は女を…」

 嗚呼、こいつも宗教を自分の都合でしか見てない狂信者だ。


 トリッキが頷いてしまいました。

 私は窓に向かい、信号弾を打ち上げました。やった!仕事があった!

「今何をした?!」

「愚かな貴方達に、現実をお知らせします」


 すると、窓の外に声が響きました。

「アルタ共和国全員に告ぐ。

 只今、アルタ共和国は、ゴリア王国に対し戦争を宣言した。

 これから、ゴリア王国海軍はアルタ共和国を攻撃する。

 戦闘の意思の無い物、アルタ共和国の戦争に同意しない物は、直ちにアルタ共和国を退去せよ!

 これは脅迫ではない。

 既にアルタ総督トレビアーノの息子によってゴリア王国に向け始められた戦いである。

 先ずは聖リオネ聖堂周辺半歩から退去せよ。

 後8半時(15分)後に、聖リオネ聖堂は消滅する。

 直ちに退去せよ!」


 アルタの町にフナノリアの宣言が木霊した。

 同時に、眼下の広場から人々が逃げだしました!


「御飯事は止めろ!大人の言う事に従って全部元に戻すんだ!」

「御飯事はお前の頭ですわ」


 トリッキが私の反対側の窓を開けると。

 轟音が響き、続けて更なる炸裂音が。

「うわっ!!」「ああ!!」「聖リオネの塔が!」

 フナノリアが指揮する艦が、アルタのシンボル、聖リオネ聖堂の尖塔を破壊しました。

 砕けた塔は、大聖堂に倒れ掛かり、その天井を叩き砕きました。


「これでも御飯事と申されますか?」

「お前達はとんでもない事をしでかした!」

「皆様はどう思われます?

 ゴリアとボルケノ、ボーシー、総本山が御飯事してますの?

 この目の前の事が見えていない愚か者が御飯事してますの?」


 すると、先程の中年が立ち上がり。

「総督の解任を発議します」

 その声に従って、アホ兄以外の全員が起立した。

「我が技師団もアルタを捨てます。本日からガラス職工はアルタでの作業を停止します」

「鋳造技巧団もアルタを捨てます」

「陶芸職工団も捨てます」

「総督!降伏して下さい!今ならまだ交渉の余地があります!」


「お前達!相手は年端も行かない、何もわかっていない小娘だぞ?

 世界の最高峰のアルタが!神が男の下に作られた女に傅くのか?

 神への冒涜…」


 再び轟音が響きました。

 今度は壮大な大聖堂が、その中央を穿たれて、内側に向かって崩壊しました。

「うおお!聖リオネが…我らが守りが!!」

「ゴリア王女殿下!もうやめてくれ!アルタは戦う意思などない!」

「全面降伏とサボタージュへの賠償を要求します。

 それと総督解任、議会の解散、ゴリアによるアルタ代官所の開設を要求します」

「無茶な!」

「それでは独立国ではなくなる!」

 議員は口々に反論します。


「それでは独立を懸けて戦って下さい。

 なお、我が艦は一隻で半日あればアルタの全ての建築物を破壊出来ます」


 すると、今まで茫然としていただけのアホ兄が、無駄口を叩き始めました。

「お前達!我がトレビーノ家に逆らうつもりか!

 こんな小娘共に尻尾を振るのか?!

 我が世界最高峰の!」


「あーうるせーなー、出番やツンデールはん」

 やった。

 とりあえずアックスボンバー。

 続いてブレンバスター。

 ジャブ、アッパーでノックアウト。

 はー、いい気持ち。


 何か真っ赤な血ダルマと化したヤカマシイ奴を見て、皆さん三度黙り込んだ。

「で?どうされます?次は聖母聖堂を標的にしますか?」


 中年副総督が跪いた。

「全面降伏は出来ないが、ゴリアへの謝罪とサボタージュ犯人のボーシー、ボルケノ両王国への引き渡し、賠償は行う!」

「貴様!」

 愚かな元総督が叫んだ。

「トレビーノ総督、貴方は既に総督の地位を喪失しました。

 アルタの独立を、貴方の妄想のためにぶち壊してしまった事を、未だに理解できていない!

 息子の躾も出来ていなければ、貴方自身も、とんでもない盲だったのです!

 お前がアルタの未来を打ち崩してしまったんだ!

 我らの守護神を打ち崩したのはお前だ!!

 何故!あんたみたいな立派な男が…こんな馬鹿に…!」

「悪いのは小娘共…」

 衛兵が乱入し、杖で総督をボッコボコにしました。私の出番…


「王女殿下、我々は直ちに罪人を裁き、関係修復に全力を尽くす!」

「いえ。その必要はありません。罪人はこちらで拘束し連行しますし、関係修復はもうありません」

「しかし!鉄道技術の承認が!」

「それはもうフロル公国に内諾頂いています」

「そんな一方的な!」

「一方的なのはこのクソ共でした、我が国は自衛の策を取っただけです」

「何卒!折角結んだ技術承認を…」


 おや?窓の外、遠い海に帆船が来ましたよ?

「あー、貴国の艦隊が集結しましたね。

 殲滅してよいですか?」

「降伏を指示しろ!」

 馬が港に向かい、小舟が白旗を振りつつ艦隊に向かった。


「大丈夫ですよ。あの艦隊には、我が艦の力を充分ご理解されている士官の方々がお乗りです。

 コイツラと違ってね」

 既にトレビアーノ親子はアルタの衛兵に束縛されていました。


 帆船が退き、ゴリアの旗を掲げた鋼鉄艦の増援が来ました。


「この愚か者の被害に遭うところだったボルケノとボーシーの制圧軍が来ました。

 戦いますか?降伏しますか?」


 副総督は崩れ落ち、声を絞って答えました。

「降伏します…」


 ここに、数百年に亘って文化、芸術、技術、商業そして海軍の覇者であったアルタ共和国の主権は一時ゴリア・ボルケノ・ボーシー連合によって奪われることになった。


 無言で窓の外を眺めていたカラクリナ。

 彼女は涙を堪え切れずにいた。

「もう聖リヨンは私達を守ってくれなくなりましたね」


「いえ。むしろ貴女が聖リヨンを守ったのではありませんか?」

 私は思わず彼女に言いますが、彼女は悲し気に首を振るだけです。

「戦士ツンデールの言う通りです」


 え?私いつ戦士になった?

「さっきですよ」

 酷いー!

 それは兎に角。


「クリナ。貴女が鉄道に埋め込まれた罠を見抜かなければ、この外道の思う通り悲劇が起きて、この国は殲滅されていたでしょう。

 主権を失ったとはいえ、アルタはまだ生きています。

 聖堂も再建すれば良いでしょう。

 貴女と、ここの皆様にその意思があれば」


 私達は総督親子を捕縛し、ボルケノに引き渡しました。

 入れ替わりに占領軍の士官が副総督に降伏文書を突き出し、署名を求めました。

 トリッキも署名し、この愚かな総督親子の一幕は終わりました。


 そして私達は鋼鉄艦で総本山へ。


******


 鋼鉄艦の大浴場で。

「疲れたなーもー」

「嵐の様な行脚でしたわね」

「一番肉体労働したの私ですわよ」

「流石戦士ツンデールや!」

「その戦士ってヤメテー!」


 しかしクリナの顔は晴れません。

「私は…母国を滅ぼしてしまいましたわ」

「悪いのはあんたやない。アホな男共や」


 ホントにそうですわ!

「目の前の現実を見るって事はそんなに難しいのかしら」


 そう呟くと、トリッキが意地の悪そうな笑顔で。

「ツンデールはん。あんたかて自滅必至の夜襲…」

「何でそれをー!」

「ザイトはんにお二人の馴れ初めを聞いたんや~」

「ヤメテー!あと馴れ初めとか言わないデー!」

 あのオッサンはペラペラとまー!!


「あははっ!」

 おや?クリナが笑った?

「ツンデール様も大概無茶しますよね?」

 そうかしら?

「大の男相手に殴る蹴る、脳天逆落としにするなんて、フツー出来ませんよ!」

 そうでしたー!

「いやー傑作だったわ。台本書いて王国劇団に売っちゃろか」

「ヤメテー!!」


「しかし、皆様よくこんなご一緒にお風呂に…」

「まーウチら仲間やさかい」

「そうですわ。早く巡礼線を完成させて、ゴリアの皆も呼んで。

 皆でまた乾杯しましょうよ!」

「ボルケノには病気を治してしまう温泉があるそうですよ?」

「そらええな!巡礼と温泉、観光!いっそあの火山に昇る鉄道でも出来へんかな?」

「凄い事考えますわね!…我が国にもそういう考えの持ち主がいてくれれば」

「あーもう、過ぎた事は考えんなて!」


「あの…すみません」と入って来たのはフナノリア。

「この後風呂を男性と交代するので、ご一緒をお許し下さい」

 またなんだか令嬢組が一緒にお風呂ですわー!


「こりゃアレや!酒や!ワイン持ってこんとな!」

「お風呂でお酒は危険デスヨー!」


 ああ。いつものわちゃわちゃですわ。

 カラクリナに笑顔が戻ります。

 大丈夫。賠償問題が終わればアルタも再起に向け動き出すでしょう。

 貴女には、私達から学んだ技術があるのですから。


******


 相変わらず景気よく煙を上げる火山を眺めつつボルケノ港へ。

 再度の試運転の結果は、結局線路の敷き直しになったため寸断状態。


 工区巡視用に鉄道と普通の車輪の両方を備えた馬車で視察するにつけ、一同は頭を抱えます。トリッキがため息交じりに吐き出します。

「まー原因はアレやけど、開通予定繰り下げやなコレ」

「いいえ!」

 毅然と答えたのはクリナ様。


「アルタの、技術を忘れた愚か者の償いはアルタが果たします。

 幸い各工区を指揮頂いているのはメイスン様の優れたお弟子さん達です。

 アルタ全市民を動員してでも償いますわ!」


 そこに、シャクネッツでお会いしたことのある若い技師さんが報告しました。

「お嬢様!基礎工事は既に補強できています。

 後は線路の敷き直しで…」

「いえ、最初の手抜き工事の影響が分からない以上、安全基準を高く取りましょう。

 土魔法使いを動員して基礎を再度固めます。基準の1.2倍、出来れば1.5倍。

 既にアルタからの要員はボルケノに近づいています」


「クリナはんはな、嘆いていただけやない。何をやったらアルタの独立が回復できるかあの場で考えてな。

 その策をあの副総督に指示してたんや」


 ほえー!出来る女は違いますわー!

「あんさんも見習いぃ?負けたと思ったら終わりや。

 負けたと思うまで人間は負けへんのや。」

 逞しいですわね。私も、負けていられませんわ!


******


 追って来たアルタの貴族には土魔法の使用以外を禁じ、奴隷のような厳しい監視が付けられました。

 彼らもこの屈辱を愚かな総督を許した自国への罰を痛感している様です。


 クリナも彼らと共に食事を摂り、進捗を聞き、励ましました。

「お嬢様が総督であれば!」

 誰かが言いましたが。

「たとえあの罪科が無くとも、トレビーノ家が総督になる事はアルタの法で禁じられていますよ」

「あのクソ息子にはそんな道理すら判らなかったんですよ!」

「ホント。あの男は私にも母にも、人として扱わなかったから」

「あんな気が狂った教典に毒されやがって」


 誰かが言った一言に場が凍りました。

「何ですの?その教典って!」

「あ…失礼しました。お嬢様には、その…」

「事実から目を逸らすのが全ての失敗の第一歩です。どうぞ話しなさい」


 翌日、その技師が紹介した書の内容は、想像を絶する下劣な物でした。

 大陸内のエルビジデクという半世紀前の枢機卿が書いた信仰啓発の書…

『女に向けるべき嫌疑』。


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