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「浅井雄太郎」

「あんた、この煮物味付け濃すぎるわよ!」

「すみませーん、作り直します!」

「もったいないわよ、あんたが全部食べなさい!」」

「はーい、桜子お母様ー!」


 浅井幸恵は今日も爽やかだった。


 彼女とその夫・勇輝の舌からすれば別に味は濃くないが、姑からしてみれば話は別だろう。いずれは二人もそんな味を好むようになるかもしれない。


 もちろんその事がわかっていないとさらに食って掛かる事も出来たが、()()()にそんな事を言う気力はもうない。

 年金ももらって隠居を気取れるとは言えまだ早いはずの年齢なのに、美和子は嫁いびりをする気さえ失せていた。


 洗濯をやれと言えば一日中でもやるし、サッシをこすってここ汚れてるわよとか言えば平気ですっ飛んで来る。さっきみたいに料理の味付けに文句を付ければ何度でも作り直して来る。一度流しに叩き込んでこれを食えと言った事もあったが、嬉しそうに箸も使わずに食べ出す物だから美和子の方が匙を投げた。



「ただいまー」

「ああお帰りなさい雄太郎さん」


 やがて夫・()()が勤め先から帰って来る。

 

 一日中工場に籠っている勇輝だったが、その割に顔は締まりがなく体もたるんでいる。ただ事務員なだけだが、それでも高卒以来十七年間地道に勤め今では役職も得てはいた。月収は三十万円、年収ではボーナス込みで五百万円越えであるから富裕層とまでは行かないにせよ真っ当な暮らしは出来ていた。


「ねえ雄太郎さん、今度私ハワイ行きたいんだけどー」

「五年はかかるぞ、この家の改築に老後貯金の積み立てに…」

「えーそんな事言わないでよー、雄太郎さんは毎月海外に行けるんでしょー」

「ボクはそれよりコミケ行きたいなー」


 勇輝は日本から一度も出た事がない。と言うか実家から半径100キロ圏内から出た事が数度しかなく、その数度の内半分が小中学校時代の修学旅行だった。

 そして趣味嗜好はと言うとそれこそ二次元の女ばかり追いかけるような存在であり、彼の部屋には美少女アニメのフィギュアや同人誌がズラッと並んでいた。美和子は不干渉だったが、それでもこんな息子に嫁の貰い手があるのかと心配は積み重なっていた。


 だからこそ、こんな女を押し付けられたのかもしれない。




 雄太郎と言う夫がいながらホストクラブにはまり離縁され、そうなっておいて必死になって復縁を求めたみっともない女を。




「えー雄太郎さん趣味変わったんだー、私も付いてくー」

「ああ、いやいいよ。お母さんを守ってくれれば」

「わーい頑張りまーす」


 彼女は今日も、笑みを絶やす事はない。


 あれほどまで自分を見捨てたはずの()()()と、義母である()()のために。

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