ゼミの教授がカツラを帽子と言い張るので、私も「帽子」を被っていくことにした
実話です(大嘘)
ゼミの教授のカツラが落ちた。
気さくで優しい教授のカツラが。
ロマンスグレーのかっこいいカツラが。
いとも簡単に、地に落ちた。
「ハハハ、帽子を落としてしまったよ」
教授ははにかんでそう言った。あろうことかカツラを帽子と呼んだのだ。
こういう時、黙殺するのが一番よくない。ボケた方の気持ちも考えろと、私は声を大にして言いたい。
だというのに、ゼミ生達は顔を伏せて震えるばかりで、一向に何も言おうとしなかった。
「さすが教授! 最先端っすね!」
だから私はそう言った。
ブフッ、と空気が漏れ出す汚い音がどこかから聞こえた。
教授は顔を伏せた。
「ン゛ン゛ッ……さて、今日の発表は誰だったかな」
教授がそう言ったので、当番だった私は席を立ち、卒論の序文の発表を始める。
「それでは発表を始めます。『現代男子のムダ毛処理における社会学』」
男子が一人、ブホァ! と息を吹きながら机に頭突きした。
女子は二人教室を飛び出した。
いつもは和気あいあいとしたゼミなのに、その日は誰も顔を上げず、質問も出さず、ただ淡々と私の発表のみが行われた。
これではよくないと、私は策を考えた。
翌週、ゼミに出席すると、相変わらず皆顔を伏せていた。
「君、それはなんだね……?」
「さすが教授! お気づきですか、最近新しい帽子を買ったんですよ」
フヒッ、と小さな笑い声が何処かから聞こえた。教授は頭を抱えている。
おかしい。ミスコンで最終選考に残るほどのこの私が、見事にちょんまげが屹立したお殿様のカツラを身に着けているというのに、この程度の笑いだと?
納得がいかない。しかし大丈夫。まだ奥の手がある。
先週の私と同じように、今週も担当のゼミ生が発表を終えた時。
「質問はありますか?」
「はぁい!」
勢いよく手を挙げる。同時、ポケットの中のスイッチを押した。
ウィンウィンウィンウィン。
機械音を鳴らしながら私のちょんまげが左右に揺れ動く。
「ヒァハハフヘヘヘッ」
男子が一人、奇声を上げながら出ていったが、私は構わない。
「根拠となるデータが薄いように思いますが、どうですか?」ウィンウィン
「すみません調べときますすみません!」
「いえ、完成を楽しみにしてますね」ウィンウィン
卒論で顔を隠しながら必死に答えるゼミ生にエールを送る。我ながら百点の返しだった。
それからも帽子を被っていくことを継続したら、次第に他のゼミ生も帽子を被るようになり、ゼミには笑顔が戻っていった。
私も笑った。
教授は泣いた。
元気だして教授