表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろラジ大賞5

ゼミの教授がカツラを帽子と言い張るので、私も「帽子」を被っていくことにした

作者: 舟渡あさひ

実話です(大嘘)

 ゼミの教授のカツラが落ちた。

 気さくで優しい教授のカツラが。

 ロマンスグレーのかっこいいカツラが。

 いとも簡単に、地に落ちた。


「ハハハ、帽子を落としてしまったよ」


 教授ははにかんでそう言った。あろうことかカツラを帽子と呼んだのだ。

 こういう時、黙殺するのが一番よくない。ボケた方の気持ちも考えろと、私は声を大にして言いたい。

 だというのに、ゼミ生達は顔を伏せて震えるばかりで、一向に何も言おうとしなかった。


「さすが教授! 最先端っすね!」


 だから私はそう言った。

 ブフッ、と空気が漏れ出す汚い音がどこかから聞こえた。

 教授は顔を伏せた。


「ン゛ン゛ッ……さて、今日の発表は誰だったかな」


 教授がそう言ったので、当番だった私は席を立ち、卒論の序文の発表を始める。


「それでは発表を始めます。『現代男子のムダ毛処理における社会学』」


 男子が一人、ブホァ! と息を吹きながら机に頭突きした。

 女子は二人教室を飛び出した。

 いつもは和気あいあいとしたゼミなのに、その日は誰も顔を上げず、質問も出さず、ただ淡々と私の発表のみが行われた。

 これではよくないと、私は策を考えた。


 翌週、ゼミに出席すると、相変わらず皆顔を伏せていた。


「君、それはなんだね……?」


「さすが教授! お気づきですか、最近新しい帽子を買ったんですよ」


 フヒッ、と小さな笑い声が何処かから聞こえた。教授は頭を抱えている。

 おかしい。ミスコンで最終選考に残るほどのこの私が、見事にちょんまげが屹立したお殿様のカツラを身に着けているというのに、この程度の笑いだと?

 納得がいかない。しかし大丈夫。まだ奥の手がある。


 先週の私と同じように、今週も担当のゼミ生が発表を終えた時。


「質問はありますか?」


「はぁい!」


 勢いよく手を挙げる。同時、ポケットの中のスイッチを押した。


 ウィンウィンウィンウィン。


 機械音を鳴らしながら私のちょんまげが左右に揺れ動く。


「ヒァハハフヘヘヘッ」


 男子が一人、奇声を上げながら出ていったが、私は構わない。


「根拠となるデータが薄いように思いますが、どうですか?」ウィンウィン


「すみません調べときますすみません!」


「いえ、完成を楽しみにしてますね」ウィンウィン


 卒論で顔を隠しながら必死に答えるゼミ生にエールを送る。我ながら百点の返しだった。


 それからも帽子を被っていくことを継続したら、次第に他のゼミ生も帽子を被るようになり、ゼミには笑顔が戻っていった。


 私も笑った。


 教授は泣いた。

元気だして教授

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃあ泣くだろ。 他のゼミ生が空気読んでいるのに、主人公だけは教授イジメに爆進してるような。 面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ