第一話 Day0「よし、脱獄しよう」
ここはアルバトロス監獄、脱出困難な監獄だ。
ここに収容されているものはちょっと特殊だ。
なぜならば、夢半ば途中であきらめて引退してしまったVtuber達が収容されている。
もとVtuber、彼らはDiverと呼ばれ、入獄100日後にデリートされてしまう
「看守にばれないように脱獄しなければ」
このお話は元Vtuberの「夢野ツヅキ」が無敵監獄アルバトロスを脱獄するまでの経緯を綴っている。
公開可能な情報1:簡易見取り図
公開可能な情報2:無敵監獄アルバトロス
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
「……というわけで、夢野ツヅキ。お前はコレから我らが無敵監獄、アルバトロスで最後の時を過ごしてもらうメェエ」
「え? イルカ……シラスですか?」
「違う! アルバトロスだメェエ!」
ガタンと目の前の豪華な椅子から立ち上がり、私こと夢野ツヅキに勢いよくツッコミを入れてくる。
「アルバトロスは超巨大な監獄だメェエ! ここでは夢半ば、中途半端で引退したVtuberを収容しているんだメェエ。お前らはここで働いてもらうんだメェエ!」
もふもふな毛並みの看守長は自身のメガネをクイっと調整しながら呟いた。彼は背丈こそ人間ではあるが顔つきは動物の顔をしている。ネームプレートには「ゴート看守長」と記入されていた。
ゴートって……ヤギ? ひつじ?
どっちかわからないが偉そうな看守長である。
「あの……ゴート看守長は羊さんなのでしょうか?」
ついつい私は気になっていたことを呟いてしまう。するとゴート看守長の顎髭が逆立った。
「違うメェエ! 羊じゃないメェエ! 私はヤギだコラメェエ! あんな羊と一緒にするなメェエ!」
キレられた。
彼は羊が嫌いらしい……。
いや、そんなモコモコなあごひげ生やしてたら分からないよ!
「ご、ごめんなさい」
私は羊……じゃなくてヤギの看守長に一言詫びる。
すると彼も自我を取り戻したのが、深呼吸をした後に口を開く。
「まあ、よいんだメェエ。気をつけるんだメェエ。精々残りの時間を監獄で過ごすんだメェエ!」
(残りの期間……どういうことだろう)
「お前らVtuberが生まれすぎたせいでこの世界のデータ許容量がカツカツなんだメェエ! だから、100日後お前はデリートルームで削除されるんだメェエ!」
デリートルーム!? 消される……つまり処刑されるってこと!?
「そ、そんな。ここは刑務所じゃなくて処刑を待つだけの施設なの?」
「正確には95日目に決まるメェエ! この日にお前らの業務態度・実績・日頃の行いから判断して延長するかどうかを決めるんだメェエ! お前らが我らアルバトロスに必要な存在になりたいのであれば必死に真面目に働くことをおすすめするメェエ」
「……」
「さあ、案内してやる! お前の監獄にいくんだメェエ」
カチャン
そう言われると私は手錠で拘束され自身の監獄へ案内された。
◆ ◆ ◆
ここは無敵監獄アルバトロス、地下5階、地上38階の大型建造物である。ゴート看守長の話では絶対警備体制で脱獄した者はおらず、各階に配置された看守も相当数いるようだ。
ゴート看守長に連れられている途中、私は何人もの看守とすれ違った。
名前こそ分からなかったが、全員クマの顔、ウサギの顔、シカの顔など動物の顔をしていた
◆ ◆ ◆
健全棟7階女性収容所、K-2エリア
ガシャン!
ギイイイイ!
鉄格子の扉がゆっくりと開く。
ガチャン
私は鉄格子の中に入れられ、ゴート看守長により外側から鍵をかけられた。
カチャン
そして同様に外から私の手錠の鍵を解いてもらう。
「さあ! ここがお前の部屋だメェエ! 明日から刑務作業に入ってもらうから、今日はゆっくり休むんだメェエ! これがこの刑務所の時間割だから寝る前に呼んでおくように!」
ゴート看守長は私を檻の中に閉じ込めた後、監獄室から出ていくのであった。
ゴート看守長が出ていってしばらくして……
「こ、ここが監獄、アルバトロス」
6畳くらいの大きさの小部屋の中には水洗、トイレ、簡易ベット、が置かれていた。
壁には太陽光を注ぐための直径50cmほどの小さな丸小窓が天井付近の壁にに鉄格子付きで設置されている。突然小窓は鉄格子で固定されている。
「いったいこれからどうなっちゃうんだろう」
私は洗面の蛇口を捻り、水を手酌で掬い一口飲む。
水はぬるくて美味しくなかった。
その後「ふぅ」と一息をつくいた後、ベットに腰掛けた。
先ほどの話を私は思い出す。
分かっていることは私は元Vtuber、監獄アルバトロスに収容され100日後にデリートされてしまう可能性がある。そうならない為には刑務官達にアピールしなければならない。しかし素行の良さなんて看守達の匙加減でなんとでもなる。それに延長したとしても、いつ出所できるなんて言われていない、もしかしたら一生この監獄の中で過ごすのかもしれない。
私はこの不平等なルールに納得が出来ない。
(そうだ、脱獄しよう)
私は密かに無敵監獄アルバトロスからの脱獄を決意したのであった。
◆ ◆ ◆
「これがこの監獄の時間割……」
私はゴート看守長にもらった時間割を確認する。
えっと……DIVER達へ
DIE(=死)と言う意味だろうか、何とも縁起が悪いなあ。
【スケジュール】
※平日の場合
6時起床・朝ごはん
8時刑務作業
12時お昼ご飯
13時刑務作業
17時自由時間、お風呂
18時夕食
19時自由時間
22時就寝
うーん、何とも刑務所らしいガチガチに決められたスケジュールである。
私はもう一度「ふう」とため息をつくとベットで横になりそっと目を閉じて考える。
私はVtuberで大成したいと思って雑談、ゲーム、歌を頑張った。
しかし、現実は頑張っていただけでは努力は結ばれない。今時、雑談やらゲームなどの配信は無数にライバルが存在している。
その中で自分が頭角を示すことは砂の中の星粒を見つけることくらい難しい。
フォロワーも3000人を超えた、動画再生も1ヶ月10万再生程、しかし自分の中でマンネリ化が進みやる気が下がった。
やがてサボりは常習化し、1週間に1度のサボりが、サボり2日を生み、2日のサボりが5日のサボりを生み、ついには1ヶ月サボり、1年サボり……そして自然消滅……自然引退をしたのだ。
私、あの時もう少し頑張っていたら結果は変わったのかな? そう思うと胸の奥がジンジンと沁みてきた。
だめだ、辛い考えをしてはいけない。最初の1日目で折れてどうするんだ。でも、無敵監獄アルバトロスから脱獄するためにはどうすればいいんだろう。
私はベットの横の壁をコンコンと叩く、鉄筋コンクリートで打ち付けられている。漫画などで御約束の穴を掘って脱獄なんてできるわけがない。それにここは七階だ。運良く穴を開けることができたとしても、七階から一階までは30メートルほどあるのだ。脱出はできても落下して死んでしまう可能性だってある。
「ひとまず、明日考えますか」
私は目を瞑り夢の中へ飛び込んだ。
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