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2話:支援攻撃


地下10階西側付近では、コールネーム「ハリコン」の職員2名が、奇獣系の魔物と半獣系の魔物の群れに襲われていた。

「畜生!!、後から後からゴキブリのように出てきやがって!!――――こっちは任務上交戦は禁止されてるんだっ!!」

空になった弾倉と薬室に素早く装填し、猛り狂う咆哮を発して今にも飛び掛かって来ようとした半獣系の魔物に向けて、銃を吠えさせる。その魔物は派手な血飛沫と奇声を発して床に転がる。

彼等の所属している警備隊冒険者管理局は、迷宮内や遺跡内での魔物との交戦は禁止している。目的は魔物の殲滅ではなく、あくまで迷宮や遺跡内で朽ち果てた冒険者の認識票と遺品の回収、そして冒険者による犯罪行為を取り締まる任務――――迷宮や遺跡に探索する者を襲い金儲けする追い剥ぎや無法者の討伐が任務である。そのためかどうかわからないが、本格的な探索や魔物退治などは、好き好んで危険な迷宮や遺跡を探索する冒険者に任せている。

この職員2名も、漆黒のボディーアーマーを着用し、頭部、顔面、頸部を保護するためか目出し帽とフリッツヘルメットを着用している。

「キンドル、本部に救援要請をしろっ!!、あまりも数が多すぎるっ!!」

「了解っ、そっちも弾丸がある限り撃ち続けよっ、ピット」

発砲している職員がピットと言う名前で、本部に救援要請を出そうとしている職員がキンドルと言う名前なのだろう。

「こちら「ハリコン」、本部、応答されたし!!」

「(こちら・・・本部・・・「ハリコン」・・・どんな状況だ?」

ヘルメットに内臓されたヘッドホンから、雑音混じりの声が聞こえてくる。

「地下10階西側付近にて大多数の魔物と交戦発生っ!!、繰り返すっ、地下10階西側付近にて大多数の魔物と交戦発生っ!、応援を寄越してくれっ!」

キンドルは悲壮じみた声で告げる。

「(了解・・・「ハリコン」・・・・そのまま交戦を続けろ・・・)」

「了解、以――――」

キンドルがそう言い終えたとき、発砲中のピットから絶望的な悲鳴が聞こえた。

「ピットっ、どうし――――」

キンドルは悲鳴のを上げた相棒を見て驚愕する。ピットの貌に8本の触手と、長い尾を持つ奇獣系の魔物が張り付いていた。引き剥がそうとしても長い尻尾を首に巻きつけてくるためか、剥がそうとしてもできない。

ピットはしばらく床をのたうち回っていたが、その動きを止める。

長い尻尾が首をきつく締め付けて、仮死状態にしたのだろう。キンドルは、ピットに近づいて身体をゆする

「をいっ!!、ピット!!、しっかりしろっ」

長い尾を持つ奇獣系の魔物を剥がそうとしても、その張り付く力は凄まじいほど強く、皮が剥げそうになる。ピットは罵り声を上げる。

「「ハリコン」より本部っ、「ハリコン」より本部っ!!、職員一名が戦闘行動不能、繰り返す、

職員一名が戦闘行動不能!!。地上に医療班を待機させてくれっ」

「(本部より・・・「ハリコン」・・・・、症状は・・・・?)」

「奇獣系の魔物が貌に張り付いているっ、剥がそうとしても凄まじいほどの張り付く力がある。ここでは応急手当もできないっ」

半獣系のの魔物に向けて、銃を発砲しながらマイクに向けて言う。

「糞っ、これじゃあ、まったくきりがないっ――――、本部、聞こえるかっ?、至急 魔術管制室に繋いでくれ」

「(本部、了解した。以上。)」

ヘッドホンから、しばらく間を空けて返答が返ってくる。どうやら別の担当部署に連絡をしているようである。

「(・・・・こちら・・・・魔術管制室。了解・・・状況を説明してくれ・・・」

やはり雑音混じりの声が聞こえてくる。

「識別迷宮ナンバー「00-128」迷宮内、地下10階西側付近にて遺品回収事案中、大多数の魔物の襲撃を受けた!!、現在交戦中!!、および職員一名戦闘行動が不能。ただちに魔術支援を要請するっ!!」

怒鳴るように告げながら、空になった弾倉を抜き、新しく弾倉を詰め替える。

「(了解・・・「ハリコン」・・・・)」

魔物の群れが、一端動きを止めたのを見計らって、アサルトベストから迷宮内の地図を取り出す。

「魔術管制室、聞こえるかっ!?、射程座標位置番号は「1-429-1」だ!!、繰り返す、射程座標位置番号は「1-429-1」だっ!!」

「(魔術管制室より・・・「ハリコン」・・・・了解・・・これより・・・魔術支援を開始する。以上)」




その広い室内には、家具らしきものはなく、室内の端の方に幾つかの機材らしきものと中型のテーブルが設置されている。

室内のほぼ中央の床には、魔法円が描かれている。円の中には五芒星と何やら古代文字らしきものも書かれているが、魔術専門家の者しか読めないだろう。

室内用の電話らしき機材に、白いつなぎ服を着込んだ男性が向かって、「了解した」と報告していた。

白いつなぎ服の背中には、「ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局魔術師課」と書かれている。

白いつなぎ服を着込んだ男性は、警備隊の職員のようだが何処か何かか違う。何処がどう違うのかはわからないが、一般人が見慣れた職員と何か違う。

その男性には、いかにも警備隊と言う臭いがない。そう言っても、貴族、王族、商人、騎士、冒険者、軍人、傭兵、遊び人、盗賊、鍛冶屋、神父――――この大陸、いや、この世界にいる全ての職業関係者にも当てはめる事もできない。臭い言って良いのだろうかわからないが、まったく知らない臭いを持つ男性職員だ。その男性は電話から離れると、魔法円の外にいる魔術師用の漆黒のフード付きコートを羽織っている職員を見る。

「ヨハンセン魔術師、魔法支援要請です」

白いつなぎ服の男性は――――ヨハンセン――――それが魔術師用の漆黒のフード付きコートを羽織っている職員の名前であろう――――に告げた。そのフードの背中にも「ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局魔術師課と書かれている。本を読んで待機していたのだろう。本を閉じると床に置く。

「了解した。状況は?」

ヨハンセンは静かに尋ねながら、魔法円の中に入る。

「識別迷宮ナンバー「00-128」迷宮内、地下10階西側付近にて職員が魔物と交戦中。職員が一名

戦闘行動不能と言う事です」

とつなぎ服男性が答える。

「射程座標位置番号は?」

「1-429-1です」

「了解した――――これより転送支援魔法攻撃を開始する」

右手の掌を上に向けて、ヨハンセンはゆっくりと呪文の詠唱を始めた。

ゆっくりと、ゆっくりと・・・ここに魔術師専門家が居れば、驚愕することだろう。

転送魔法の呪文詠唱と攻撃魔法の詠唱呪文を、ほぼ同時に唱えているのだ。

この職員の魔術師レベルが並大抵では無いのか、それとも魔法円の影響か――――

呪文の威力をギリギリまで引き上げる。魔法円も魔力に共鳴するかのように青白く光り出す。

やがて、ヨハンセンの掌に炎の固まりが回転して出現する。

魔法円を中心に、広い室内の空間に歪みが発生し、ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がる。空間が陽炎のように揺れているのがわかる。

炎の固まりが、何者かに蹴り上げられるかのように、陽炎のように揺れている空間に吸い込まれていくと、しばらくして青白く光った魔法円も空間の揺れも収まる。

「・・・転送支援魔法攻撃を終了した。要請した戦友が射程座標位置番号を間違えていなければいいが」

ヨハンセンは呟く。射程座標位置番号に正確に攻撃魔法だけを転送する事は出来るが、要請した職員が

射程座標位置番号そのものを誤っていれば、その誤っている場所にしか転送できない。現に、誤って射程座標位置番号を告げる職員もいる。最悪なケースは、極限の状態に置かれている職員が、自分たちがいる射程座標位置番号を告げる事だ。そうなった時は・・・・もはや神に祈るしかできない。

この事故の殉職者も後を絶たない。

「・・・そこまで気になさらない方がいいかと。我々魔術師課の任務は、主に射程座標位置番号に転送魔法攻撃を実行するだけです」

「――――射程座標位置番号位置を知っていることと、そこに転送魔法攻撃を実行する覚悟は違う。

本官は、本官の唱えた呪文で戦友が殉職する事には耐えられない」




地下10階西側付近で交戦中のコールネーム「ハリコン」の職員、キンドルが空になった弾倉を交換している。

付近には、一行に数を減らした様子がなさそうな、奇獣系の魔物と半獣系の魔物の群れの姿がある。

「畜生っ、畜生っ!!」

もう限界かとキンドルは覚悟した。救援も未だに来る気配がなく、支援魔術攻撃の気配もない。

前方から、金切り声を上げて襲いかかろうとしている奇獣の魔物の姿がある。鎧を噛み割る強力な顎を持った昆虫だ。銃弾を浴びせるが、傷を受けた様子はない。堅い甲羅だ。

「もう・・・無理だ・・・すまねぇ、ピット・・・本部に帰還できなさそうだ・・・」

キンドルは自らの頭に銃を向けて、引き金を引こうとした時――――

周囲の空間が震動し、ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がる。

キンドルはその震動を感じ取ると、歓喜の叫び声を上げると銃に安全装置をかけて、長い尾を持つ奇獣系の魔物に貌を張り付かせてしまい行動できない、ピットに覆い被さるように伏せた。

陽炎のように揺れている空間から、炎の固まりが回転して出現し、射程座標位置番号――――ほぼ正確に奇獣系の魔物と半獣系の魔物の後方頭上で、爆発音が響き、一瞬にして周囲の魔物らをうち砕き、吹き飛ばす。キンドルは熱風が背中の上をなめるように通り過ぎていくのがわかった。

そして、奇獣系の魔物と半獣系の魔物の臓腑や破片が降りかかってきた。

キンドルはゆっくりと起きあがろうとしたとき、もう一度爆発音が響いてきたので慌てて伏せる。

地面は大地震のように激しく揺れた。爆発音、魔物の咆哮と金切り声――――それらが同時に聞こえてくる。

「(なんで魔術師課の戦友を怒らす様な事はしてはいけないか――――理由はわかったぞ)」

キンドルは、そう思った。たしかに、こんなのを見せられたら怒らしたらどうなるか・・・わからないでもない。

頭をあげたキンドルは、自分の目を疑った。

周囲にいた魔物の様子が一変していた。殲滅とまではいかないが、大部分の魔物が爆風で吹き飛ばされたり、炎に焼かれたりしている。生命力の強い魔物なためか、苦痛のあまり床をのたうち回っている魔物もいるし、まだ戦闘意欲を無くしていない魔物が凍り付くような咆哮を発していたりする。

「(魔術管制室より・・・「ハリコン」・・魔術支援を終了した・・・状況を説明してくれ)」

ヘッドホンから声が聞こえてくる。

「 「ハリコン」から魔術管制室へ、魔術支援は成功しているっ、繰り返す、魔法支援は成功しているっ!!。支援魔法を実行してくれた職員に伝言頼む。無事帰還したら酒でも飯でも奢るし・・なんなら、女でも紹介すると伝えておいてくれ!!」

「(魔術管制室より・・・「ハリコン」・・・・わかった。伝えておく・・・以上。)」

ようやくほっとしたように息を吐いたとき、ヘッドホンから、掠れた声が聞こえてくる。

「(「戦狼」から「ハリコン」へ・・・・そっちの周波数を傍受した・・・そちらの現状は?)」

「こちら「ハリコン」、現在魔術支援により、魔物の数は激変している。職員一名は戦闘行動不能。

そちらの位置は?」

「(あと、3分で到着する・・・無謀な行動はすな・・・・殉職する戦友の・・・姿はみたくない)」

掠れた声で、そう告げてくる。

「3分か・・・出来るだけ急いでくれ。以上」

キンドルはそう告げると、銃の安全装置をゆっくりと解除する。

闘いはまだ終わらない。









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