1話:救援要請
命知らずな冒険者達が命懸けの探索と闘いが繰り広げられている地下迷宮――・・・地下10階付近。
暗くひんやりとした空気と血の匂いが漂っている迷宮の通路付近を2人の冒険者らしき人影があった。
しかし、その2人の人影の装備服は、一般の冒険者とは何処か違う。
漆黒のボディーアーマーを着用し、頭部、顔面、頸部を保護するためか目出し帽とフリッツヘルメットを着用している。そのため、どのような表情をしているのかわからない。
ヘルメットには、マイクとヘッドホンが内臓され、ボディーアーマーの上には、アサルトベストを着用している。ベストには予備用の弾薬、携帯用回復薬用のポーチなどが付いている。
左肩には、縫製ラインから1センチほど下に所属する部隊章らしきものをつけている。丸い円の中には口に剣を銜えた猟犬の絵柄があリ、上部には絵柄を丸く囲むように「ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局遺品回収課」と書かれている。それが彼が所属している部隊名なのだろう。そのためかどうかはわからないが拘束具のたぐいは持っていない――――この世界の迷宮や遺跡で活動する冒険者は、彼等が所属するポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局に登録しなくてはならない。
ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局は、
従来の犯罪者や治安維持の任務とは違い、主に、迷宮内や遺跡内での冒険者による犯罪行為を取り締まる任務と迷宮や遺跡内で朽ち果てた
冒険者の遺品と冒険者認識票を回収する事である。
認識票の形状や材質、打刻される冒険者の情報は各国の警備隊支部によって異なる。多くは5cm程度の大きさの特殊魔術をかけられているアルミニウム製やステンレス製で、氏名、生年月日、性別、血液型、種族、認識番号、信仰する宗教等が打刻されている。残念ながら遺体までは回収する事は不可能だが、特殊魔術のかかった認識票は、迷宮や遺跡内で放置していてもなくなる事はない。冒険者の死骸は迷宮や遺跡内にいる魔物に何もかも喰われてなくなるが・・・・。
その回収作業を行う時は、従来の冒険者の様に6人編成で迷宮や遺跡内を動き廻るのではなく、2人一組で行動をする。
その2人の職員の付近には、死骸が転がっていた。
この地下迷宮で無惨に命を散らした冒険者パーティーと半獣人系、昆虫系、精霊系の魔物の死骸だ。
床には血だまり、大便と肝汁の臭いがぷんぷんしている所を見ると、
数時間前に凄まじい戦闘があったようだ。
一体の半獣人系の魔物の貌は、1人の冒険者の喉元に埋められている。
半獣人系の魔物は頭部を破壊される前に冒険者の喉元を食いちぎっている。死体の上の壁を飛び散った頭蓋骨と脳が飾っている。その壁に血文字で「俺達は終わった。だが俺達は折れた剣の端を握って戦うつもりだ」
と書いてある。最後の力を振り絞って書いたのだろう。
2人の職員のうち、1人が死体を手慣れた様子で調べ冒険者認識票と遺品となる装身具など回収する。どれもこれも、血塗れである。
もう1人は付近を警戒する。
「――――慌てなくていいぞ」
警備隊が支給している拳銃を周囲に向けて、付近を警戒している職員が掠れた声で言う。
「――――急げって言っているように聞こえるよ」
魔物と冒険者の肉片と血だまりの中を何処か陽気な声で、手慣れた動きで
遺品回収作業している職員が言う。並大抵の精神力では出来ない作業だ。
人と魔物の内臓や肉片の中を、冒険者認識票と遺品となる装身具を回収する事は――――
「(本部より「戦狼」へ・・・応答せよ・・)」
内臓されヘッドホンから雑音と共に声が聞こえてきた。「戦狼」とは、彼等のコールサインだろう。
「こちら「戦狼」」
掠れた声で返答しながら、周囲を警戒する。
「(・・・処理終え次第・・・至急地下10階西側へ移動されたし・・・)」
「西側には・・・「ハリコン」が回収処理を行っているんじゃないのか?」
回収作業を終えた職員が怪訝な声で言う。
「ハリコン」とは、この階層で同じように回収作業処理をしている職員のコールサインだろう。
「(「ハリコン」より・・・緊急救援要請あり・・・至急救援に向かわれたし・・・状況によれば・・・「重火器」、「攻撃呪文」「特殊能力」の使用を許可する・・・・・・)」
「了解。現場に向かう」
掠れた声で職員が言う。
「やれやれ・・・んじゃ、救援に向かいますか。しかし、「能力」の使用許可を下りるとなると、まずい状況じゃないのか?ベルナルド」
陽気な声の職員が、ベルナルド――――もう1人の職員の名前だろう――――に尋ねる。
「ああ。急ごう。ラインヴァルト。緊急救援要請となれば・・・それなりにまずい状況のはずだ。で、回収は終わったのか?」
「終わった。これでここで死んだ冒険者も少しは浮かばれるかもしれないな」
ラインヴァルト――――陽気な声の職員の名前だろう――――が冒険者の死骸に向けて警備隊式の敬礼をする。それが唯一の迷宮などで命を散らした冒険者に向けての敬意の表し方なのだろう。
「――――彼等にすれば、並の人生が苦痛であり恐怖だ。冒険者として死ぬ事も覚悟していたはずだ――――向かう前にラインヴァルト、お前の「能力」を使用しろ」
ベルナルドが告げる。
「――――あいよ」
陽気に答えると、前に右手を延ばす。静寂と血の匂いが充満する薄暗い空間に歪みが発生した。ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がる。
空間が陽炎のように揺れて弾けた。ぶれるような残像が、一つの物質を結像させるまで、一瞬の時間もかかっていない。
現れた物は――――――――この世界では製造しているのか、もしくは存在しているのかも不明な、観たことも聞いたこともない狙撃銃が出現した。
全長は1、3メートルほど。機関部は通常より倍ほどある。大口径弾を使用するのは明白な、龍、悪魔系の大型魔物専用の長距離自動装填方式特殊スナイパーライフルだ。人間に用いたら、文字通り打ち砕く性能がある。
「――――これがあれば、どんな魔物でも秒殺さ」
ラインヴァルトが陽気な声で言う。目出し帽の下ではナイフの様な研ぎすました笑みでも浮かべている事だろう。
「・・・この大陸の「銃使い」は、お前みたいな性格なのだろうかと、考えたくなるが後にしよう。それと、俺達の任務は、魔物の殲滅ではない。
冒険者の遺品と迷宮内や遺跡などで犯罪行為をする冒険者を取り締まる事だ――――行くぞ」
「――――なんか心に傷をつけられるような台詞だな。それ。それにそっちだって「劔使い」じゃないか・・・・まぁ、そんなことわかってるって。冗談を言っただけだよ、戦友」
2人は、薄暗い迷宮の通路を音も気配を消して小走りに走り出した
一刻も早く救援するために。
初の連載です。とりあえず3話ぐらいまで書いてみます。
駄文ですが、感想いだだければ嬉しいです