魔物3匹倒してこい
「そこの戦士の旦那。そこのアンちゃんに、あんたがいくら貰ったか教えてやってくれよ」
既に戦士の人は僕への興味を失せていたようで、女性と二人だけの空間を作り上げていた。しかし、ガラの悪い連中に聞かれて、やれやれという感じで答えてくれた。
「ん、俺かい? まあ、俺も大して貰ってねぇけどよ。確か、3000だったかなぁ?」
「へえ、そうだったのかい。何気に初めて聞いたねぇ。アンタそんなに貰ってたのかい。アタシなんて2000しか貰ってないよ。やっぱりアンタは王に期待されてたんだよ。だけどいいのかい、それなのにこんなところで飲んでばかりいて」
「ガッハッハ、何言ってんだよ。その金でお前に奢ってやったじゃねーか。貰った金は好きに使わせてもらうさ。それに、最低限の装備は元々持ってんだ。その気になればモンスターくらい、いつでも狩ってこれるぜ」
「うふふっ、流石だねぇ、頼りにしてるよ」
女は惚れ直したと言わんばかりに、戦士の男に密着しそうなくらい近づき、うっとりした眼差しで見つめる。
「悪いこたぁー言わねえ。そいつらと組むのはやめな。有り金全部持って行かれて捨てられちまうのが目に見えてるよ」
「ひでーぜ、戦士の旦那ぁ。いくら俺達でもこんな可哀想なアンちゃんから奪ったりしねーよ。俺達だってなあ、3000ゴルド貰ったんだぜ。100ゴルドしか貰えてねーなんて、いくらなんでも同情しちまうぜ。ぶひゃっひゃっひゃ」
「三人合わせて3000だけどな……ぼそっ」
「それは黙ってろよ……ぼそぼそ」
なんでこの世界の連中は内緒話もまともにできないのだろうか。
ガラの悪い三人組みも、一人当たり1000ゴルド貰ってたのか。
それに引き替え、僕の100ゴルドって少な過ぎだろぉおお。
剣の一本も買えるか不安になる。
最初から思ってたけど、ここで仲間を見つけるの無理そうだ。
せめて情報収集だ。刀に関する情報が少しでも欲しい。
「すいません。仲間はもういいので、どなたか刀という武器を知りませんか?」
「タナカぁ!? そんな武器は聞いたことねーなー。お子ちゃま用のおもちゃの武器かよ、ぎゃはははっ」
「お子ちゃま用じゃなくて、赤ちゃん用かもな、ピャーー!」
この三人組はダメだ。相手にしない方が良い。
戦士の人の雰囲気も苦手だけれど、あの連中よりはマシだ。
何か知っていれば教えて欲しい。
期待をはらんだ眼差しを、戦士の人へ向けると、目がしっかりと合ってしまった。一応、僕の話しを聞いてくれていたのか。
「ったく、しょーがねーな。おう、ボウズ。カタナって奴は知らんが、俺達の仲間にしてやってもいいぜ」
「え、本当ですか!?」
意外な申し出だった。
だって、この世界の人たち。皆んな僕に冷たいもん。
「だがしかしなー。流石に子供のお守りをするつもりはねーんだわ」
「そ、そうですよね」
「そうだな……3匹でいい。どんな雑魚でもいいから、3匹狩ってこい。そしたら、仲間に入れてやる」
「アンタ、本気なのかい。あたしゃあアンタと二人がいいんだけどねぇ」
「まあ、そういうなって。そこの三馬鹿じゃないが、俺達も最近城の連中に目つけられてるみたいだし、貰った金の分くらいはそろそろ働かねーといけねー。いいキッカケだったと思えばいいじゃねーか」
「まあ、アンタがそう言うんなら構わないけどさぁ……」
あからさまに女の人は嫌そうだなぁ。
僕もこの二人と一緒の旅は気まずいけど、刀について知ってる人も居なさそうだし、この二人について行って他の町まで行けば、刀が手に入るかもしれない。
今は頼るしかないだろう。
「わかりました、モンスター3匹退治すればいいんですね?」
「おう、やる気になったか。そんなら町の南の平原に行ってみな。最近、レッサーゴブリンが出現するらしいから、それくらい狩れなきゃお家でママのおっぱいしゃぶってた方がいいぜ」
ゴッドマザーのおっぱいですか。吸わせてくれるかな?
その前に僕の部屋は下宿人が使うみたいだし、帰ったら家に入れてくれると良いな。
「ちなみに、レッサーゴブリンってどんな魔物なんですか?」
「おめー、そんなことも知らねーのかよ。ゴブリンのちっせー奴だよ。あいつらくらいなら、お子ちゃま用の剣でもどうにかできるだろうよ。そこの武器屋で子供用のショートソードを買っていきな。子供用なら100ゴルドで足りるだろうさ」
「ご丁寧にありがとうございました」
「おう、頑張ってこいや」
なんだかんだで、戦士の人はいい人だったな。苦手は苦手だけど。
ガラの悪い三馬鹿は問題外として、ローブの人は最後まで無言だった。
出きればこの酒場にはもう戻ってきたくはないけど、刀が手に入らない以上、一人での冒険は危険だ。刀無しで自分がどれだけ戦えるか気になるし、まずはモンスター3匹倒してみるか。