武器屋とささささの酒場
とりあえず、軍資金100ゴルドゲットだ。やったぜ、ぐすん。
王様は、装備を揃えて、仲間を集めろと言っていたな。
口振りからして、飲んだくれしか居なさそうだし、酒場で頼りになる仲間が見つかるか怪しいものだ。
さて、何から手を付けよう。
そうだな。まず先輩にもらったチートが気になる。
自分の力が分からなければ、必要な仲間も決められない。
武器屋で刀を探してみよう。
確か、城に来る途中に武器屋はあったな。
さっそく行ってみるか。
「へい、らっしぇー……って、ひょろっこいボウズが、うちの店になんかようか?」
開口一番から酷くないですか。
この世界の住人、やたら僕に冷たすぎだろ。
武器屋の店主は、身長は僕と変わらないくらいだけど、腕回りも胴回りも太く、がっしりとして腕っ節が強そうなオヤジである。付け加えると、やたら体毛が濃い。
「すいません。武器を探しているんですけど」
「ボウズのほっせー腕で武器が振り回せるってのかよ。冷やかしなら、さっさとけえってくんな」
「刀は置いてないですか?」
「ああん!? タナカってなんだよ?」
「あ、いえ、タナカでなくカタナです」
「どっちでもかわんねーよ。んなもんねぇから、とっとと出ていきやがれ!」
「あのー、片刃で剃りのある細身の剣みたいな武器なんですが……」
「ねぇっつってんだろ! 出てけクソガキぃいい!」
「ひ、ひぃいいい」
武器屋のあまりの剣幕に、僕は店を飛び出した。
出る前に店内を軽く見回したが、刀は置いてなさそうだった。あったのは洋風の両刃の剣や短剣、それからナイフ。斧や先端にトゲのついた鈍器などが目に入った。
武器屋の店主ですら刀を知らないようだし、どこで手に入るんだろうか。せめて、普通の剣でも刀の半分程度のチートが発揮できれば、しばらく繋ぎとして使えると思うんだけど。試させて貰えそうな雰囲気でもなかったからなぁ。
もう、やだ。帰りたいよぉおお。
チートがあれば楽勝じゃないんですかぁああ、せんぱぁああい。
ううぅ、嘆いていても仕方ない。
情報収集も兼ねて酒場に行こう。仲間になってくれる人が居ればラッキーだし、刀の情報もあるかもしれない。
酒場は、武器屋の向かいだったな。
武器屋を出て正面に、ビールジョッキとワイングラスの絵が彫り込まれた看板の店があった。この店で間違いないだろう。
僕は、折れる寸前の心を、どうにかつなぎ止めて、酒場にその身を投じた。
まだ真っ昼間だというのに、何人か客がいる。
カウンターに座っている厳つい戦士風の男や、その隣で飲んでいるやたら露出の多い女性。テーブル席には無精ひげを生やしたガラの悪い男たちが3人いる。それから、隅の席にローブで顔を隠した怪しげな人が一人でいた。
正直、全員話し掛けづらい!
カウンターの二人は、男女で距離感近くて独特の空間作ってるし、ガラの悪い人たちは人数も多いし普通に怖い。ローブの人は雰囲気的に近づきたくない。
そうだ! 店の人なら話し掛けやすいハズ。
店のマスターはどこだ。マスター。
カウンターの向こう側も、どこにもそれらしき姿が見当たらない。
「おう、ボクちゃんどーした? マスター探してんのか?」
「え、あ、はい」
声を掛けきたのは、カウンターの戦士風の男だった。
気さくというか何というか、ラフな感じで気まぐれに話し掛けて来た感じだ。
「マスターなら二日酔いで頭がいてーつって、さっき奥に引っ込んでいったよ。なんだ、ミルクの注文か? 代わりに入れてやろうか?」
「うふふっ、からかうの止めなって、坊やが可哀想じゃないかぁ」
男からは子供扱いで、完全に舐められている。
女は男を見つめながら筋骨隆々とした体を指先でなぞったりだとか、やたらボディタッチが多くて、その興味は戦士風の男にしかなさそうだ。窘めるというより、女の優しさなんかを男にアピールする出汁に使っているだけかもしれない。
いかんせん、僕には刺激が強い光景だ。
「実は王様から魔王討伐に行くよう言われまして。まずは酒場で仲間を探すようアドバイス戴いたんですけど……どうやら皆さんお忙しいようですね」
「けっけっけ、何だよアンちゃん、仲間を探してんのか」
「いいぜぇ、俺達が仲間になってやろうか? ぎゃっはっはっは」
そう言ってきたのは、テーブル席のガラの悪い三人組だった。
「本当ですか? でも、あの」
この手の連中が仲間になっても良い予感がしない。
学校のいじめグループがターゲットを見つけた時の雰囲気に似ている。下手をすれば、ひと気の無いところへ連れて行かれて、カツアゲされるかもしれない。最悪、命も危うい。
「ふひひ、ほんとーさあ。実は俺達お金に困っててよぉ。王から貰った支度金とかいうのを、ここのマスターに全部持っていかれちまったんだよ」
「何言ってんだバーカ、てめぇが酒を飲み過ぎただけじゃねーか」
「がっはっは、そうともいうなぁ。まあ、そんな訳で、装備品なんてまったくねーのによぉ、城の連中が魔物狩りに行けとかうるさくてしつけーんだわ。つーわけで、アンちゃんが俺達の装備品買ってくれるつーなら、少しくらい魔物狩りに付き合ってやってもいいぜ」
なるほど。お目当てはやっぱりこの支度金か。
大臣がなかなかお金を離さなかったのは、こういう連中のせいだろう。酒代じゃないって、何度も念押ししてたからなぁ。
「ところでよぉ、アンちゃんはいくら貰ったんだ? 1000ゴルドか? それとも2000ゴルドか?」
え、桁一つ違くないですか?
皆んなそのくらい貰ってるの?
だって、僕が貰ったのって……。
「100ゴルド、ですけど」
酒場に一瞬の沈黙が訪れた。
「ぷぎゃああああはっはー、聞いたかよおめぇら」
「聞いたよ、100ゴルドだってよ、ピャアーー!」
「げふんっ、げふんっ、食いもんが喉に詰まっちまったじゃねーか、うっひゃっひゃっひゃ」
なんだよ。そんな笑われちゃうくらい、大した金額じゃないのにあの大臣は勿体つけたのかよ。小学校で取った0点のテストをクラスメイトに見つかった時の気分だよ。何も悪くないハズなのに、すっごくこっぱずかしいよぉおお。