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王様と大臣

 中は天井が高く、奥へ長く伸びている空間だった。

 思った通り、一番奥には玉座に座る王らしき存在があった。

 王冠を被っていて、マントとか王様っぽい衣装なので間違いない。

 隣には、前方からてっぺんまで毛根が死滅した頭のおっさんが立っている。王ほど派手ではないが、豪奢な身なりでとても偉そうな人だ。

 二人はじっと、こちらを見ている。

 なんだか待ち構えられているようなので、彼らまで続く赤い絨毯を踏み締めて、重いプレッシャーの中を進んだ。

 RPGなら王様の真ん前に立って話し掛けるけど、どう考えても失礼にあたるだろう。5・6メートル手前で、立ち止まることにした。

 うーん、すごくこちらを見てくる。妙なプレッシャーを感じてしまう。

 僕の方から何か話を切り出すのを待っているのだろうか。

 どうしようかと、迷っている間に痺れを切らしたのか、こほんと一つ咳払いをして、口の周りにふさふさ生えている髭を、もごもごと動かして王は話しを始めた。


「待ちかねたぞ、勇者『ああああ』よ」


 あ、僕のこと待ってたんだ王様。

 単純にゴッドマザーが僕を家から追い出したかったんじゃなくて、王からお呼びが掛かっていたのか。だとしたら、時間とか決まっていたのだろうか。遅刻をしてなければ良いのだけれど。

 どっちにしろ、待たせてなんかすんません。


「魔王が復活したことにより、世界中で眠っていたモンスターたちが活動を始めた。これまで多くの勇者たちが冒険に旅立ち、数多の魔物をほふってくれた。お陰で城下は魔物たちの驚異より守られておる。しかし、いつかは魔王軍がここまで攻めてくるやもしれぬ。そこでだ!」


 そこまでは王様然として威風堂々と語っていたが、急に自信が無くなったみたいというか、次の言葉に迷っているというか、まごまごし始めた。暗記していた台詞でも忘れたのだろうか。

 すると王は、手で口元を隠し、隣の側近にだけ聞こえるように耳打ちをした。


「おい、大臣。あのみすぼらしいガキは、何人目じゃったかのぉ?」

「ハッ、王よ。666人目でございます」


 僕に聞こえないよう内緒話してるつもりなんだろうけど、妙に声の通りが良くて、思いっきり聞こえちゃってるんですけどぉおお。

 そりゃあ、如何にも貧しい村人みたいな服着てるけどさぁ、もう少し言葉を選んでくださいよぉおお。

 僕の心中など察する様子もなく、もう一度咳払いをして何事も無かったように話を再開させた。


「666人目の勇者よ! お主には魔王討伐に出てもらいたい! このままではいつか魔王に世界が支配されてしまうじゃろう。その前に誰かがこの偉業を成し遂げなければならない。まずは武器屋の向かいにあるササササの酒場へゆくが良かろう。そこには旅に出ずくすぶっ……鋭気を養い、冒険に備える戦士たちが待っている!」


 ねえ、くすぶってるって言い掛けませんでした?

 酒場でくすぶってるって、ただの飲兵衛だったりしませんか?

 それに666人目って多すぎでしょう。どんだけ勇者おるねん。もう誰でも良くなったから、こんなみすぼらしい服しか持ってない村人の僕にまでお鉢が回ってきたんじゃないんですかぁああ。

 それからこの数字って不吉だった気がするし、なんか嫌だよぉおお。


「さあ、勇者よ。大臣より支度金を受け取り、武器屋で装備を整え、酒場から食いっぱぐれどもを連れ出すのじゃ!」


 王様、取り繕うの面倒になったんですね。

 きっと、モンスター討伐に行かずに酒びたっている連中を、よほどわずらわしく思っているんだろうな。

 王様が視線で合図を送ると、大臣は玉座の後ろから袋を取り出し、僕のところまで来て、手渡してくれた。が、なんか手を離してくれない。


「この袋には100ゴルド入っておる。決して無駄使いするでないぞ!」

「は、はい、わかりました。わかりましたので、その手を離して貰えませんか?」

「この金は酒代ではないからな! 絶対にこの金で飲み食いするんじゃないぞ! 絶対だぞ!」


 何度も入念に念押ししたところで、渋々手を離して大臣は王の下へと戻っていった。きっと、酒場で飲んだくれている連中は、支度金で武器も買わずに酒を飲んでいるんだろう。それがよっぽど腹に据えかねているんだな。

 しかし、100ゴルドって、どれだけの価値のお金なんだろう。

 せめて城の前にいた兵士の様な武器や防具が買えて、それから少々の道具が買えると良いのだけれど。


「さあ、勇者よ、旅立つのじゃ! そして魔王を討伐し、世界を救うのじゃ!」


 王は立ち上がり、己のマントを払いのけ、指を大きく開いたその手を僕に向かって突き出して、仰々しく台詞を唱えてみせた。

 王の動作に合わせてなのか、どこからともなく楽団が姿を現し、ファンファーレを鳴り響かせた。そして、さあ行けと言わんばかりの空気を醸し出している。

 この雰囲気のままこの場を去った方が格好良いのだろうけど、なんだろう。この100ゴルドが、頼りない金額の気がして仕方ない。今のこの機を逃したら、王様に何かを聞けるチャンスは無いかもしれない。

 ここは勇気の出しどころだろう。


「あのぉ……すいません、王様。よろしければ、余ってる装備があれば譲って貰えませんか。できれば、刀があれば欲しいんですけど」

「さあ、勇者よ、旅立つのじゃ! そして魔王を討伐し、世界を救うのじゃ!」


 王様の台詞に合わせ、再びファンファーレが鳴り響いた。

 京都のぶぶ漬けよろしく、同じ台詞を繰り返したら立ち去って欲しいという、意思表示をする習性があるのだ。

 小心者の僕にはこれ以上無理だ。

 むしろ、ちょっとでも食い下がったことを褒めて欲しい。

 もう諦めて帰るしかなかった。

 帰りの絨毯を歩いていると、また背後からひそひそ話す声が聞こえてきた。


「厚かましい小僧でしたね、王様」

「まったくじゃ。あんな小僧に支度金をくれてやるのは、些か勿体無かったかのぉ」

「貰えただけでもありがたいというのに、装備品までせびるとか信じられませんでしたな」

「どうせ周辺の魔物にも勝てず、のたれ死んでしまうんじゃ。ドブに捨てるようなもんじゃよ」

「王のおっしゃる通りです。それにあの小僧、王の前だというのに、ひざまづきもしませんでしたよ」

「ほん、それな。不敬罪で、打ち首にしようかと思ったわ」

「そんなことせずとも、どうせすぐに魔物に殺されますよ。処刑する手間も勿体ないだけですぞ。ハッハッハッハ」

「それもそうじゃ。ふぉっふぉっふぉっふぉ」


 ああああぁああああ。そうでしたぁああ!

 普通、王の前に行ったらひざまづいて頭を下げますよねぇええ!

 そして「頭を上げよ」とか、そういうくだりがお決まりですよねぇええ!

 すいませんでした、王さまぁああああ!

 だけど、なんでそんな耳通りのいい声で話してるんだよぉおお。

 小声で話してる意味ないじゃんかぁああ、全部聞こえてますよぉおおん。

 それにしても、期待されなさ過ぎじゃないですかぁああ。

 魔物一匹でも道連れにすれば恩の字でしょうかねぇええ。

 僕は居たたまれなくなり、玉座の間を出た瞬間、ダッシュで王城を抜け出した。

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