ジョジョジョ城
無機質な顔で同じ台詞を繰り返すNPCのような我がゴッドマザーに別れを告げ、僕は旅に出た。これから僕が無双する冒険が始まるのだ。
先輩が僕にくれたチート能力は『刀を持ったら最強』だ。
ほんと、わくわくする。
元の世界ではなんの特徴もなく、目立つことのなかった僕だけれど、この異世界では活躍することが約束されているのだ。
手練れの冒険者が束になっても倒せないような強敵を簡単に倒しちゃったり、モンスターに襲われている少女を助けて、ときめくような展開になっちゃったりするんだ。
そのためにも、まずは刀を手に入れよう。
刀が無ければ最強になれないのだから。
だけど、裸一貫で家から出されてしまったので、武器を買うお金もない。王様から軍資金が貰えるってのがテンプレの一つだから、とにかく行ってみよう。
期待してるけども、もしも貰えなかったらどうしよう。
攻略情報を持つ村人よろしく、母上様が教えてくれた道順を頼りに、城へと向かった。
「たしか、武器屋を通り過ぎて次の道を右、だっけ」
剣と盾の絵が彫り込まれた看板のある建物を通り過ぎて、左右に道が分かれているところへ来た。言われた通り右へ曲がると、その先には大きな城があった。いかにもRPGに出てきそうな、石のブロックを積み上げたような城だ。
目的地はもう見えている。そこからはスムーズに城まで辿り着いた。
城の周りは高い塀に囲まれていて、さらにその周りに外堀がある。
跳ね橋が掛けられていて、城門へと続いているので、そこを通るしかないだろう。しかし、跳ね橋の前では兵士がそこを守っていた。
「そういえば、母親に言われて来ただけなんだよなぁ。城に入っても大丈夫かな」
兵士は隆々とした肉体を鎧で身を堅め、槍の石突きを地面に突き立てて、微動だにすることなく、堂々たる態度で直立している。
勝手に城に入ろうとして、不法侵入かなんかで捕らえられるとしたら、刀が無くてチートが使えない僕は、簡単に捕まってしまうだろう。
橋を渡る前に、兵士さんへ一声掛けてみよう。
「あ、あの、すいません」
「ここはジョジョジョ城。木々が沢山あり、鳥たちの美しい声がよく聞こえる素晴らしい城だよ」
「ちょっと、お尋ねしたいのですが」
「ここはジョジョジョ城。木々が沢山あり、鳥たちの美しい声がよく聞こえる素晴らしい城だよ」
返事が変わらない。ただのNPCのようだ。
ゴッドマザーもだけど、この世界の人間は面倒になるとNPCのフリをする習性があるのか。兵士さん、全然目を合わせてくれないし。
まあ、通って良いということなのだろう。
兵士の動きを警戒しつつ、横を通り抜けて橋を渡り始めたが、やはり兵士は微動だにしなかった。ほっと気を抜いて正面を向いたとき、背後から「面倒かけずにさっさと行けや、このクソガキが」と聞こえた様な、聞こえなかったような。うん、聞こえなかったことにして、城に入ろう。
橋を渡り、城門をぬけ、城の中へと入った。
城門も城の扉も開け放たれていたけど、この城の警備が心配になってくる。
さて、王様はどこにいるのやら。
変に歩き回って捕らえられたら嫌だけど。この様子なら大丈夫だろう。
まずは真っ直ぐ進んでみようか。
城内に入って、すぐ目の前に扉があった。
その扉を押し開いて行くと、中庭に出た。
中には沢山の木々が植えられていて、兵士が言っていたように鳥のさえずる声が聞こえた。庭の中央に噴水もあって、迂回してからまた真っ直ぐ進むと扉があった。同じ様に開けて入ると、今度は階段が。
階段を上ると、左右に通路が分かれていた。
どちらも変わらない景色なので、どちらに進むかは運任せだ。適当に右へ進むことにした。途中、いくつかあった窓から覗き見るに、中庭を囲んでロの字に通路がつながっていたようだった。
階段のあった場所の反対側へ来ると、さらに上への階段があった。
階段を上らず通路の先に行けば、恐らく最初の階段へ戻るだろう。
城というものは、何故こう無駄に遠回りさせたがるのだろう。
侵入者を簡単に王の所へ行かせない為なのだろうか。
考えても仕方がないので、階段を昇って上の階へ進んだ。
そこからは一本道だったが、右へ左へ何度か通路を曲がり、行き着いた先には扉があった。
その扉は、今まであった扉よりも多くの装飾が施されていて、金色や赤などの派手な彩りで塗りたくられ、如何にもな雰囲気を醸し出していた。
きっと王様はこの奥だ。
僕は胸を少し高鳴らせながら扉を開けた。