異世界へ導く金髪天使
果てしなく、白塗りの空間だった。
どこまでも白で、その先が数メートルしかないのか、数十キロ続いているのか認識できない。上下の感覚もなく、三半規管が全く機能していない。
そもそも三半規管自体が存在するのかも疑わしい。
何故なら、僕はあの先輩に殺されたのだから。
もしもこの空間に何も存在しなければ、気が狂っていたかもしれない。
しかし、そこには救いがあった。
そう、僕を導くべき神なる存在である。
「はっはっはー、無事に世界の狭間へ来れたようじゃの」
「先輩……ですよね? その恰好何ですか?」
部室で会った先輩も、黙っていれば妹さんに負けず劣らずの美少女であった。しかし、どういうことであろう。目の前の女神は更に美しく、神々しい。部室の先輩とは、全く異なる別のナニカだった。
ツインテールに括っていた髪は解かれていて、サラサラと長く真っ直ぐな金髪は神秘的な煌めきを発してた。
白く美しく輝いて見える肌を、一点の汚れもない純白の衣で身を包み、背中から伸ばした翼と、頭上に輝く天使の輪が、宗教画で描かれる天使の如き印象を、魂に直接刻みつけるようだった。
「これはちょっとしたアバターの様なもんじゃ。本体はさっきの教室におる。しかし、どうした? ワシに見とれてしまったのか? 我が妹にお熱だったのに、ワシに惚れさせてしまったかのぉ。わらわら」
「ち、違いますよ。そんなことある訳ないじゃないですかぁああ。っていうか、さっき『無事に』って言いました!? 無事じゃない場合もあるってことですか!?」
「おお、儚き命を散らした哀れなるモブ太郎よ。神の寛大なる慈悲により、これまでとは異なる世界で新たな生を授かる機会をくれてやろう」
「僕の疑問をスルーしないでくださいよ! というか、その儚き命を散らした張本人ですよね!? 慈悲も何もないでしょう!」
「なかなか良いツッコミじゃぞ。ワシが選んでやっただけのことはある」
「そんな風に言われても嬉しくないですからね。それより、これからどうしたらいいんですか?」
「転生先はこっちで適当に決めるし、肉体は元の世界からコピーして造るし、向こう言語は日本語として理解できるようにしてやるしのぉ。そうじゃなぁ……お主はどういうチートが欲しいか考えるんじゃ」
「欲しいチートですか。急には思いつきませんよー。そもそも心の準備すらなしに殺されちゃいましたしねぇ」
「実はそういうのを考えるのが得意でないから、プロットに苦労しとるのじゃよ。うーん、お主、好きな武器はなんじゃ?」
「好きな武器ですか。そうですねえ、やっぱり刀ですかねぇ」
「ほうほう、良いところをつくではないか、流石オタクじゃのぉ」
「へへ、そうですか? 王道ですよね。なにせ日本人だし、人気のある作品には刀キャラ出てきますしね」
「うむ。では、『刀を持ったら最強』のチートを授けてしんぜよう!」
「おおっ、なんかカッコいいっす! わくわくしてきましたよ、先輩」
「そうじゃろうて。ではモブ助よ、チートを得て異世界へ行くのじゃ!」
「はいっす!」
「ワシの指先をじっと見るんじゃぞ」
僕を指さす先輩の指先が光出した。
言われた通り、それをじっと見つめる。
「ああ、ちなみに向こうでの名前もここで決められるが、今日は面倒なのので適当に『ああああ』にするからな」
「え? ちょ、ま」
「では、ゆくぞ! はい、ドーーーーーーン!!」
先輩の指先は光を増して、視界の全ては白い闇で塗りつぶされた。