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動乱の始まり

友達、友人、親友、フレンド、マイブラザー・・・この世には様々な絆の形がある。

そしてその形は月日が経つにつれより強固に、そして壊れにくいモノになっていく───らしい。


「ふっ、友達・・・か。僕には程遠いものだな」


国中の匠達が拵えた、色とりどりの宝玉が散りばめられた玉座に座りながら、僕は一人愚痴を吐く。

長らくから空席だったこの玉座に座れるのはただ一人、民から認められし『魔王』の称号を持つものだけ。


───なのになんで僕この玉座に座ってるんだろうなぁ、なんて疑問も生まれるけど、それもただ僕の運が良かったというだけに過ぎないということは自覚している。


一昔前に他国の人間の国が攻めてきて、当時親の七光りで軍部に所属していた僕がその殿を勤めなくちゃいけなくなった。だから適当にそれっぽい作戦を提案して逃げようと思ったのに、何故か見事に敵がその作戦に引っ掛かって撤退。

結果的に大勝利という形になってしまった。


お陰でたいした実力も頭脳もないのにトントン拍子で魔王に成り上がってしまって───。


「はぁ、魔王なんか辞めたい」


書類仕事に視察、軍部への指導に加えて法律や新しい案の見直し等々・・・元々地頭が良くないのに、この仕事の量を毎日こなすのはキツイ。


そして何より───。


「・・・やっぱり友達欲しい」


これに尽きる。


僕が生きてきて多分もう百年近いはずだけど、未だに友達どころか、気の置ける存在がいないのが辛すぎる。


前に何度かパーティーを開いて友達作りを画策したけど、パーティーの挨拶回りが多すぎて結局それどころじゃなかった。

いやまぁ、部下達に友達が欲しい!っていえば多分友達作りの場を作ってくれると思うんだけどね?


でも流石にそれは恥ずかしすぎるというか・・・部下達の僕への期待が高すぎて、今さら友達ごときで・・・って思われて失望されたらって考えてしまう。


つまりこの悩みは僕だけが知る、僕だけの悩み。


───だから僕は決めた。


「魔王城、脱出しよ」


───

──




『魔王』。

それは魔族の中で最も畏怖と尊敬を集めし者。

それは魔族の中で最も強く賢き者。

それは魔族の中で最も運と才能を物にした者。


故に魔族の中の王、魔王と呼ばれている。


しかしその中でも今代の魔王は、魔王史上最高の頭脳と強さを併せ持つと言われている。

民からの人気も厚く、率先して雑務や仕事に取り組んでくれることから、部下達からも信頼されていた。


そしてそれは、『魔戦十二守護霆団(プルトンヴェルヌス)』の一人である彼女───ソラスティアにも当てはまる。


「おい貴様ら!もしやその程度で高尚なる魔王様に仕えようというのか!?」


現在彼女は、魔王城二階、第三訓練室にて新人の育成を行っていた。

敬愛すべき魔王の手足となるものが一匹でも増えるようにと、徹底的な実力主義を見せつけているのだ。


怒号が響き渡る訓練室にて、新人の兵士達は悔しさに顔を歪ませて俯く。

彼らも分かっているのだ。


己らの実力程度では魔王様に仕えることは逆に、魔王様の価値を下げてしまう可能性があると。


勿論魔王である彼は全くそんなことを考えていないが、それは知らざることである。


「府抜けどもがッ!もう一度学生から学び直して来るがいいッ!貴様らでは魔王様に仕えるに値しないのだから!!!」


再び響き渡る怒号。

怒りからか、彼女の美しい白髪はゆらゆらと沸き上がり、広大な面積を構え、数万の魔族が押し寄せてもびくともしなかった魔王城がみしみしと悲鳴をあげる。


彼女の相貌も、絶世の美姫と言っても過言ではないモノから、見るものを畏怖させる恐ろしいモノへと変貌する。


そのように、ピリピリを通り越し、ビリビリとした空気感の中───伝令役の兵士が、怒りで震えるソラスティアの側へ近寄り、とある事の顛末を話す。


伝令役の兵士が一つ言葉を紡ぐ度に、ソラスティアの表情がみるみるうちにより険しくなっていき・・・最後には青を通り越して白いとも言える表情でポツリと呟いた。


「け、気高く尊き魔王様が・・・魔王城から・・・消えて、しまわれた、と?」


コクリ、と肯定の意を込め伝令役は頷く。


それを見て、先程までの迫力ある声から一転、心細く震えるような声で嘘だ、と呟く。


嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、と連ねられる言葉。


「私たちは・・・見限られたのか?」


あまりにも痛々しいその様子を見てか、伝令役はソラスティアにとっての救いの言葉を助言した。


───魔王様は恐らく、私たちを試されておられるのでしょう。でなければ、あの崇高なるお方は去られない。私たちの事を見限っておられるならばきっと今頃、私たちは遺骸として土に埋もれているでしょう。


と、伝令役はいう。


「あ、あぁ。そうだ、きっとそうだ。あのお方が私たちを見限る筈がない!そうだ伝令役、きっとお前の言うことは正しいのだろう!そうに違いない!」


伝令役の言葉を聞き、そうに違いないと“思い込む”ソレスティア。

今や彼女にとって魔王とは、自分の命以上に価値ある存在だと認識している。


だからこそ、そんな存在の魔王から己が否定されれば、彼女はきっと───。


「よし、ならば伝令役よ。貴様には私以外の魔戦十二守護霆団(プルトンヴェルヌス)に魔王様を追うな、と伝えろ」


簡単だろう?と伝令役を鋭い眼光で見つめるソラスティア。


しぶしぶと言った表情で頷くと、伝令役はまるで最初からそこにいなかったように消え、後には砂埃が舞うだけとなっていた。


それを見て狂ったように嗤うソレスティア


彼女が伝令役に伝えたのは、魔王様のお相手をするのはこの私だ。私以外の魔戦十二守護霆団(プルトンヴェルヌス)のお前らはすっこんでろ、という意味を込めた言葉だ。


だがそれでも、他のキチガイ女共は追ってくるだろう。

そうなればソレスティアも容赦はしない。


いつしか、魔王様のお側につけるという至極の幸福と、他のライバル共を消し去れるという幸運により、ソレスティアの表情は艶やかさを孕んだモノになる。


それを見た新人の戦士達からは、こんな危険な女を仕えさせる魔王様はきっと自分達の想像する人物よりも凄い方なのだろう、と妄想していた。


そして、自分の知らぬ間に魔王としてのハードルが上がった彼も、きっと自分にも友達ができる筈だ、とほくそ笑みながら自分の収める魔国を奔走する。


こうして、三者三様の思想が入り交じった魔王の逃亡劇によって、人も魔族もその他の種族も巻き込んだ動乱が始まってしまうとは、まだ誰も知らない。

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