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Summoned Beast and Magic  作者: 総督琉
赤月プロローガー
9/38

第8ターン『二度目のバトル』

 1ターン目、俺は『ヒノコ』を一体召喚し、ターンを終えた。

 2ターン目、十夜は『泡狸』を二体召喚し、そのうち一体で攻撃。俺はその攻撃を直接受けた。

 3ターン目、『火の鳥』を召喚し、十夜へ直接攻撃。

 4ターン目、


「そろそろ行こうか。『結晶水竜クレスタペント』を召喚。そして攻撃」


『結晶水竜クレスタペント』

 特殊効果(湖の主):この召喚獣の攻撃は水属性以外は防御できない。


「直接受ける」


「続いて『泡狸』で攻撃」


「攻撃魔法『ネオファイアー』。攻撃力3000以下の『泡狸』を破壊」


「エンドタイムだ」


 勝負は徐々に動き始めていた。

 4ターン目にしてもう序列上の召喚獣を召喚した。


「それでは俺もそろそろ行こうか。赤き鱗に包まれし灼熱の獣よ。今戦場に姿を現せ。『赤甲火獣グレンカッコウ』を召喚」


『赤甲火獣グレンカッコウ』

 火属性、序列上

 召喚条件:自分の火属性の召喚獣が戦場に1体以上いる時

 攻撃力:12000、防御力:9000

 特殊効果1:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全てを攻撃力+3000する。

 特殊効果2:??

 必殺技:??


「師匠ももう引いたんですね。序列上の召喚獣を」


「ああ。今日の俺はカードの引きが良いからな」


「さすがですね。師匠は」


 今の俺の手札には良いカードが多数あった。


「さあこバトルタイムだ。『グレンカッコウ』で攻撃」


「直接だ」


 これで互いに二回ずつ直接攻撃を受けた。

 しかし俺のターンはまだ終わらない。


「続けて『火の鳥』で攻撃」


「『泡狸』」


 グレンカッコウの効果により、『火の鳥』の攻撃力は+3000されている。よって攻撃力は7000。対して『泡狸』の防御力は3000。

『グレンカッコウ』の攻撃力が上回っているため、『泡狸』は破壊される。


「『ヒノコ』、行け」


「直接来い」


 これで残り二回直接攻撃をすれば俺の勝ちが決まる。しかし総攻撃をしたために、戦場に俺を護る召喚獣は全て仮眠状態となって動けない。


「師匠。まるでがら空きじゃないですか」


「魔法を持っているかもしれないぞ」


「ハッタリですか。その手には乗りませんよ」


 十夜はもう一体の『泡狸』を召喚し、『サーペント』を一体召喚した。


『サーペント』

 水属性、序列中

 攻撃力5000、防御力6000


 十夜の動ける召喚獣は五体。

 対して俺を護るものは何もない。


 そんなことを考えていると、十夜は最初に戦った時のように、ある一枚のカードをじっと眺めていた。

 しかしそのカードは使わないのか、バトルタイムへと移行した。


「まずは『泡狸』で攻撃だ」


「攻撃魔法『ダブルフレイム』」


『ダブルフレイム』

 火属性、序列中

 攻撃力6000以下の召喚獣二体を破壊する。


「『サーペント』と『泡狸』一体を破壊する」


 その効果により十夜の召喚獣は二体破壊された。しかしまだ戦場には三体の召喚獣がいる。攻撃すれば勝てるかもしれない。

 俺の手札の枚数は二枚。両方召喚獣ということもあり得るが、どうする?

 待ち構えていると、十夜は『結晶水竜クレスタペント』に触れる。そのまま攻撃してくるのかと思ったが、十夜は躊躇っているようだった。それに呼吸が荒くなっている。


「十夜、大丈夫か」


 声が聞こえていないのか、十夜は荒い呼吸のまま瞳孔を見開いていた。


「はぁぁ、はぁぁ、はぁぁぁ……」



 ーーこういう時に決まって思い出すのは、亡き姉の記憶だ。


 ベッドの上で姉は弱りきっていた。

 入院してから一年が経った。それでも姉が負った病気は治ることはなく、むしろ悪化する一方だった。貧乏だったために、まともな医療を受けられなかったからだ。

 そんなある日、姉の体調が急変した。それも悪い方に。口には呼吸器のようなものをつけられており、とても苦しそうにしていた。


「お姉ちゃん」


「十夜、来てくれたのか」


「来るに決まってるだろ」


 姉は相変わらず笑っていた。

 力ない笑みを浮かべて、俺の腕を握った。その手も相変わらず力がない。


「なあ十夜、私が居なくなってもさ、『Summoned Beast and Magic』、私とやってくれるか?私が死んでも、私と一緒に遊んでくれるか」


「当たり前だ……」


「そうか。なら良かった。これで私はもう悔いはない」


 姉の手の力は徐々に抜けていく。


「それじゃあまたな。十夜」


 それから姉は死んだ。

 病に倒されたまま、姉は死んでいったのだ。

 それから数日は、やはり『Summoned Beast and Magic』、このカードゲームだけはできなかった。俺は姉を失った悲壮感に浸っていると、ある男が俺の前に現れた。


「君が水木十夜くんだね。俺は赤月一輝。赤月家当主だ」


 俺は彼に何の言葉も返せず、ただ黙っていた。


「君の家は俺の家の分家でね、それで君にひとつ提案だ。赤月家の養子になることで、君を貧乏な生活から解放してあげるよ」


「だったら……だったらどうしてお姉ちゃんが苦しんでいる時に来てくれなかったんだ」


 気づけば叫んでいた。


「すまないね。だが今はそんな話はどうでも良いんだ。君は『Summoned Beast and Magic』、略してSBMが上手いらしいね。だから黄みには是非とも赤月十将の一人に加わってほしい。もし加わってくれるのなら、このカードをあげるよ。

『赤月十将《拾》』のカードを」


 俺は入りたくなんてなかった。

 だけど俺はあの男が許せなかった。どうしてもあの男を許せなかった。だから俺は赤月家に入り、それから派手に暴れてやったんだ。

 赤月家なんてどうでもいい。どうでもいいんだ。




 長い走馬灯を見ていた。

 長い長い走馬灯を。


「十夜、大丈夫か?」


「ああ。ひとまずここは、エンドタイムだ」


 5ターン目、師匠は特に召喚獣を召喚することなく、バトルタイムへと入った。


「行け。『グレンカッコウ』。そして特殊魔法『チェインバトル』、指定した召喚獣に攻撃できる。指定するのは当然『クレスタペント』だ」


「まずい」


『グレンカッコウ』の攻撃力は12000。対して『クレスタペント』の防御力は10000。

 破壊される……。


「倒せ。『グレンカッコウ』」


『グレンカッコウ』の攻撃力が上回り、『クレスタペント』は破壊された。


「まずい……」


「続いて『火の鳥』で攻撃」


「直接だ」


 その決断を下した後で後悔した。ここは『泡狸』を犠牲にしてでも防御するべきだった。

 これであと一回直接攻撃を受ければ負けてしまう。残り一回しか猶予がないという状況まで追い込まれるのだけは避けたかった。


「エンドタイム」


 6ターン目、俺は震えながらカードを引いた。

 手札にはここを挽回するカードはある。だがそれだけは出したくなかった。


「『サーペント』を召喚。エンドターー」


「ーーまあ待て。十夜」


「な、何ですか」


「なあお前、手札に強い召喚獣を持っているんだろ。ならなぜ出さない」


 天崎は十夜へと問う。しかし十夜は沈黙する。


「なあお前、今のお前が守っているのはプライドか?それとも意地か」


「ああそうだよ。俺はいつだって意地張って、プライドを傷つけないように生きてきた。だから俺はこの召喚獣だけは使いたくない。これを使えば、俺は家の力に屈したと、そう思って胸を痛くなる。苦しいんだよ」


 確かに強い召喚獣は手札にある。だけどそれは赤月家のカード。俺はそれを出すのに躊躇っていた。


「十夜、意地やプライドを守るのも良いがな、いざという時それを捨てられないようじゃ、大切なものは護れない」


「大切な……人……。お姉ちゃん……」


 だけど、それでも俺はこのカードだけは使いたくなかった。

 だから……


「エンドタイム」


「な、なら俺のターンだ。それじゃバトルタイム。まずは『ヒノコ』で攻撃」


「…………直接だ」


 十夜には防御できる召喚獣はいた。だが彼は防御をしなかった。


「何故だ!?十夜」


 師匠は驚いている。無理もない。

 だけど俺はもう二度と、後悔するであろう選択はしたくない。だから俺はーー


「師匠。やっぱもう良いです。これは俺一人で解決しなきゃいけない。そもそも、この問題自体をあなた方に協力してもらおうとしていたこと自体、おこがましかったんですよ」


「待て。待て十夜」


「師匠、今までありがとうございました」


 そう言って、俺は師匠たちのもとから去っていく。

 これ以上師匠たちには迷惑をかけるわけにはいかないから。


 それにこれは、たった一人、俺が一人で背負った業だ。だから俺は一人で戦わないといけないんだ。

 これは、俺一人の戦いなんだから。

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