第五ターン『赤月十将a』
先攻は相手の少年。
1ターン目は一体の召喚獣も出さずに終わった。
2ターン目、俺は『ヒノコ』を二体召喚し、二体とも攻撃させる。少年は二回ともその攻撃を直接受けた。
3ターン目、『フォックス』を一体召喚。
『フォックス』
光属性、序列下
攻撃力3000、防御力4000
「タイムエンドだ」
「攻撃しないのか?」
「僕はね、君のように戦術も戦略もなく攻撃はしないんだよ。それさえ持っていれば、あとはなぞるだけさ。勝利への道筋を」
少年は真っ直ぐに俺を見て言う。
その眼差しからは本当に勝利を見据えているかのような雰囲気を感じさせる。
「さあ次は君のターンだ」
4ターン目、俺は『火の鳥』を一体召喚した。
そして『火の鳥』でそのまま攻撃する。
「直接受けるよ」
少年は相変わらず俺の攻撃を直接受けた。おかげであと二回直接攻撃をすれば勝てるとこまで来ている。
残り二体で攻撃することも考えたが、戦場にはまだ相手の召喚獣も降り、魔法も警戒して防御に徹することとし、ターンを終えた。
5ターン目。
「まだ5ターン目、君は戦いを進めるのが早いね。でもカードゲームは楽しむためにあるんだから、もっとゆっくり遊ぼうよ」
そう言って少年は『フォックス』を召喚し、タイムエンドした。
「良いのか?勝つぞ」
「君は君がやりたいように勝負をしなよ」
マイペース、の塊だ。
この少年のマイペースに、俺のマイペースが崩されている。
だがこのターンでごり押しすれば、"勝てる"。
6ターン目、俺は『赤甲獣カッコウ』を召喚し、バトルタイムへと入る。
「ここで仕留める。『ヒノコ』で攻撃」
「直接受けよう」
「何!?」
意外な選択に動揺し、再びマイペースが乱された。
「続きはないのか?」
「あ、ああ。もう一体の『ヒノコ』で攻撃」
「魔法発動、『バーニングレイ』」
『バーニングレイ』
火属性、序列上、攻撃魔法
効果:攻撃力10000以下の相手の召喚獣全てを破壊する。
「そんなカードを持っていたか……!」
たとえ『カッコウ』の召喚時の効果で攻撃力が+2000されたとしても、この戦場で最も高い攻撃力を持つのは10000。つまり俺の召喚獣は全て破壊された。
「最初からこれを狙っていたのか」
「言ったじゃん。戦略と戦術だって」
少年はマイペースにカードを引き、自分のターンを始めた。
7ターン目でようやく少年は動き出した。
「じゃあ僕の最強の召喚獣を召喚しようか。序列上の光属性召喚獣『赤月十将《仇》キュウコン』、召喚だ」
九つの尻尾を持ち、赤い瞳を持ち、鎧を身に纏った巨狐。
「赤月……十将……」
赤月、俺の弟子の名字が入っている。これは一体……
『赤月十将《仇》キュウコン』
光属性、序列上
召喚条件:戦場に光属性の召喚獣が一体以上いる時
攻撃力:7000、防御力:11000
特殊効果1:???
特殊効果2:???
必殺技:???
「続いて戦場魔法、『十将円』を設置」
『十将円』
光属性、序列上
効果:戦場にいる赤月十将と名のつく召喚獣の効果を自分の召喚獣全てに付与する。
「さあ開演だ。バトルタイム、『フォックス』で攻撃」
「『ネオファイアー』、この魔法の効果により、攻撃力3000以下の『フォックス』を破壊する」
「ではもう一体の『フォックス』で攻撃」
「直接受ける」
「続いて『キュウコン』」
「直接だ」
「タイムエンド。そしてタイムエンド時、『キュウコン』の効果2"光狐の癒し"を発動。この召喚獣を回復させる。そして戦場魔法の『十将円』により、この効果を戦場にいる自分の全ての召喚獣に付与。よって『フォックス』を回復」
全て計算され尽くしている。まさしく戦略と戦術。
油断していたためか、召喚獣を全て失ってさすがに落ち込んでいた。
8ターン目。
手札にはそれほど強い召喚獣はいない。それどころか先ほどデッキに入れている召喚獣の中でかなり強い召喚獣である『赤甲獣カッコウ』を破壊された。
つまりあの召喚獣を破壊する召喚獣はもう、俺のデッキにはーー
目を瞑り、俺はカードを引いた。
そこで手にしたカード、それは俺がデッキに入れていなかったはずのカードだ。
まさか天崎が入れてくれていたカードか。
そのカードを手にした俺は安堵する。
「まだ勝てる兆しはある。勝ってみせる」
俺は『火の鳥』を召喚し、『リザードマン』を召喚した。
『リザードマン』
序列:中、属性:火、攻撃力6000、防御力5000
「続いて戦場魔法『炎上網』を設置」
『炎上網』
火属性、序列中
効果:戦場にいる火属性の召喚獣一体につき、火属性の召喚獣の攻撃力を+1000する。
これでも『リザードマン』の攻撃力は8000。『キュウコン』の防御力11000にはまだ届かない。
もしずっと『キュウコン』を破壊できなければ、タイムエンド時に毎回回復し、攻撃と防御の面において鉄壁の壁となって立ちはだかる。つまり早めに倒さなければいけない。
「バトルタイム。『リザードマン』で攻撃」
「『キュウコン』で防御すれば『リザードマン』は破壊。『フォックス』で防御すれば『フォックス』は破壊される。だがこの状況で攻撃してくるということは、『キュウコン』を破壊する手だてがあるのかな」
「あるさ。だから『キュウコン』で防御しろ」
「嫌だね。僕は挑発には乗らないよ」
「いいや。どのみち乗らなきゃいけなくなるさ。光属性の特殊魔法『チェインバトル』。指定した召喚獣に強制的に攻撃できる。『キュウコン』を指定」
天崎がデッキに入れてくれたカードで、俺は『キュウコン』に戦いを挑むことができた。
だがこのままでは『キュウコン』に破壊されるだけ。
「強化魔法『ヒートアップ』。この魔法により、『リザードマン』の攻撃力は+3000される」
「つまり『キュウコン』と同じ11000まで肩を並べたか」
「こいつの攻撃を受けてみろ」
「残念だね。『キュウコン』の効果1"十将印"を発動。この効果の内容をよく聞いておけ。この召喚獣の持つ属性の魔法の効果は受けない。『キュウコン』の属性は光、『チェインバトル』の属性は光、つまりその魔法の効果は受けない」
「つまり……」
「『リザードマン』の攻撃は『キュウコン』ではなく『フォックス』で受けるよ」
それにより、『リザードマン』はただ『フォックス』を破壊しただけで終わった。
「人の話はちゃんと聞くものだよ。そうしないと、そうやって先走って無意味な魔法ばかり使う羽目になるからさ」
熱くなりすぎず、少年の行動を待つべきだった。それは紛れもない事実だ。
「タイムエンド……」
「君、素人でしょ。だからこそ勝てると思った瞬間に飛び込んでしまう。そういうところが君を誘っていくんだよ」
少年は『ファルコン』を二体召喚する。
『ファルコン』
光属性、序列下
攻撃力:4000、防御力:4000
「それじゃあ殲滅だよ。『ファルコン』で攻撃」
「『火の鳥』で防御」
『火の鳥』の防御力は3000、それに対し『ファルコン』の攻撃力は4000。よって『火の鳥』は破壊。
「続いて『ファルコン』で攻撃」
「直接受ける」
「それじゃ次、『キュウコン』、行け」
「直接だ」
これで俺が直接攻撃を受けられる回数は残り一回。
「面白くなってきたね」
そう微笑みながら、少年のターンは終了する。
タイムエンド時に発動する『キュウコン』の効果により、少年の召喚獣は全て回復した。
「次、君だよ」
10ターン目、俺はカードを引いた。
そのカードを眺め、俺は顔をしかめる。
「師匠……大丈夫ですか」
弟子の赤月十夜は心配そうな眼差しで俺を見ている。
弟子の前で師匠が負けるなど、あってはならない。だから俺は負けられない。考えろ、今俺にできることを。
「『フレイムタウロス』を召喚」
『フレイムタウロス』
火属性、序列中
攻撃力:7000、防御力:4000
「また随分と強そうなカードが出てきたな。だがたった二体の召喚獣ではこの戦況はひっくり返せない」
「ああ。確かにひっくり返せないさ。だからタイムエンドだ」
「なるほど。じゃあ次でとどめを刺しちゃうよ。三体目の『ファルコン』を召喚。そして攻撃」
「『リザードマン』で防御」
『リザードマン』の防御力が『ファルコン』の攻撃力を上回っていたために、『ファルコン』は破壊される。その瞬間、俺は最後の手札を使い、魔法を発動する。
「防御魔法『フリーズドライ』を発動」
『フリーズドライ』
氷属性、序列上
効果:このターンを終了させる。
「へえ。1ターン粘ったか。でも結局一体破壊されただけで何も変わらない。君がよっぽど良いカードを引かない限りはね」
「一発逆転のカード、俺は引く」
俺はカードを引いた。
それはーー
「まだ見せていなかったよな。俺のデッキの序列上の召喚獣を」
「見せてくれるのかい?」
「ああ。今こそ姿を現せ。『赤甲火獣グレンカッコウ』」
『赤甲火獣グレンカッコウ』
火属性、序列上
召喚条件:自分の火属性が戦場に1体以上いる時
攻撃力:12000、防御力:9000
特殊効果1:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全てを攻撃力+3000する。
特殊効果2:??
必殺技:??
「さあとどめの時間だ」
「来るか。だが三対三では相討ちだ」
「『赤甲火獣グレンカッコウ』で攻撃」
「『ファルコン』、防御だ」
『グレンカッコウ』は『ファルコン』を容易く破壊した。
「さすが序列上の召喚獣。序列下の召喚獣など圧倒できてしまうのか」
「ああ。それにまだ効果は終わっていない」
「は?」
「特殊効果2"紅蓮"発動。この召喚獣の攻撃で相手の召喚獣を破壊した時、その召喚獣と序列が同じ召喚獣を破壊する」
「何!?」
「よって、もう一体の『ファルコン』を破壊する」
その効果によって『ファルコン』は破壊された。
「続いて『フレイムタウロス』で攻撃」
「『赤月十将《仇》キュウコン』で防御だ」
『フレイムタウロス』は破壊される。
しかし、戦場にはもう一体、動ける召喚獣がいた。
「とどめを刺せ。『リザードマン』」
相手に防御できる召喚獣はいない。つまり相手がとれる選択はたったひとつ。
「直接だ」
少年が受けられる最後の直接攻撃を与え、俺は勝利する。
よってこの勝負に、俺は勝利した。




