第4ターン『狩人』
次の日、俺は朝早くから起き、デッキを眺めていた。
世界一位の天崎に改変してもらったデッキを見て気づいたのだが、天崎はそれほど俺のデッキを変えてはいなかった。ただ何枚かカードを加えただけで、最初のデッキからカードは一枚も減っていない。
デッキの真実に気づき、俺は驚く。
しばらくデッキを眺めた後、俺は時計を見た。
「もうすぐ正午か」
デッキを眺めているだけで長い時間が過ぎていたことに気づき、やや驚く。
「早く行かないと」
足早にカードショップに向かっていると、携帯を家に置いてきたことに気づいた。
既に電車に乗った後、なけなしの金を切符に変える前に気づければまだ間に合った。テレポートして家に帰れれば良いが、生憎この世界に魔法はない。
「まあ、良いか」
脳内で繰り広げられた一進一退の攻防の末に、俺は電車に流されるがままにカードショップへと赴く。
電車で六分、二駅分進み、電車を降りる。改札を出てそこから徒歩五分ほどの場所にカードショップはある。
入ると既に天崎と赤月が待っていた。
天崎は頬を膨らまし、明らかな怒りを表情を見せていた。
「すまん。遅れた」
「巫、何回も電話したんだぞ。それなのに何故出ない?」
「携帯、家に忘れちゃった」
天崎は深いため息を吐く。
「もう、次からはちゃんとしてよね。巫にはやがて私を越えてもらわなくちゃいけないんだから」
「面目ない」
俺は顔をうつむかせたまま何も言えない。
「まあ良いよ。というか巫がいない間に一通り話し終えちゃったから分からないことがあってもあんま聞き返さないでよ。遅刻の罰だ」
「はい……」
一体何の話をしていたのだろうか?
恋ばなか、それとも陰謀の話とか、だったらこの世界の裏にある巨大な悪の組織とか、まあ何にせよ、俺はその真相が教えられないということだ。
寂しさはあるが、罰なら甘んじて受け入れよう。
「それじゃ巫、早速来るだろうからよろしくね」
「来るって、一体何が?」
「何がというより、誰かの方が正しいかな。それにその正体は後ろを見れば分かると思うよ」
「後ろ?」
一体誰がいるのかと振り返って見ると、そこには見知らぬ少年が俺の方をじっと見て立っていた。
犬のフードを被り、犬のぬいぐるみを狂おしいほどに抱き抱えている。
「ねえお兄さん、お兄さんが十夜の野郎が言ってたカードゲーマーかこの野郎」
幼い笑顔を浮かべながら、その表情に似合わない毒舌を吐き出すこの少年は一体何者だ?
「それじゃ早速始めよう。僕の召喚獣たちは暴れたくて仕方がないって騒いでいるんだ」
「なるほど。お前と戦えば良いんだな」
「一応言っておくけど、もし負けたら大変なことになっちゃうから気をつけなよ」
「大変なこと?」
「そ。大変なこと」
聞き返そうとする前に少年が椅子に座ったために、その大変なこととやらが聞けないまま勝負を始めることとなった。
俺はデッキから五枚カードを引く。それに対し、少年はデッキを置かない。何をしているのかと思っていると、いきなり犬のぬいぐるみの口に手を突っ込みそこからカードを引いていった。
「1、2、3、4、5。五枚だね」
「それ、反則とかじゃないのか?」
「公式戦じゃないし良いでしょ。ただの遊びの戦いさ。じゃ、始めよう」