第33ターン『やがて決勝戦が始まる』
準決勝で勝利に、残るは決勝戦となった。
「朝比奈楴、凄く強いデッキだったな。必殺技を使われた時は負けるかと思ったよ」
「ありがとうございます。世界13位の人に言われると嬉しいです」
楴は嬉しそうにしていた。
楴は実際、俺をあと一歩まで追い詰めている。それほどまでにこの男は強かった。
「師匠。私の自慢のお兄ちゃんを倒しちゃうなんてさすがですね」
「かなり接戦だったがな。あそこで『サクリファイス』の魔法が引けていなかったら負けていたよ」
「じゃあやっぱり私のお兄ちゃんは強いんだね」
暝は終始楽しそうにしている。
「師匠、私のお兄ちゃんを倒したんですから、この大会、必ず優勝してくださいよ」
「ああ。任せろ」
とは言ったものの、準決勝でこれほど苦戦し、決勝ではどれほど苦戦するのか緊張で疲弊していた。
俺の次なる相手はまだ決まっていない。向こうの戦いはかなり長引いている様子だった。
「なあ暝、向こうの戦いは今何ターン目だ?」
「今はもう16ターンは続いているかな」
「20ターン!?」
さすがの長さに俺は驚いていた。
20ターンも続いている。それはどちらも強い、ということに他ならない。
「けど、そろそろ決着が着くと思うよ」
空崎千棘VS幕末平家の戦い。
お互いに直接攻撃をすれば四回受けており、先に直接攻撃をした方が勝ちという接戦までもつれ込んでいた。
現在幕末平家のターンであり、彼の召喚獣は三体。手札は二枚。
対して空崎は召喚獣一体、手札は二枚とやや劣勢に置かれていた。
「勝敗はほぼ決しているな。幕末の方が優勢だ」
暝はそう呟く。
確かに現状は幕末が有利であった。
だが空崎という少女、彼女の目はまだ死んでいない。まるで勝利を確信しているかのような、そんな目だ。
幕末は序列上の召喚獣で攻撃する。
その際、空崎は魔法を使用した。
「防御魔法『ゼロシールド』を使用」
『ゼロシールド』
序列上、氷属性
効果:自分の召喚獣全てを破壊することで、このターンの間、自分は直接攻撃を受けても無効化できる。
戦場にいた『ヒノコ』は破壊される。
それにより、幕末の直接攻撃は無効化された。
「タイムエンド」
このターンを凌ぎ、とうとう21ターン目。
勝利を確信しているのか、空崎は微笑んでいる。
「来た。私の最強の召喚獣。『リザードマン』を召喚」
「『リザードマン』?」
さすがに皆首をかしげる。
『リザードマン』は序列中の召喚獣であり、その上それほど強くない。それが最強の召喚獣でここまで生き残ったというのだろうか。
「ここで決めるよ」
「いいや。無理だ」
空崎の手札は残り一枚。そして戦場には召喚獣は『リザードマン』だけ。
しかし幕末の手札は三枚で、その上動ける召喚獣が二体もいる。ここで仕留められるとは思わないが……
「決めるさ。強化魔法『覇王継承』を使用」
『覇王継承』
序列上、火属性
効果:火属性の召喚獣一体を指定し、"覇王"の効果を付与する。
覇王の効果:この召喚獣は、相手の召喚獣を破壊する度回復する。
「その手があったか……」
その魔法の使用により、『リザードマン』は破壊されるまで、もしくは直接攻撃をするまで回復し続ける獣となった。
このタイミングでその魔法、それは幕末を唸らせた。
生憎、幕末の召喚獣は二体とも防御力が『リザードマン』の攻撃力よりも劣っている。
「バトルタイム。『リザードマン』で攻撃」
「くそ。ここまでか……、直接受ける」
よってこの勝負、空崎の勝利。
つまり俺の相手は空崎という不思議な少女となった。
「空崎……」
そういえばどこかで聞き覚えのある名前だが、一体どこで聞いた名だろうか。
それにあの顔、どこかでーー
空崎は俺のもとへとやって来た。
「あなたと戦える日を待っていましたよ」
空崎は満面の笑みで俺にそう言ってきた。
やはりこの少女、どこかで見覚えが。
必死に思い出し、そして思い出した。
この少女とは一度、カードショップで会っている。まさかその少女とこんな感じで会えるとは。
「久しぶりですね。まさかあなたが世界ランキング13位だったとは驚きましたよ」
「俺も、あの時の少女がここまで強いとは思わなかったよ」
「必ず勝ちますよ。あなたの期待に応えるために」
「楽しみだ。まあ、勝つのは俺だが」
決勝戦、開幕。
ハロウィーンの夜に、最後のバトルが始まる。