第32ターン『復活の兄』
準決勝。
ここまで生き残ったのはわずか四人。
勝ち残っているのは巫一色、朝比奈楴、空崎千棘、幕末平家の四名。
その四人の対戦カードが発表される。
巫一色VS朝比奈楴、空崎千棘VS幕末平家
「俺の相手は朝比奈楴か」
俺は聞き覚えがあった。
朝比奈、その名は確か、弟子の朝比奈暝と同じ姓。
まさかなと思いつつ、俺は対戦相手の朝比奈楴が待つ対戦場所まで移動する。そこには朝比奈楴と思われる男がおり、その背後には朝比奈暝が立っている。
「お兄ちゃんの次の対戦相手はあなたでしたか。師匠」
「なるほど。やはり俺の次の対戦相手はお前の兄か」
「そうですよ。私のお兄ちゃんは世界一なんです。だからお兄ちゃん、師匠を倒してくださいね」
「さすがに……。だってあの人世界ランキング13位の人でしょ」
兄は弱気になっている。
そんな楴の背中を暝は思いきり叩いた。
「お兄ちゃん。それでもお兄ちゃんはお兄ちゃんなのですか。お兄ちゃんはもう少し自分に自信をもってよ」
「そう言われてもな……」
「勝ってよ。昔みたいに強いお兄ちゃんを見せてよ。可愛い可愛い、私に」
楴は自信はそれほどない様子だが、それでもさっきよりかは少し自信を得ている様子だった。
「別に、勝てるかは分からないけど、まあ全力で行く」
「さすがはお兄ちゃん。頑張ってね」
「たとえ相手が誰であろうと、俺はこの手で立ち向かう。もう逃げたりなんかしない」
楴は自分のデッキを戦場に置いた。
それに合わせるように、俺もデッキを戦場に置く。
「それでは始めるか。勝負を」
先攻は楴になった。俺は後攻。
1ターン目
「『ドロー4』。この魔法によりデッキから四枚ドロー」
『ドロー4』
序列上、無属性
効果:自分のデッキから四枚ドローする
「いきなり四枚ドローかよ……」
「運が味方しているな」
楴は少しずつ自信を取り戻しつつあった。
「『フレイムタウロス』、並びに『サーペント』を召喚」
『フレイムタウロス』
序列中、火属性
攻撃力7000、防御力4000
『サーペント』
序列中、水属性
攻撃力5000、防御力6000
「やはり多属性デッキか」
「多属性デッキは俺の得意分野ですから」
多属性だからこそ、相手の動きは読みづらい。
多属性であるということは、たったひとつの属性に気を配るだけでなく、全ての属性に対して気を配る必要がある。
そのため、相手にするにはやりづらい。
「タイムエンド」
2ターン目
「『火の鳥』を召喚。タイムエンド」
『火の鳥』
序列下、火属性
攻撃力4000、防御力3000
「次に戦場魔法『炎上網』を設置」
『炎上網』
火属性、序列中
効果:戦場にいる火属性の召喚獣一体につき、火属性の召喚獣の攻撃力を+1000する。
「タイムエンド」
3ターン目
「『サンダートライアングル』と『フォックス』を召喚」
『サンダートライアングル』
雷属性、序列下
攻撃力4000、防御力4000
『フォックス』
光属性、序列下
攻撃力3000、防御力4000
現在、戦場には火属性、水属性、雷属性、光属性の召喚獣がいる。
その上相手の召喚獣は『フレイムタウロス』『サーペント』『サンダートライアングル』『フォックス』の四体。
対してこちらは『火の鳥』のみ。
「いきなり追い込まれたかよ……」
「行かせてもらうぞ。『フレイムタウロス』で攻撃」
「そう来るよね。でもそう来るって分かっていたから、対策していないはずがないだろ。攻撃魔法『バーニングレイ』」
『バーニングレイ』
序列上、火属性
効果:攻撃力10000以下の相手の召喚獣全てを破壊する
その魔法により、楴の召喚獣は全て破壊された。
先ほどまでいた四体の召喚獣は、序列上の攻撃魔法によって破壊された。
「まだ3ターン目でそれを出しますか」
「ここまで追い込んだのはお前だろ。このつけは必ず払ってもらうぞ」
それを聞き、楴は少し嬉しそうだった。
「そうですか。俺が、あなたを追い詰めた……のですね」
楴は闘志に満ちていた。
今の彼なら、きっと巫すらも倒してしまうだろう、そんな予感がしてならない。
「タイムエンド」
4ターン目
「『ドロー3』。デッキから三枚ドロー」
『ドロー3』
序列中、無属性
効果:デッキから三枚ドローする
手札補充の魔法。
これで良いカードを引けるかどうかだが……
「『フレイムタウロス』を二体召喚」
『フレイムタウロス』
序列中、火属性
攻撃力7000、防御力4000
そして既に設置していた戦場魔法『炎上網』の効果により、自分の全ての召喚獣は攻撃力+3000。
「バトルタイム。『フレイムタウロス』二体で攻撃」
「ここは……直接受ける」
一瞬他の手を使おうとしていたみたいだが、それを先送りにし、直接受けることを選んだ。
おかげで俺は直接攻撃を二回することができた。
「タイムエンド」
防御できる召喚獣に『火の鳥』を残し、ターンを終えた。
5ターン目
「『サンダートライアングル』を召喚
『サンダートライアングル』
雷属性、序列下
攻撃力4000、防御力4000
「続けて戦場魔法『属性神殿』を設置」
『属性神殿』
序列中、無属性
効果1(多属性):この戦場魔法は何属性にも変化することができる。
効果2(属性の裁き):自分の召喚獣が異なる属性の召喚獣を破壊した時、自分の召喚獣全ての属性と異なる相手の召喚獣を一体破壊する。この効果は1ターンに一度のみ発動可能。
「多属性用の戦場魔法か……」
「まだまだだ。次に『ヒノコ』を召喚」
『ヒノコ』
序列下、火属性
攻撃2000、防御力2000
「バトルタイム。『サンダートライアングル』で攻撃」
「防御魔法『アンダーシールド』」
『アンダーシールド』
序列下、無属性
効果:このターンの間、序列下の召喚獣の攻撃では直接攻撃を受けない。
「直接受ける、が、その攻撃で俺は負傷しない」
「タイムエンド」
6ターン目
そろそろここで差をつけたい。
「とうとうお出ましだ。『赤甲獣カッコウ』を召喚」
『赤甲獣カッコウ』
火属性、序列中
攻撃力8000、防御力5000
特殊効果:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全ての攻撃力を+2000する。
「行くぞ」
俺の召喚獣は『火の鳥』と『フレイムタウロス』が二体、『赤甲獣カッコウ』の合計四体。
「『火の鳥』で攻撃」
「攻撃魔法『序列爆爆』を使用」
『序列爆爆』
序列中、無属性
効果:自分の召喚獣を一体破壊することで、その召喚獣と序列が同じ相手の召喚獣を破壊する。
「『ヒノコ』を破壊する。『ヒノコ』の序列は下であるため、その序列と同じ『火の鳥』を破壊する」
これで『火の鳥』の攻撃自体がなくなった。
「まだだ。『フレイムタウロス』でーー」
「ーー防御魔法『ストライクシールド』」
『ストライクシールド』
序列中、無属性
効果:このターンの間、序列上以外の召喚獣の直接攻撃を受けない。
「つまりこのターン攻撃しようとも、俺は直接攻撃はされない。攻撃してきても良いんだけどね」
「タイムエンド」
7ターン目
防御魔法によってこのターンを凌がれた。
それにより、未だ直接攻撃回数は増えていない。
この相手のターンを凌げば、次で一回くらいは直接攻撃を行える。
「『サーペント』と『ホーリーナイト』を召喚」
『サーペント』
序列中、水属性
攻撃力5000、防御力6000
『ホーリーナイト』
序列中、光属性
攻撃力7000、防御力3000
「そして『エレメントドロー』」
『エレメントドロー』
序列中、無属性
戦場にいる全ての召喚獣の属性の種類だけデッキからカードをドローできる。
現在戦場にいる召喚獣の属性数は火、水、光、雷の四つ。
それにより、楴はデッキから四枚ドローした。それにより、楴の手札は四枚になった。
そこで良いカードを引いたのか、楴は不敵に微笑む。
「来た。多属性デッキならではの召喚獣。13位さん、覚悟は良いですか」
「来い」
楴は一際輝くカードを戦場に召喚する。
「三つの属性を司りし召喚獣よ。今戦場に現れよ。『水光雷神タテガミ』を召喚」
『水光雷神タテガミ』
序列上、水光雷属性
召喚条件:自分の水、光、雷属性の召喚獣が一体ずつ以上戦場にいる時
攻撃力15000、防御力15000
特殊効果1(タテガミ):相手の召喚獣を破壊した時、更にもう一体破壊する。
特殊効果2(属性強化):戦場にある属性ひとつにつき、自分の召喚獣の攻撃力を+1000する。
必殺技:???
「ここに来て……序列上の、召喚獣」
召喚条件が厳しいからこそ、この召喚獣は恐ろしい。
序列上の召喚獣。この召喚獣の強さはいかに……。
「では行きますよ。行け、『水光雷神タテガミ』」
たとえこの召喚獣の攻撃を受けたとしても、まだ『サンダートライアングル』『サーペント』『ホーリーナイト』の三体が残っている。
「ここは……直接受ける」
「続けて『ホーリーナイト』で攻撃」
『ホーリーナイト』の攻撃力は7000。そこに戦場の属性数は四つのため、+4000される。
つまり攻撃力は11000と、もはや序列上の召喚獣並みの攻撃力を有している。
直接受けようとするが、ここでむやみに攻撃を受けるわけにはいかない。
「仕方ない。ここは『フレイムタウロス』で防御する」
『フレイムタウロス』の防御力は4000のため、あっさりと破壊される。
「タイムエンド」
「もう良いのか?」
「はい。あなた相手に無策に攻撃すれば深手を負う可能性があるので」
楴はタイムエンドを選んだ。
8ターン目
現状の戦況は五十歩百歩。どちらかが不利でも有利でもない、いわば沈黙の状況。
しかし既に相手に序列上の召喚獣が出ている以上、必殺技に警戒をしなくてはいけない。だがその効果が不明のため、ここはどう対策をとるかだが……
「ドロータイム」
引いたカードは『ダブルフレイム』。
『ダブルフレイム』は攻撃力6000以下の相手の召喚獣二体を破壊するというものであるが、相手の召喚獣は全て攻撃力+4000されているため、どの召喚獣も破壊できない。
ーーさあ、どうする。
俺は『リザードマン』を召喚する。
『リザードマン』
序列中、火属性
攻撃力6000、防御力5000
これで俺の召喚獣は『赤甲獣カッコウ』『フレイムタウロス』『リザードマン』の三体。
攻撃するのも良いが、ここで仕留めきれないというもの事実。
だが攻撃しなければ勝てない。
「バトルタイム。『赤甲獣カッコウ』で攻撃」
「直接受ける」
「続けて『リザードマン』で攻撃」
「なるほど……。まあ良いか。『サンダートライアングル』で防御」
『リザードマン』は『サンダートライアングル』を破壊する。
これにより、戦場の属性は三つになった。
「タイムエンド」
9ターン目
相手のターン。
「ここは……『ボルボルト』を召喚」
『ボルボルト』
序列中、雷属性
攻撃力6000、防御力6000
「次に『ドロー2』によりデッキから二枚ドロー」
それを引き、楴は微笑む。
「バトルタイム」
相手の召喚獣は四体。
『サーペント』『ホーリーナイト』『ボルボルト』『水光雷神タテガミ』。
だが俺の動ける召喚獣は一体のみ。
「ここで決める。バトルタイム、『必殺技発動魔法』を使用」
「ここに来て必殺技……」
「発動させるのは『水光雷神タテガミ』の必殺技」
さあ、どんな必殺技だ。
『水光雷神タテガミ』
必殺技(発動可能時:自分のバトルタイム時)
属性束縛・魔:このターンの間、戦場にある属性の魔法は使うことができない。
「何!?」
相手の戦場魔法『属性神殿』、それはどの属性にもなることができるという効果を持っている。
そのため、この必殺技ではどの属性の魔法も使えないということになる。
魔法を使えない、ということはこのカードゲームにおいて、心臓にナイフを突き立てられているようなものだ。
ーーまずい。
俺が直接攻撃を受けられる回数は残り四回。
相手の召喚獣は四体、対して俺は動ける召喚獣が一体。
「行きますよ。『水光雷神タテガミ』で攻撃」
「直接受ける」
「続けて『ホーリーナイト』で攻撃」
「『フレイムタウロス』で防御する」
「『サーペント』『ボルボルト』で攻撃」
「どちらも直接だ」
総攻撃により、俺は三回の直接攻撃を受け、その上一体の召喚獣を失った。
かなりの深手を負うことになった。
「タイムエンド」
10ターン目
俺はあと二回直接攻撃をすれば勝てるわけだが、総攻撃をしてきたということは、このターンを凌ぐ策があるのだろう。
ならこのターンで決めさせてはくれないか。
ーーいや、決めなければ。
「行くしかない。魔法『ドロー2』により、デッキから二枚ドロー」
引いたカードの片方は、俺が待っていたカードだった。
「行ける。このターンで勝つ」
俺の召喚獣は『赤甲獣カッコウ』と『リザードマン』、そしてーー
「来い。俺の相棒。『赤甲火獣グレンカッコウ』を召喚」
『赤甲火獣グレンカッコウ』
火属性、序列上
召喚条件:自分の火属性の召喚獣が戦場に1体以上いる時
攻撃力:12000、防御力:9000
特殊効果1:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全てを攻撃力+3000する。
特殊効果2(紅蓮):この召喚獣の攻撃で相手の召喚獣を破壊した時、その召喚獣と序列が同じ召喚獣を破壊する。
必殺技(発動可能時:バトルタイム)
紅蓮灼熱砲:攻撃力18000以下の相手の召喚獣を破壊する。
これで俺の召喚獣は三体。
二回の直接攻撃をすれば勝てる。
「バトルタイム。進め、『赤甲火獣グレンカッコウ』」
「回復魔法『回復』」
『回復』
序列中、無属性
効果:自分の召喚獣一体を回復させる。
「この魔法により、『水光雷神タテガミ』を回復。そしてその攻撃は『水光雷神タテガミ』で防御する」
だが『赤甲火獣グレンカッコウ』の攻撃力は12000+3000+3000で18000。
対して『水光雷神タテガミ』の防御力は15000。
「倒せ。『グレンカッコウ』」
「いいや、まだだ」
楴は残り三枚の手札の内、二枚を使用する。
「強化魔法『プラスアーマー』」
『プラスアーマー』
序列下、無属性
効果:自分の召喚獣一体の防御力を+2000する
それを二枚使用する。
つまり『水光雷神タテガミ』の防御力は+4000。
15000+4000で19000。
「貫け。『タテガミ』」
『赤甲火獣グレンカッコウ』は破壊される。
それでもまだ攻撃は終わらない。
「まだだ」
楴の手札は一枚。
ならここは攻める他ない。
「バトルタイム。『赤甲獣カッコウ』で攻撃」
「直接受けるーー」
そしてすかさず、楴は残り一枚の手札を使用し、魔法を発動させる。
「『フリーズドライ』」
『フリーズドライ』
序列上、氷属性
効果:このターンを終了させる。
「このターンは終了だ」
「いいや。なんとしても、このターンだけは終わらせない」
ーー天崎、あなたから貰ったこのカード、使わせていただきますよ。
「魔法発動。『サクリファイス』」
『サクリファイス』
序列上、光属性
自分の召喚獣一体を破壊することで、相手の魔法を無効化する。この効果で魔法を無効化した時、破壊した召喚獣で攻撃し、その後その召喚獣を墓地に送る。
「お前の手札はゼロ枚。この魔法は防げない」
「くっ……、ここまでですが」
「『リザードマン』を破壊し、魔法を打ち消し、『リザードマン』で直接攻撃」
「参りました。やはりあなたは強いですね。妹が心底惚れるはずですよ」
この勝負、俺の勝利。
接戦の末に、俺はなんとか勝利した。




