第2ターン『ーー階段の一段目』
勝負が始まった。
ターンの流れは基本、『タイムスタート』で自分のターンが始まり、そこで仮眠状態だった自分の召喚獣が回復する。
次に『ドロータイム』でデッキの上からカードを引き、『サモンズタイム』で手札の召喚獣を戦場に召喚する。
そして『バトルタイム』で召喚獣が攻撃を行える。このタイムで相手が攻撃した際、相手のターンであろうと初めて自分は魔法を使える。
そして『タイムエンド』で一通りのターンは終了する。
俺はその通りにゲームを進めていく。
1ターン目は俺は戦場に『火の鳥』を召喚し、ターンを終えた。
2ターン目は相手のターン。ここで相手のデッキを見極める時。男は手札を眺めて微笑んだ。
「俺は引き運が良いみたいだ。おかげでこのターンから最強の召喚獣が召喚できる」
「何!?」
男はまず序列下、水属性の召喚獣『泡狸』を二体召喚した。その後もう一体の召喚獣を召喚した。
「出でよ、『結晶水竜クレスタペント』。水属性の序列上の召喚獣だ」
結晶水竜クレスタペント
水属性、序列上
召喚条件:水属性の召喚獣が二体以上戦場にいる時
「条件を満たしたので、この召喚獣は戦場に召喚される」
見るからに強そうな召喚獣だ。
攻撃力12000、防御力10000。
2ターン目から序列上の召喚獣の登場に、俺は手足を震わしていた。
(勝てるのか。俺は、この男に勝てるのか?)
「さあ攻撃開始だ。早速行け。『クレスタペント』」
攻撃力は12000、対して『火の鳥』の防御力は3000。
「『火の鳥』で防御だ」
「できねえよ」
「何!?」
「この召喚獣が持つ特殊効果、『湖の主』。その効果をよく見てみろ」
特殊効果『湖の主』:この召喚獣の攻撃は水属性以外の召喚獣では防御できない。
「『火の鳥』は火属性、直接受けるしかないぞ」
「直接受ける」
これで一回直接攻撃を受けた。
「ここで攻撃は終わらない。『泡狸』、攻撃だ」
攻撃力は3000。『火の鳥』の防御力と同じか。
「これも直接受ける」
その判断に、天崎は微笑む。
これで直接攻撃を受けられる回数は三回。まだ2ターン目で二回も直接攻撃を受けるなんて。
「タイムエンド。次はお前のターンだ」
「ドロー」
相変わらず手札運は悪い。手札の召喚獣は全て序列下の召喚獣。その上手札にある魔法も全て序列は下。
天崎は俺のデッキを改良してくれた。ならここで負けるわけにはいかない。
「『ヒノコ』を二体召喚、そして『火の鳥』を一体召喚」
『ヒノコ』
火属性、序列下
攻撃力:2000、防御力:2000
『火の鳥』
火属性、序列下
攻撃力:4000、防御力:3000
「バトルタイム、『火の鳥』で攻撃」
「直接受けよう」
「続いてもう一体の『火の鳥』で攻撃」
「直接だ」
「タイムエンド」
これで両者残り二回ずつ直接攻撃を受けた。
そして戦場には相手の攻撃を防御できる召喚獣が二体いる。その召喚獣がいる限りはまだターンを稼げる。
「安堵しているのか?」
「そりゃあな。このターンは少なくとも凌げる」
それを聞くと男は笑う、嘲笑う。
「そんなわけないだろ。ここでお前は負けるのさ。三体目の『泡狸』を召喚」
同じカードをデッキに入れられる枚数は決まっている。
序列下は三枚、中は二枚、上は一枚まで。
「それじゃ行こうか。攻撃開始だ。まずは『クレスタペント』で攻撃だ」
水属性の召喚獣は俺のデッキにはいない。
「直接受ける」
「続いて『泡狸』で攻撃」
「『ヒノコ』で防御だ」
『泡狸』の攻撃力は3000、対して『ヒノコ』は2000。破壊されるが、直接攻撃を防げるのなら。
「その前に、魔法発動。『特効継承陣』」
『特効継承陣』
特殊魔法、無属性、序列上
効果:このターンの間、戦場にいる一体の召喚獣の効果を、その召喚獣と同じ属性を持つ全ての召喚獣に付与する。
「指定するのは『結晶水竜クレスタペント』。よって水属性の召喚獣全てに『湖の主』という特殊効果を付与する。つまりは、お前は俺の攻撃を防御できない」
俺が直接攻撃を受けられる回数は二回。
しかし相手は三体、攻撃できる水属性の召喚獣がいる。
「さあとどめを刺せ。『泡狸』」
ーー負けた。
そう落ち込む俺の手を、天崎は優しく握りしめた。
「巫、お前はまだ負けていない」
「どうやって勝てと……。もう防御できない」
「最後まで諦めるな。もう少し手札をよく見てみろ。今のこの状況を切り抜けるカードがたくさん残っているだろ」
周りが見えなくなっていた俺は、天崎のその一言で少し落ち着いた。
俺は自分の手札をよく見てみることにした。手札には三枚、魔法のカードがある。
「勝てるさ。巫なら」
「うん。勝つ」
俺は手札より魔法を一枚発動する。
「魔法発動、『ネオファイアー』。この魔法は攻撃力3000以下の召喚獣を破壊する。よって『泡狸』を破壊」
「だがまだあと二体。もう一体の『泡狸』で攻撃」
「まだだ。もう一度『ネオファイアー』を使用。もう一体の『泡狸』も破壊だ」
「もう一枚持っていたのか!?」
これで相手の召喚獣は残り一体。
「ここは……『泡狸』攻撃だ」
「直接受ける」
これで直接攻撃を受けられる回数、残り一回。
『泡狸』
特殊効果:この召喚獣はタイムエンド時、デッキの上から一枚墓地に送ることで回復する。
その効果により泡狸は回復する。
そして俺のターンがやってきた。
もしこのターンで決められなければ、次『クレスタペント』で攻撃されてとどめを刺される。
それを阻止するためには、良いカードを引くしかない。手札は現在一枚のみ。
俺は目を瞑り、カードを引く。
引いたカード、それは『ダブルカード』。デッキから二枚引くことができる魔法。その効果で新たに二枚カードを引く。
そこで引いたカードを見て、俺は微笑む。
「ここでお前を倒す」
俺は早速引いたカードを召喚した。
「出でよ。『赤甲獣カッコウ』」
『赤甲獣カッコウ』
火属性、序列中
攻撃力8000、防御力5000
特殊効果:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全ての攻撃力を+2000する。
「特殊効果発動により、戦場にいる俺の召喚獣は皆攻撃力+2000だ」
「へえ。それが何になる?」
「切り札だ。これで俺は勝つ」
「ならとっとと来い」
「『火の鳥』、攻撃だ」
「直接だ」
残り二回。
「続けて『火の鳥』」
「直接だ」
残り一回。
「『ヒノコ』、攻撃せよ」
「『泡狸』、護れ」
『ヒノコ』の攻撃力は2000、『泡狸』の防御力は3000。しかし『赤甲獣カッコウ』の特殊効果により、+2000で『ヒノコ』の攻撃力は4000。よって『泡狸』は破壊され、墓地に送られる。
戦場にはまだ二体、俺の召喚獣がいる。対して相手の動ける召喚獣はなし。仮眠状態の『クレスタペント』のみが相手の戦場にはいる。
「ようやくここまでやってきた。とどめを刺せ。『赤甲獣カッコウ』」
その時、待っていたかのように男は残り一枚の手札を俺に見せた。
「魔法発動、『回復』。この魔法の効果により、自分の召喚獣一体を回復させる。『クレスタペント』を回復、そして防御だ」
『カッコウ』の攻撃力は8000、それに対して『クレスタペント』の防御力は10000。
「どうせ負けるのなら、最後の最後にお前の切り札を倒すのさ」
その言動に対し、俺は笑みを返した。
「なぜ笑う?」
「魔法発動、強化魔法『プラスパワー』。これによって『カッコウ』の攻撃力は+2000だ」
それが俺の手札にある最後のカード。
「だが相討ちだ」
「いいや。この召喚獣の特殊効果を忘れたか?」
「特殊効果?……ま、まさか!?」
その時、ようやく男は思い出したらしい。この召喚獣の特殊効果を。
召喚したターン、自分の召喚獣全ては攻撃力は+2000。つまり今の『カッコウ』の攻撃力はーー
「12000の攻撃を受けてみろ」
『カッコウ』は『クレスタペント』を破壊した。
「では最後、とどめを刺せ。『ヒノコ』」
男は一瞬手札のカードに視線を送るが、それを使うことなかった。その時の男の顔は少し嘆いているようだった。
「直接受ける」
これで男は五回直接攻撃を受けたために、敗北した。
よってこの勝負、俺の勝ちだ。