第26ターン『強き日を待ちわびて』
天崎が勝利し、終わった戦い。
戦いが終わるなり、天崎は俺のもとへと駆け寄ってきた。
「どうだった?一色」
「強かったです。さすがですね」
「まあな。妥当な結果だった」
天崎は勝利を当然のように思っているのか、勝利を誇ることもなく、淡々としていた。
「一色。そういえばハロウィーンだったな」
「はい。そうですね」
10月31日。
そういえば今日はハロウィーン。
天崎と出会ってからもう何ヵ月も経つんだな。
未だに彼女とは肩を並べられるほど強くなっていないけど。
「先ほどした約束なのだが、期限を設けても良いか」
「それほど短くなければ構いませんよ」
「ならクリスマスイブ。その日、私と世界ランキング1位をかけた再戦しよう」
「……え!?……ぇええええええ!?」
さすがに無理だ。
「世界1位の座をですか!?」
「駄目か?」
「いえ、その座は俺には……」
ーーまただ。
また俺は自分に自信が無いようなことを言おうとしている。
せっかく俺は姉さんのおかげで自信が持てたというのに、これでは何も変わらないじゃないか。
いつまで経っても臆病者のままじゃ、俺はーー誰にも誇れない。
「分かりました。クリスマスイブ、その日、俺は必ずあなたを倒す」
「楽しみだ。君には是非とも期待しているぞ」
天崎は安堵していた。
「じゃあまた今度な」
天崎は階段を降りていく。
彼女が去り際に見せたのは、どういうわけか悲しみといえば良いのだろうか、それとも儚さと呼べば良いのだろうか、何とも言えぬ表情だった。
俺は天崎と約束した。
クリスマスイブ、その日までに、俺はもっと強くなっていなければいけない。
だからもう、自分に自信がないなどという弱音は吐かない。
俺は世界ランキング1位、天崎召部の弟子ーー巫一色なのだから。
俺は姉さんのもとへと戻る。
「姉さん」
「何だ?」
「俺、もっと強くなりたい。誰にも負けないくらい、強くなりたい」
天崎の期待に応えたい。
その思いだけが爆発して、俺は姉さんに恩恵を願った。
「世界ランキング13位。君は更に上を目指せる。だから一色、私が君を更に向こうへとレベルアップの協力をしよう」
「良いんですか!」
「ただし、私にだって教えられることはそうたくさんあるわけではない。一色、あとは自分の才能と努力次第だ。だから結局、全ては自分に委ねると良い。最終的には自分がどうしたいか、自分がどうありたいかが必要だから」
「分かりました」
姉さんはじっと俺の眼を見つめる。
「良い眼をするな。そんな一色だから、私は背中を押したくなるんだろう」
姉さんは立ち上がり、俺の手を掴んだ。
「一色、なら話は早いな。そもそも今日ここへ来たのは、ハロウィーンに毎年行われるある大会に参加するという目的もあったんだ」
「そんな大会が?」
「もしその大会で優勝すれば、あるカードを手に入れることができる。そのカードの名は『紅蓮皇獣イフグリード』。火属性、そして序列上の召喚獣」
「強そうですね」
「だからこの大会で優勝しろ。そしてそのカードを手に入れろ」
「はい」
一時間後、午後九時。
そのカードショップ内ではカードバトルの大会が始まろうとしていた。
その大会の参加者は三百人ほど。
中には世界ランキングに名を連ねている者が数名、この大会には参加している。
「まさか序列上のモンスターが景品だとはね」
眼帯をつけた青年は大会が始まるのを静かに待っていた。
「火属性。まだ序列上の召喚獣はデッキにはないけど、絶対手に入れてやるんだから」
少女は『リザードマン』のカードをじっと眺めていた。
やがて大会は始まる。
「さあ今宵、大会を始めよう。この召喚獣をかけた勝負を」
ハロウィーンナイト、この召喚獣をかけた勝負を始まる。
勝者のみが至高の召喚獣を得ることができる。
「さあ、開戦だ」
一回戦。
俺の相手はーー
「へえ、あなたが我々の仲間、黒島美麗を倒した人物ですか」
俺の相手は不気味な色をしたローブを纏っている男だ。
それに黒島美麗って、確か半魔四天王の一人で、俺がさっき倒した相手か。
「お前もか」
「察しが良いですね。我は半魔四天王の一人、黒魔導呪言。仲間の仇、討たせていただきますよ」
黒魔導呪言。
恐らく彼も、黒島と同じ闇属性デッキ。
「では始めましょう。我の呪いに敵うならば」
「受けて立つ。どんなデッキだろうと、俺のデッキで粉砕する」
「良い眼をしますね。だからこそあなたは、倒しがいがあります」