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Summoned Beast and Magic  作者: 総督琉
白色シーズン
23/38

第22ターン『彼女の正体』

「姉さんはやっぱ強いな」


「一色も随分強かったぞ」


 相変わらず姉さんには敵わない。

 メアリー姉さんはやっぱり強い人だ。


 今まで一度も、俺はメアリー姉さんには勝ったことはなかった。

 今回負けたのも必然と言えるだろう。


「一色、強くなったんだな」


 優しい一言に、俺は静かに感動していた。

 今までずっと追いつけなかったメアリー姉さんに、ようやく追いつけそうに、あと少しでこの手が届きそうになったのだから。


「久しぶりにカードを買いにでも行こうよ」


「分かりました」


 向かった場所は都会中の都会。

 電車に乗って八つほど駅を進んだ先にある場所。


 都会に来たことはない。

 初めて見る都会に、俺は唖然とする。


 人の多さ、建ち並ぶ無数の巨大建造物。まるで宇宙人にでも占領されたかのような街。

 その街には多種多様な服装を着た有象無象の衆が往来している。


「姉さん、ここが都会?」


「ああ。かなり広いだろ」


「はい。凄すぎて……怖いくらいです」


「そう脅えるな。この街は案外普通の街なのだから。ゆっくりと観光でもしような」


 優しい姉さんの声を聞き、俺の不安は薄らいでいた。


「まずはあそこの喫茶店で昼食をとろうね」


 喫茶店。

 そこはなんと言えば良いのだろうか、とにかく落ち着く。のどかな雰囲気が静寂のごとき静けさを纏いながら流れている。

 メニュー表もおしゃれで、どれもシンプルだが美味しそうだ。


「一色は何にするか決まったか?」


 まずい。早く決めなければ。

 そう急かされるままにメニュー表を見ていくと、ひとつのメニューを見つけた。


「しょ、ショートケーキ」


「オッケー」


 店員を引き留め、姉さんはバニラアイスを、俺はショートケーキを頼んだ。

 その商品を待つ間、俺は姉さんと話をする。


「姉さん、ひとつ相談があるんだけど良い?」


「いいよ。なんでも話して」


「姉さんも世界ランキングに載っているんでしょ。世界ランキングってさ、やっぱりプレッシャーとかあるの?」


「私の場合は自信があったからね。自分は強いと確信していたから。だから不安とかプレッシャーはなかった。でもね、自信がある分、自分よりも強い人がいるっていうのはさ、私の自信を容易に破壊していくんだよ」


「そうなんですか!」


「だって自分が絶対的な自信を抱いていたことで負けたんだ。さすがにメンタルが傷つくよ。おかげで私は強くなれた。だから順位をここまで伸ばせたんだって思うんだ」


 経験者は語る。

 ランキングに載っている人はきっと、皆強い人なのだろう。

 俺なんかが入るには到底おこがましいんだ。それもいきなり13位なんかに。


 姉さんはしばらく俺の顔をじっと見つめてきた。


「一色はさ、自分に自信がないのか」


「俺は13位には相応しくない。そう思ったからです」


「さっき私と戦っただろ。その時に私は君の強さをちゃんと理解している。だから一色はもう少し自分に自信を持て」


「はい」


 そう返事をした。

 けど俺はそれほどの実力は持ち合わせていない。


「自信を得るためには戦うのが手っ取り早い。一色、これからカードショップに行ってバトルをしに行こう。そしたらその貧弱な心だって直るはずだ」


「勝負を……ですか」


「この都会には数々の上位のカードゲーマーがいる。彼らに勝つことができるのならば、お前は自分にもう少しだけ自信が持てるんじゃないか」


 勝てるかどうか、分からない。


「一応、やってはみます」


「では行こうな。一色の独壇場に」


 そして向かった先は都会のカードショップ。

 そのカードショップはよく行くカードショップよりも遥かに大きく、一万人以上が収容できるほど大きな場所だ。


 売られているカードも種類が豊富で、俺の知らないカードが何百枚とあった。


「姉さん、ここが……」


 驚きのあまり、喋ろうとしたことすら忘れていた。


「凄いだろ。だからここに、各地から自信のあるカードゲーマーが集うんだよ」


 このカードショップでは、既に何人もの人たちが、ショップ内にある椅子に腰かけ、勝負を行っていた。


「俺が、勝てるでしょうか」


「私の言葉を信用できないか」


「いえ。そういうわけでは」


「なら私を信じてくれ。お前は相当な腕前を持っている強いカードゲーマーだ。だから私を信じて戦ってくれ」


「はい。分かりました」


 姉さんは言ってくれた。

 俺は強いんだって。


 まだ明確な自信はないけど、メアリー姉さんの期待に応えたい。

 だから俺は、ここで負けるわけにはいかない。


「それではまず誰と戦おうか」


 そう呟き、姉さんは会場を見回していた。


「へえ、見つけちゃった。世界ランキング9位の大物ーー神原メアリーみぞれ様」


 背後から聞こえた女性の声。

 振り向けば、そこには高校生くらいの女性が立っている。紫色の髪の中に白色の髪を混ぜ、紫色の瞳をしている女性。

 服装にも紫色を織り混ぜている。


「君は何者かな?」


「私はね、半魔四天王の一人のね、黒島美麗なのね。あなたとバトルしたいのね」


 口調とは裏腹に、クールに彼女はそう言った。


「私とか。私を世界ランキング9位と分かった上で戦いを挑んでくるということは、君もランキングに載っているのか?」


「ううん。私は載ってないのね。でも私はあなたとバトルがしたいのね」


「そうか。そうだなー」


 姉さんはしばらく考えていた。

 考えながら、視線は徐々に俺の方へと向いていった。


 俺と目が合うと、ひらめいたような素振りを見せる。


「黒島さん、世界ランキング上位の人と戦いたいんだな」


「うん。上位の人と戦いたいのね」


「なら私よりもとっておきの人物がいる。世界ランキング13位のとある人物。その人となら戦えるが、どうだ?」


「是非戦いたいのね」


 ということは……


 俺はすぐに姉さんを止めようとしたが、もっと早く気づくべきだった。


「世界ランキング13位、巫一色。彼と戦うと良い」


 そう言って俺の肩に手を当てた。

 黒島の視線は完全に俺へと向けられる。


「君が13位なのね。それじゃあ早速戦おうなのね。世界ランキング上位の人と戦えるなんて、嬉しいのね」


 黒島は嬉しそうに微笑んでいた。

 こうなったら戦うしかない。

 そう決意し、俺はデッキを取り出した。


「分かった。勝負しよう」


 この勝負で自信をつける。

 たとえ今の俺が強くなくとも、自信をつけなくちゃいけない。そうでなくちゃ、きっと姉さんは認めてくれないから。

 ずっと姉さんに敵わないままだから。


 だからーー


「勝つ。きっと勝つ」


「私は半魔四天王という称号を着飾っているのね。負けるわけにはいかないのね」


「俺も世界ランキング13位という座に座らせてもらっている。なら勝たなければ俺はこの座から落ちてしまう。それではこの座に俺を選んでくれた人に申し訳ない」


「それでは開始なのね」


 これから始まる。

 俺と黒島の戦いが。




 始まる直前、姉さんは耳元で呟いた。


 ーー気を付けろ。彼女は昔、世界ランキングに載っていた。

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