第21ターン『氷の女帝』
先攻は俺だ。
1ターン目
「さあ一色、お前の戦いを見せてくれ」
「はい。見ていてください」
五年ぶりのメアリー姉さんとの戦いに俺は興奮していた。
そのためか、少し息が荒くなっていた。
「まずは『火の鳥』、『ヒノコ』を召喚する。そしてタイムエンド」
「火属性デッキか。お前は相変わらずそうだな」
五年前のことはよく覚えていない。
だが姉さんの言い方から考えれば、俺は火属性デッキを使っていたということで間違いないのだろう。
これは巡り合わせというのか。
2ターン目
姉さんのターン。
「まずは『ホワイトタイガー』を召喚」
『ホワイトタイガー』
序列中、氷属性
攻撃力6000、防御力7000
「続けて戦場魔法『吹雪の棺』を発動」
『吹雪の棺』
序列上、氷属性
効果1:自分の氷属性の召喚獣全ての攻撃力、防御力を+1000する。
効果2:???
「では始めようか。『ホワイトタイガー』で攻撃」
「直接受ける」
「タイムエンド」
3ターン目
「『リザードマン』を召喚。そしてバトルタイム、『ヒノコ』と『火の鳥』で攻撃」
「どちらも直接だ」
「タイムエンド」
序盤は俺の方が有利に進めているだろう。
まだ俺を護る召喚獣は一体おり、その上二回も直接攻撃を加えられた。これなら今まで勝ったことのない姉さんにも勝てる。
4ターン目
「『ホワイトタイガー』をもう一体召喚。さらに『雪鼠』を召喚」
『雪鼠』
序列下、氷属性
攻撃力3000、防御力4000
「バトルタイム。『ホワイトタイガー』一体で攻撃」
「直接受ける」
「タイムエンド」
「攻めてこない?」
「攻めるだけが勝負ではない。それに私のデッキは氷属性。得意なのは攻めではないーー」
氷属性。
そういえばその属性について、それほど知識が豊富なわけではない。
過去に何度も戦っているが、子供の俺はずっと負けっぱなしだ。
その時のトラウマの片鱗が、記憶の片隅にあるような、そんな感じがする。
なぜか今、それが思い出されそうになっていた。
「次のターンが楽しみだよ」
何か仕掛けるつもりなのだろうか。
だが俺のターンで何ができるというのだろうか。
5ターン目
俺はドローし、『フレイムタウロス』を召喚する。
そしてバトルタイムへと突入する。
「行くよ姉さん。『フレイムタウロス』で攻撃」
攻撃力は7000。
今姉さんの召喚獣の中で最も防御力が高いのは『ホワイトタイガー』で7000。
相討ちにして護るか、それとも直接受けるか。
「そいつの攻撃、『雪鼠』が引き受けよう」
『雪鼠』の防御力は4000。
「『フレイムタウロス』の攻撃力より低いため、『雪鼠』は破壊だ」
「ああ。確かに破壊されるな」
そう呟いた姉さんは嬉しそうに微笑んでいた。
まるでこの時を待っていたかのように。
『フレイムタウロス』が『雪鼠』を破壊した時、思い出した。
なぜ姉さんが今『雪鼠』で受けたのか。
「『吹雪の棺』の効果2発動」
「そうだった……」
『吹雪の棺』
効果2(氷の呪縛):自分の氷属性の召喚獣が破壊された時、その召喚獣と序列が同じ召喚獣を一体を、4ターンの間行動不能にする。
「よって序列下の『火の鳥』を行動不能にする」
「そう来ましたか」
「私が得意なのは攻めではないーー受けだ」
氷属性。
いわば鉄壁の護りの属性。
「一色、タイムエンドか?それとも勝負を続けるか」
「ここはタイムエンド」
「我が弟よ。良い判断だ。13位にまで上り詰めただけはある。感心しているぞ」
褒められ、嬉しさから赤面する。
「やっぱ一色との勝負は楽しいな」
6ターン目
「『ドロー3』。デッキから三枚ドローする」
手札の補充を行う。
「それではそろそろ召喚しよう。私のデッキの最上級の召喚獣。『絶対零度フブキ・レディナイト』を召喚」
白い艶やかな髪に、背中には純白の羽を生やす。そして光輝く盾と剣を持っている天使のような召喚獣。
『絶対零度フブキ・レディナイト』
序列上、氷属性
攻撃力10000、防御力13000
召喚条件:戦場に自分の氷属性召喚獣が一体以上いる時
特殊効果1(吹雪の加護):自分の召喚獣全ての防御力を+2000する。
特殊効果2(天使):この召喚獣は、序列上の召喚獣以外には破壊されない。
必殺技:???
「一色、攻撃するよ。『絶対零度フブキ・レディナイト』で攻撃」
「『ヒノコ』で防御だ」
『ヒノコ』の防御力は足下にも及ばず、破壊される。
「タイムエンド」
ここに来ての序列上召喚獣。
それもその効果に俺は絶句する。
「これが……姉さんの……」
7ターン目
ひとまず状況を整理する。
戦場には、俺の召喚獣は『ヒノコ』『リザードマン』『フレイムタウロス』『火の鳥』の四体。
しかし『火の鳥』はあと2ターン行動不能という状態。
姉さんの召喚獣は『ホワイトタイガー』二体と『絶対零度フブキ・レディナイト』。その内『フブキ・レディナイト』だけが仮眠状態。
そして戦場魔法に『吹雪の棺』があるという状況、
攻撃したいが、『フブキ・レディナイト』の特殊効果で姉さんの召喚獣の防御力は+2000。
攻撃しても破壊されるだけ。
「タイムエンド」
8ターン目
「私のデッキは絶対防御。体勢が整えばもう、無敵の防御を誇る」
「さすがは姉さんのデッキだ。それでも俺は越える」
「良い意気込みだな。それでは行こぞ。三体目の『ホワイトタイガー』を召喚」
これで姉さんの召喚獣は四体。
「まずは『ホワイトタイガー』で攻撃」
「『ヒノコ』、受け止めろ」
『ホワイトタイガー』の攻撃力6000
『ヒノコ』の防御力2000
よって『ヒノコ』破壊。
「『ホワイトタイガー』で攻撃」
「『火の鳥』で防御」
『火の鳥』の防御力4000。
よって『火の鳥』は破壊。
「三体目の『ホワイトタイガー』で攻撃」
「直接受ける」
三回目の直接攻撃を受け、受けられる回数は残り二回。
「タイムエンド」
『フブキ・レディナイト』を残してのタイムエンド。
鉄壁の守人がいる限り、こちらはむやみには攻撃が仕掛けづらい。
9ターン目
ここで一回でも直接攻撃をしないと追いつけない。
姉さんはまだ二回しか直接攻撃を受けていない。あと一回、いや、二回はしないと勝てない。
「来い。俺の相棒」
カードを引いた。
それは『ドロー3』。
すかさずそのカードを使用し、デッキから三枚ドローする。
「来た」
「おっ!?いよいよ来るのか。楽しみだな」
「まずは『赤甲獣カッコウ』を召喚」
『赤甲獣カッコウ』
火属性、序列中
攻撃力8000、防御力5000
特殊効果:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全ての攻撃力を+2000する。
「続けて召喚。『赤甲火獣グレンカッコウ』」
『赤甲火獣グレンカッコウ』
火属性、序列上
召喚条件:自分の火属性の召喚獣が戦場に1体以上いる時
攻撃力:12000、防御力:9000
特殊効果1:この召喚獣を召喚したターン、自分の召喚獣全てを攻撃力+3000する。
特殊効果2(紅蓮):この召喚獣の攻撃で相手の召喚獣を破壊した時、その召喚獣と序列が同じ召喚獣を破壊する。
必殺技:???
「ここで勝つ。ここで決める」
「面白い。来てみよ」
「『火甲獣カッコウ』と『赤甲火獣グレンカッコウ』の特殊効果により、俺の召喚獣全ては攻撃力+5000」
「そう来るか」
「姉さん。姉さんはいつも、一番強い召喚獣の攻撃を『フブキ・レディナイト』で受けるんだ。それを知っている。だからこそ、俺が最初に動かすのは俺が持つ最強の召喚獣ーー『赤甲火獣グレンカッコウ』だ」
俺は『赤甲火獣グレンカッコウ』で攻撃する。
「なぜ私が強い召喚獣の攻撃を『フブキ・レディナイト』で受けるか分かるか。それは私の相棒が最も強いと誇るためだ」
姉さんは『絶対零度フブキ・レディナイト』で防御する。
『赤甲火獣グレンカッコウ』の攻撃力は12000+5000で17000。
対して『絶対零度フブキ・レディナイト』の防御力は13000+3000で16000。
「行け。『グレンカッコウ』」
「まだだ。ここで"必殺技"を発動する」
「必殺技!?」
姉さんはおもむろに、手札から『必殺技発動魔法』を取り出した。
『絶対零度フブキ・レディナイト』
必殺技(発動可能時:この召喚獣防御時)
絶対零度:このターンに動ける相手の召喚獣をこのターンの間行動不能にする。この効果により行動不能にした召喚獣一体につき、この召喚獣の防御力を+2000する。
「この効果により行動不能にした召喚獣は二体。よってこの召喚獣の防御力は+4000」
「+4000!?」
「『絶対零度フブキ・レディナイト』の防御力は20000。『赤甲火獣グレンカッコウ』の攻撃力は17000。私の相棒の勝ちだ」
『グレンカッコウ』は破壊される。
「続いて魔法発動。『吹雪の怒り』」
『吹雪の怒り』
序列中、氷属性
効果:行動不能になっている召喚獣を一体破壊する。
この効果により『火甲獣カッコウ』が破壊される。
「一色、お前の召喚獣は一体も動かせない。どうする?」
「タイム……エンド」
10ターン目
「私のターン。何も召喚せず、攻撃開始するよ」
俺の召喚獣の内、動かせるのは『リザードマン』と『フレイムタウロス』のみ。
「『ホワイトタイガー』二体で攻撃」
「『リザードマン』『フレイムタウロス』で防御」
『リザードマン』と『フレイムタウロス』は破壊される。
「続けて『ホワイトタイガー』で攻撃」
「直接だ」
「ラストは当然私の相棒『絶対零度フブキ・レディナイト』。振り下ろせ、貴様の剣を」
直接攻撃五回目。
それにより俺は負けた。




