第19ターン『扉』
師匠の戦いを見て、私は兄と向き合おうと思った。
これまで避け続けてきた現実に向き合う。
今日に限って、玄関の扉が重い。
どんよりとした空気が扉から感じる。
きっと今日も兄は部屋に引き籠って、壁を叩いて叫んでいるのだろう。
私は扉を開け、家の中へと入っていく。
相変わらずリビングに兄の姿はない。天井からは激しく床を踏みつける音が聞こえてくる。
二階へと上がり、兄の部屋の扉の前までやって来た。
いざとなると、怖い。
それでも私は向き合うんだ。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ」
怒りを混ぜた口調で兄は言ってくる。
「この前ね、世界ランキング13位の人に会ったの。その人がね、私とお兄ちゃんで作ったデッキは強いって言ってくれたんだ」
「…………」
「ねえお兄ちゃん、私、昔みたいに戻りたいよ。昔みたいに笑い合って、昔みたいに楽しく遊んだりしてさ、そうやって私はお兄ちゃんと……」
私は感情をさらけ出す。
こんなことは初めてだ。
こんなにも自分の思いを爆発させたのは、今日が初めてで、そして緊張している。
「私、またバトルしたい。昔みたいにバトルしようよ」
今までずっと、固く閉ざされていた扉が、初めて扉が開いた。
開かずの扉、それは今ゆっくりと、音を立てて開いていく。
久しぶりに見る兄は少し痩せていて、昔とは違った。
その上照れ臭そうにして、それでも手にはデッキを持っている。
「暝、今まで……すまなかった」
「……うん」
こういう時に出るのは、感謝の言葉じゃなくて、喜びから込み上げてくる涙なんだ。
「め、暝。大丈夫か」
「大丈夫だよ。私は全然大丈夫。お兄ちゃん、久しぶりだね」
「ああ。久しぶりだな」
お互い照れ臭く、顔を合わせられない。
「お兄ちゃん、久しぶりにバトルしようよ。久しぶりのバトルを」
「ああ。やろうか」
長い間、閉ざされていた兄の心は、ゆっくりとではあるが徐々に開いていった。
その心から漏れ出づる淡い光は、少しずつ、少しずつではあるが眩しく輝こうとしていた。
これから少しずつ、彼らは昔のように戻っていく。
あの日の日常を思い浮かべながら。




