第1ターン『出会い』
圧倒的な少女の強さに、俺は感服していた。
「お兄さん、想像以上に弱いデッキだね」
少女は俺を軽く笑っている。
しかしたった四ターンでとどめを刺されると、さすがに自分が弱すぎることに気づけたし、この少女が強すぎることにも気づいた。
「なあ少女、」
「天崎と呼べ」
「あ、天崎、なぜあの時使えなくする魔法の属性を氷にしたんだ?普通なら火属性を選ぶと思うのだが」
「そりゃ簡単だろ。火属性は主に相手の召喚獣を破壊する魔法だ。それに対して厄介なのは氷属性の魔法。相手のターンを強制終了することができる魔法がある。だから強制終了する魔法を警戒して氷属性を指定しただけさ」
「な、なるほど……」
『Summoned Beast and Magic』についてあまり詳しくない俺はよく分からないが、少女はこのカードゲームについてよく理解しているということだろう。
敵わないのも当然だ。
「ありがとな。まさか世界一位の人と戦えるとは夢にも思っていなかったよ」
「なあお前、名は?」
「俺は巫一色」
「巫、お前はこのカードゲームで強くなりたいか?」
「ああ。そりゃあまあ、なりたいかな」
その答えを聞くと少女は微笑んだ。
「ならば私がお前を鍛えてやろう。世界一位のこの私がだ。どうだ?」
「いや、結構です」
「そうかそうか。そこまで私の弟子になりたいか。まさか頭を下げて、その上全裸になるとはな。恥も外聞もないみたいだな」
「いや、頭も下げてないし、それに結構ですって言ったんですけど……」
「そうか。その上財布の中身まで差し出すとは、私を女王として慕うということだな」
「いやいや、財布ポケットに入ったままだし、俺まだ何もしてないんだけど……」
「では早速デッキの編成を行おう。そのデッキでは誰にも勝子ことはできないからな」
なぜかこの少女は俺の話に耳を傾けない。そのため勝手に弟子にされてしまった。
「ちょっと天崎、」
「何だ?」
「いや。別に……」
「それじゃ早速デッキ改良でもしようか」
その流れで俺のデッキは少女によって次々と改良されていく。
「このカードとこのカードを一緒にいれるのは無駄だね」
と言われてカードをデッキから抜かれたり、
「このデッキにはやはりこのカードかな」
とカードを増やされたりと、
俺のデッキは色々あって生まれ変わった。
それも世界一位の天崎召部の手によって。
「良いのか?この中に天崎が持っていたカードも入れてたし」
「別に良いよそのくらい。私は弟子が強くなってくれればそれで良いんだよ」
天崎は嬉しそうにしていた。
デッキを受け取らないわけにもいかず、俺はそのデッキを受け取った。先ほどの俺のデッキとは一転してかなり強いデッキになっている。
正直嬉しかった。早くこのデッキで勝負したかった。
「なあ天崎、俺と勝負をーー」
「ーーあ、見つけた。世界一位の天崎召部だ」
そう言ってチャラい風貌の男が一人、俺と天崎に近づいてくる。その上右手には『Summoned Beast and Magic』のデッキを持って。
「なあ世界一位、俺と戦えよ。俺のデッキで倒してやるからよ」
「不愉快」
怪訝な顔で天崎は男を睨みつける。
「俺と戦わねえのか?ああ?」
強い口調で男は詰め寄ってくる。天崎は動じることはなく、凛々しく立っている。
「私と戦いたかったら世界一位にでもなるんだな」
「だったらその座を寄越せ」
「あげるわけないだろ。世界一位の座をあまり舐めるなよ。そんなあまったるい気持ちで座って良い場所じゃないんだよ。世界一位はな、『Summoned Beast and Magic』をプレイする全てのプレイヤーの誇りでなければいけない」
天崎はそう言って男を突き返す。それでも男は帰ろうとしない。
かたくなな男にため息を吹き掛け、天崎は俺に言う。
「巫、お前が代わりに戦ってくれ」
「俺が!?」
「ああ」
俺がこの男に勝てるとは思えない。だってたった四ターンで俺は天崎に負けている。
「もし巫に勝ったら戦ってやるよ。だが負けたら潔く帰れよ」
「ああ。良いぜ」
「ちょっと待ってくれ。俺が勝てる保証なんて……」
「巫、お前なら勝てるさ。『Summoned Beast and Magic』、このカードはな、どれだけカード一枚一枚を愛しているか、に限る。だから巫、威張っているだけのあの男相手ならお前の方が強い」
「だが……」
「大丈夫。世界一位のこの私が勝利を保証しているのだ。だから腰なんか抜かしてないで戦ってこい」
正直、勝てる自信はなかった。
それでも世界一位の彼女が俺の勝利を約束してくれた。だったらせめて戦うことくらいはしないと。
俺は彼女に構築してもらった新たなデッキを握り、男へ向ける。
「勝てるか分かんないけど、勝つ」