第14ターン『でたらめな戦術』
朝比奈暝。
この女子生徒は一体何者なのか。
そんなことを考えながら、俺は1ターン目を引き受けた朝比奈の動きを探る。
空き教室の一室で、俺と朝比奈は机二つを挟み、向かい合って座っていた。
「『サンダートライアングル』を一体召喚」
『サンダートライアングル』
雷属性、序列下
攻撃力4000、防御力4000
「エンドタイム」
「雷属性デッキか?」
「まだ秘密だ。私がお兄ちゃんと何時間もかけて作ったデッキだ。このデッキなら世界ランキング上位にも勝てるってお兄ちゃんが言ってたんだから」
なるほど。それで世界ランキング13位の俺に挑もうとしたわけか。
だが教えてくれないということは、雷属性デッキではないのか?
「なあ、俺は世界ランキング13位には載っているが、それほどの強さと経験は持ち合わせていないぞ。ただなぜか13位になっただけで実力はないんだが」
「嘘をつくな。実力がなきゃ世界ランキングにすら載らないんだ。それで13位なんて、簡単になれるとは到底思えない」
「まあ仕方ない。こっちも全力で行かせてもらう」
2ターン目。
俺は『火の鳥』二体を召喚した。
「バトルタイム。『火の鳥』で攻撃」
「直接で受けるぞ」
「タイムエンド」
3ターン目。
朝比奈は『ヒノコ』を召喚する。
「雷属性の召喚に、次は火属性?」
「驚いたか」
「なあ、まさかとは思うけどさ……全属性入れてたりする?」
「当然だ。私のデッキは全属性デッキだ」
さすがに驚いた。
確かに全属性デッキも悪くはない。
だが天崎が言っていたことだが、全属性デッキを組むには相当な知恵と技術、そして運に見舞われなくてはいけないらしいが……
「続いて『泡狸』を召喚」
次は水属性の召喚獣。
確かに全属性入れているのだろう。
「タイムエンドだ」
「今攻撃しておけば一回くらい直接攻撃できたかもしれないぞ」
「ちっちっち」
人差し指を左右に振り、微笑みながら彼女は言う。
「急がば回れ。急がず焦らず。ってお兄ちゃんが言ってたんだから」
「本当にタイムエンドで良いんだな」
「当然」
4ターン目。
俺は『リザードマン』を召喚する。
続けて魔法を使用する。
「『ダブルフレイム』。攻撃力6000以下の召喚獣二体を破壊する。この効果で『サンダートライアングル』と『泡狸』を破壊する」
この攻撃魔法により、朝比奈の戦場には『ヒノコ』のみとなった。
しかし俺の召喚獣は『火の鳥』二体と『リザードマン』。そしてその三体全てが『ヒノコ』の防御力を上回っているため、少なくとも召喚獣によって破壊されることはないだろう。
「それじゃあバトルタイム。『火の鳥』二体で攻撃」
「どっちもダイレクト」
「続いて『リザードマン』」
「これもダイレクト」
もう朝比奈はあと一回だけしか直接攻撃を受けられない。
ここは召喚獣を犠牲にしても防御すべきだったと天崎は言うだろうな。
それに魔法の使用がなかった。
恐らく彼女の手札には使えるカードがないと推測される。
「タイムエンド」
5ターン目。
朝比奈は気合いを入れて自分のターンを始めた。
「ここから巻き返すよ。『ヒノコ』を二体召喚。そして『サンダートライアングル』を召喚。そしてバトルタイム。全ての召喚獣で攻撃」
「そう来たか」
まだ五回直接攻撃を受けられる。その内の三回が減るだけ。
ならここはーー
「全て直接受けようか」
「タイムエンド。さあここからだ」
6ターン目。
正直このターンで決められる。
相手の召喚獣は全て仮眠状態にあるため、防御はできない。
魔法を使われるという可能性もあるが、たった数ターンだけしか彼女の戦いを見ていないが、それほど手強いとは感じない。
「なあ朝比奈、そのデッキは強いのか?」
「もちろん。だってお兄ちゃんと作ったんだもん」
「な、なるほど……」
このターンで終わるとは思えないが、一応攻撃はする。
「バトルタイム。『火の鳥』で攻撃」
さあ、どうする。
「ダイレクトで来い」
「は!?……え!?」
決着はついた……はずなのに、何だこの終わり方は。
そんな気持ちが心の中で彷徨していた。




