第13ターン『世界ランキング13位』
八月三十一日午後九時。
夏休みがもうすぐ終わろうとしていた。
ずっと憂鬱だった夏休みだったけど、今年だけは違った。
「巫、もうすぐ花火が始まるぞ」
カードショップの店内で、ガチャガチャを回していた天崎だったか、すぐにそのカードを机に置いて、ガラス窓から夜空を眺めていた。
その夜空には花火が咲き始めた。
「凄いですね」
あともう少しだけ、この日常が続かないものか。
そう俺は心の底から願っていた。
九月一日。
夏休みは終わり、今日から学校が始まる。
相変わらず憂鬱な朝に、俺は顔を洗い、そして朝食にパンを食べる。
「それじゃあ一色、行ってくるね」
「いってらっしゃい。母さん」
母は朝早くから仕事に行き、父は既に仕事に出掛けて家にいない。
そんな日々が毎日のように続いていた。
このまま学校に行かないという選択肢ももちろんあったけれど、気づけば習慣のように制服に着替えていた。
それから教科書を詰め、駅へ向かう。
駅に乗って三駅越え、駅を降りる。それから徒歩十五分のところに学校がある。
十五分の道を通り、学校へ着く。
久しぶりの学校、なぜだが多くの人の視線を感じる。
久しぶりだからだろうか、見られていなくても視線を感じてしまうものなのだろう。
そんなふうに思っていると、一人の男子が話しかけてきた。
「なあ、お前噂になってるぞ」
「噂?」
話がのみ込めず、俺は首を傾げる。
どうせ人違いだ、そう俺は思っていた。
「知ってるぞ。『Summoned Beast and Magic』の世界ランキング13位さん」
「……え!?…………は!?」
まだ話がいまいちのみ込めない。
俺が『Summoned Beast and Magic』の世界ランキング13位?
いやないないないない。
「お前凄いな」
世界ランキング13位。
確かにその言葉に聞き覚えはある。
確かその順位には赤月一輝がいたはずだが……。
まさか、あの男をたまたま倒したというだけで無名の俺が一気に13位まで駆け上がれるものなのか。だとしたら本末転倒だろ。
未だに状況をのみ込めていない。
「なあ、それって本当なのか?」
俺は信じられず、聞き返した。
「本当なのって……お前のことだろ。それにほら、ランキングリストがネットとかで見れるんだけど、それの13位のところにちゃんとお前の名前も載っているし」
赤月が差し出している携帯を覗く。
そこには確かに俺の名前が書かれている。
『……
11位月野兎
12位夜桜戦国
13位巫一色
14位赤月一輝
15位赤月二之
……』
「ははっ……。まじかよ……」
「とにかくお前凄い奴だったんだな」
俺は半笑いを浮かべ、愛想笑いする。
それから学校の休み時間、俺はすぐに天崎に電話を掛けた。
「天崎、俺、なぜか世界ランキングに載っているんですけど。それに13位に」
「ああ。おめでとう」
「おめでとうじゃないですよ。なんで俺が世界ランキングに載っているんですか」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいといえば嬉しいですけど、いきなり13位はさすがに……」
「だがお前にはその実力があると判断した。それが世界ランキングの順位の調整を行っている赤月家の判断だ」
「世界ランキングって赤月家が決めているんですか?」
「ああ。それで13位の一輝を倒し、そして一輝はお前を認めたのだろう。自分よりは上だと。だからお前は世界ランキング13位になったというわけだ。分かったか?」
赤月一輝が俺を認めるだろうか。
正直その期待には応えられないだろう。
だが何を言っても俺は"世界ランキング13位"の座から降りることはできないのだろう。
ため息が木漏れ日の如く溢れそうになる。それを必死に抑え、
「分かりました。世界ランキング13位、その座をとられないよう頑張ります」
「頑張れよ。巫」
電話は切られた。
色々と不満がある。
だが何を言っても変わらない、そう分かったからこそ、俺は何も言わずに沈黙した。
そしてため息をこぼす。
「あれからもう五年か。随分と長い時間が流れてしまったな」
五年前の約束を思い出した。
あれからもう五年、彼女は今頃何をしているだろう。
ふと過去の記憶に浸っていると、一人の女子生徒が俺に詰め寄ってきた。
「納得いかない。勝負よ。巫一色」
一言目でそれを言われて困惑し、話が頭に入らない。
「誰?」
「私は世界ランキング圏外、朝比奈暝。世界ランキング13位のお前に決闘を申し込みに来た」
彼女の手にはデッキが握られている。
「勝負よ。巫一色」