第9ターン『孤独の中で』
師匠と天崎さんのもとを去った後、俺は墓場へと向かい、ある人物の墓の前で手を合わせる。
水木璃菜。俺の姉の墓だ。
姉が死んでからもう一年以上は経っている。それでも未だに姉との約束は果たせていない。
「なあ姉ちゃん、俺、赤月家に勝負を挑んでくる。身勝手なこの復讐に決着をつけてくるよ」
天国にいる姉へ身勝手な呟きをし、俺は赤月家の家へと向かった。
相変わらずの豪邸。
何をどうしたらここまで稼げるのか、貧乏だった俺には到底理解できない。
石垣の地面を歩き、金箔の装飾がされた扉を開け、その後家の中へと入っていく。
家の中も豪華絢爛、眩しいほどに輝いている。
「十夜様。お待ちしておりました」
俺を待っていたかのように、メイドが一人目の前に立っていた。
「十夜様、赤月一輝様がお呼びになっておられます。案内いたしますのでついてきてください」
礼儀や身だしなみなど、様々なことを教育されたメイドの案内により、俺は今一輝のもとへと向かっていた。
因縁の一輝との戦い。
それが始まろうとしていることに俺は胸を踊らせていた。
(もうすぐ奴との決着をつけられるんだ。あの忌まわしき男との決着を)
そう思うだけで興奮が止まらなかった。
あの男が悪いわけではない。別に誰かが悪いわけではない。
そうと分かっていても、この怒りをぶつける矛先を俺はこの男に決めた。そしてこの男もそれを受け入れた。
だから俺は挑み、勝つ。
もう二度と敗北なんか味わうつもりもないし、もう二度と後悔を味わうつもりもない。
師匠と天崎さん、二人のもとで修行したんだ。だからもう負けていられないんだ。
「もうすぐ到着致します。心の準備はよろしいですか?」
「ああ」
「では入りましょう。一輝様が待たれるお部屋へ」
長い廊下を歩いてきて、その果てにある扉。
その扉を開けた先に待っていたのは、一輝を軸とする赤月十将の九人。
各々俺を見ている。
「へえ、十夜くんじゃん。君生きてたんだ」
ギャルのような服装をしている六花は、俺を見下していた。
「あらあら。あなたが自分から来るなんて、切腹でもしに来たんですか」
三葉は相変わらず可愛らしい声色で話すも、恐ろしい内容をぶつけてくる。
他の赤月十将は皆俺を睨みつけている。
それもそのはず、赤月家が大切に保有していたあるカードを盗み、そして失くしているのだから。
「十夜、待っていたよ」
一輝は王のたたずまいで俺へ一歩近づいた。
「一輝、俺はお前との勝負の決着をつけに来た。ただそれだけだ」
「その目、随分と牙を研いで来たみたいだな」
「ずっとそれだけを考えてきた。お前をどうやって倒そうかだけを考えて、俺はお前を越えに来たんだ」
一輝の反応は薄い。
元来そういう性格であるため、特になんとも思わない。
「勝負をしたいのならついてこい。専用の部屋を用意したんだ」
そこは密閉された一室。
そこにあるのは机と椅子だけ。
「デッキは持っているな」
「当たり前だろ」
「じゃあ始めよう。君のその恨みに決着が果たされると良いね」
相変わらずこの男の一言一言が頭にくる。
だけどそれも今日で終わりだ。今日ここでこの男を倒して、俺はお前を越えてやる。
「それじゃ始めようか。タイムスタート」