少女と男のプロローグ
カードゲームショップに行き、良いカードがないか探していた。
『Summoned Beast and Magic』と呼ばれるカードゲームは、今世界で最も遊ばれているカードゲームにまで発展している。
それに俺は最近ハマっていた。
にしても、どれが良いカードなのか分からないな。
初心者であるため、当然無知だ。
休憩しようと椅子がある方へと向かうと、数人の歳上の男に絡まれている幼い少女を見つけた。
大の大人が少女からカードでも奪おうとしているのだろう。全く惨めな話だ。
俺は両者の間に割って入る。
「おっさん、幼い子供からカードを奪おうだなんて、見苦しいですよ」
「何だお前」
怒り口調で男は言う。
当然だ。見ず知らずの少年が突如現れれば、そうなるだろう。実際、少女もポカーンとしている。
「おっさん、拳ではなくカードゲームで語りましょうよ。その手に持っている物を見れば分かります。あなたもカードゲーマーでしょ」
それから十分後、俺は男に完全敗北した。
男たちは嘲笑しながら去っていく。少女はまあ、哀れな者を見るような視線を送ってきている。
「ねえ、何してんの?」
その声色からして、心配そうではなさそうだ。むしろなんで助けに来たんだろうと、そんな疑問を抱いているようだった。
「というかお兄さんのデッキ、凄く弱いよね。このデッキじゃ小学生にも勝てないよ」
「ははっ。辛辣だな……」
「ねえお兄さん、一応助けてもらったんだし、私が戦ってあげるよ。私と戦うなんて、この先一生ないことかもしれないから光栄に思いなよ」
なんだこの上から目線女は。
少し生意気な少女に苛立つ。だが少女は絶対的な自信を抱いているように思えた。
「ならお手柔らかに頼むぞ。少女よ」
「ああ。お兄さん、じゃあ始めましょう。勝敗に関しては回数制、先に五回直接攻撃を受けたら負けて良い?」
「ああ。構わない」
少女は四十枚以上、という規定に達したデッキを置くべき位置に置き、俺も同様に置くべき場所へデッキを置いた。
そして五枚引く。これで最初の準備は終了。
「先攻はお兄さんに上げるよ」
「では行かせてもらうぞ。まずはドロー」
デッキの上からカードを一枚引く。俺のデッキは火属性を軸としたデッキだ。カードはそれぞれ属性を持っており、『火、水、光、氷、木、土、雷、無』の計八属性ある。
そしてカードにも種類はあり、大きく分ければ『召喚獣』と『魔法』の二種類がある。
俺の手札には今『召喚獣』のカードが三枚、『魔法』のカードが三枚。
「『火の鳥』を召喚」
戦場に召喚したカードは『召喚獣』の『火の鳥』というカード。
序列は"下"、属性は火、攻撃力は4000で防御力は3000。
『召喚獣』には序列があり、上、中、下とある。上の『召喚獣』だけが召喚条件を持っている。
「タイムエンド」
俺のターンは終了した。
次は少女のターンだ。
「ではまずは、『ラビット』を二体召喚」
序列下、光属性の『召喚獣』ラビット。
攻撃力は2000、防御力は2000。
「バトルタイム、『ラビット』で攻撃」
少女の召喚した『ラビット』の攻撃、それを俺は先ほど召喚した『火の鳥』で防御する。
『ラビット』の攻撃力は2000、それに対して『火の鳥』の防御力は3000。よって『ラビット』は墓地へと送られる。そして『火の鳥』は戦場で仮眠状態で残る。
「ではもう一体の『ラビット』で攻撃」
先ほど防御したため、『火の鳥』は仮眠状態になっているのでまた防御することはできない。
そのため俺は『ラビット』の攻撃を自分に直接受ける。
「これで直接攻撃回数一回目、残り四回で私の勝ちだ」
そう言って、少女は自分のターンを終了させた。
俺はデッキからカードを引き、手札を眺める。
「『リザードマン』を召喚」
『リザードマン』
序列:中、属性:火、攻撃力6000、防御力5000
「そして『魔法』発動、『ネオファイアー』」
『ネオファイアー』
序列:下、属性:火
効果:攻撃力3000以下の相手の召喚獣一体を破壊する。
そのカードで『ラビット』を墓地へ送る。
これで少女の戦場はがら空き。そこへ俺は攻撃を仕掛ける。
「バトルタイム、『リザードマン』で攻撃」
戦場に少女の召喚獣はいない。よって少女はこの攻撃を直接受ける以外にない。しかし少女は不適な微笑みを浮かべ、手札にあるカードを一枚手に取った。
「光の魔法は惑わしの魔法。それでは『魔法』発動、『ダブルフラッシュ』。この魔法は序列上以外の相手の召喚獣二体を破壊する。よって、『リザードマン』と『火の鳥』を破壊」
これで戦場には俺の召喚獣がいなくなった。
「タイムエンド……」
俺のターンで俺の召喚獣が全て倒されるとは。
「じゃあこのターンで終わらせようかな」
そう言って少女はデッキからカードを引き、手札を眺める。しかし俺の手札には相手のターンを強制終了させるカードがある。
バトルタイムならば相手のターンであろうと自分も魔法を使える。だからその時まで待とう。
タイムスタートからドロータイム、そしてサモンズタイムへと入った。そこで少女は召喚獣を三体召喚した。
「続いて、『戦場魔法』『光裁く神殿』を配置」
『戦場魔法』は破壊されない限り永久的に戦場に残り、効果を与え続ける魔法。その効果は様々で、『光裁く神殿』の場合は特殊なものである。
「この『戦場魔法』の効果、全てのターンにおいて、指定した属性の魔法を使えなくする」
俺が相手のターンを強制終了させるカードの属性は氷属性。しかし俺のデッキは火。ならここで氷属性を指定されない限りは次の俺のターンがやって来る。
「指定する属性は当然火属性ーー」
これでこのターンで終わることはない。
そう俺は確信した。
「ーーなわけないだろ。私が指定する属性は氷属性。さあこれでお前は魔法を使えない」
「何!?」
俺の手札を見破ったのか!!
「ではバトルタイム、攻撃だ」
だが相手の召喚獣は三体、俺はまだあと四回攻撃を耐えられる。それならこのターンで終わることはそもそもない。その上こちらには火属性の魔法で相手の召喚獣を破壊する魔法もある。
まずは『ラビット』の攻撃。
「魔法発動、『ネオファイアー』、これで『ラビット』は破壊だ」
「いいや。さらに魔法だ。『サクリファイス』」
『サクリファイス』
序列:上、属性:光
効果:自分の召喚獣一体を破壊することで、相手の魔法の効果を打ち消す。この効果で魔法を打ち消した際、破壊した召喚獣で相手に直接攻撃し、その召喚獣を墓地へ送る。
「この魔法で『ラビット』を破壊、しかしお前に直接攻撃、これで攻撃を受けられる回数は残り三回」
「だがあと二体……」
続いて二体の攻撃をどちらも直接受け、これで俺が直接攻撃を受けられる回数は残り一回。だがこのターンは凌いだ。
「なぜ安堵する?まだ私のターンが終わったとは言ってないぞ」
少女は手に持つ残り一枚のカードを裏返して俺に見せた。
「『リザレクション』?」
俺はカードを内容を見てみた。
『リザレクション』
序列:上、属性:光
効果:墓地にいる自分の光属性の召喚獣一体を戦場に回復状態で召喚する。
「『ラビット』、戻ってこい」
「まさか……」
「そのまさかさ。さあとどめを刺せ。『ラビット』」
『ラビット』の攻撃を直接受け、俺は少女にたった四ターンで敗北した。
俺が弱すぎるのか、それともこの少女が強すぎるのか……。
「戦いも終わったことだし、私のことについて少しくらい自己紹介してあげるよ。私は天崎召部。『Summoned Beast and Magic』、このカードゲームの世界一位だ」