80話・逃走
倒れていた女性が、ソフィアの首に短剣を当てていた。
僕は、すぐにソフィアを助けようと動こうとする前に、
「あらら、聞こえなかったの? 動くなって言ったのよ!!」
「痛っ」
「ソフィア!!」
女の短剣が、ソフィアの頬を裂き、血が流れる。
「アクター、とりあえず、そのガキと一緒に、こっちに来い!!」
「はいはい… ラディッシュ、後でちゃんと払う物は、払うんだぞ?」
「分かってるから、早くこっちに来い!!」
女は、堂々と俺たちの前を通って、ソフィアを連れて斧使いの元へ行く。手を出そうにも、先ほどの二の舞になるので、動けない。斧使いは、女が、近くに来たのを確認すると、ニチャニチャしながら、
「それじゃあ、とりあえず、全員武器を置いて貰おうか?」
「分かった… 皆も、お願い…」
僕は、聖剣とラウンドシールドを地面に置きながら、皆にもお願いする。
「「はい…」」 「分かりました」
3人とも、武器を地面に、置いてくれる。
「そうそう… それで、良いんだよ。それじゃあ、メイド、そこの窪みに飛び込め!!」
「なっ!!」
僕は、目を見開く。
「いくらな… 「分かりました」 …バレッタさん!!」
「大丈夫ですよ、ノーリ君。それで私が、そこに飛べばいいんですね?」
「あぁ、そうだ!! 早く飛べ!!」
「分かりました」
バレッタさんは、僕の横を通りすぎる際、
「(一瞬だけ、隙を作ります。その隙に、妹さんを助けて下さい)」
「(分かりました)」
僕は、斧使いたちに、バレないように返事する。
「それじゃあ、飛びますね?」
「だから、早く飛べって!!」
「では、行きますね」
目で、合図を送ってくる。僕は、微かに頭を縦に降る。
バレッタさんは、ゴブリンがひしめく窪みに飛び込んだ。すると、
「「ギャーーーーーー!!」」
斧使い以外の2人の腕が、宙を舞った。
僕は、これがバレッタさんが言っていた隙だと判断する。ソフィアを捕らえている女も、驚いているのか、短剣がおろした。僕は、俊足スキルを駆使し、その女の顔面めがけて、拳を振りかぶる。
「ぐぼっ!!」
女は、そのまま壁までぶっ飛んでいく。
「お兄ちゃん!!」 「ソフィア!!」
飛び込んでくる、ソフィアを力一杯抱き締める。
「なっ!!」
斧使いは、先ほどの僕のように目を見開き驚く。
「形勢逆転ですね。降伏をおすすめしますが、どうしますか?」
「なっ!! お前どうやって!!」
僕は、ソフィアを抱き締めたまま、振り返ると、バレッタさんが、既に窪みから戻ってきていた。
「クソ!!」
斧使いは、腕が切断された2人組や壁にぶつかったまま気絶した女を見捨てて、逃走する。