291話・緊張
突然現れたグラディウスさんから、現れた理由を聞いた後に、僕が持つアイテムについて尋ねてきた。
何の事なのか分からなかったが、すぐ何を言っているのかを理解し、それを背中に隠してしまう。
「ノーリ君、今更隠しても遅いわよ…」
困った子を見るような顔のまま、グラディウスさんはそう言ってきた。
「う…」
まぁ、その通りなのだが、反射的にやってしまったのだからどうしようもない。
「それで、ノーリ君。それは、転移結晶よね?」
「えっと、それは…」
驚きのせいで、眠気は吹っ飛んだものの、すぐによさげな言い訳は思い付かなかった。
「とりあえず、手に持っている物だけでも見せてくれないかな?」
「…分かりました。どうぞ。」
一瞬アイテムボックスに隠してしまおうかとも思ったが、既に転移結晶を見られているし、ここで隠してしまっても、一時しのぎしかならないと判断し、諦めてグラディウスさんに転移結晶を手渡した。
グラディウスさんは、手渡された転移結晶を確認した後に、
「ありがとう、ノーリ君。」
「あ、いえ…」
すぐに僕に返してくれる。
「それで、少し話したい事があるから、隣座ってもいいかな?」
「はい、どうぞ…」
僕は、少し移動し、スペースを空ける。
空いたスペースにグラディウスさんは腰かける。
聞かれる内容が何なのか何となく分かってはいるが、少し身構えてしまう。
そんな僕の態度を察したのか、
「取って食べる訳じゃないんだから、そこまで緊張しないでノーリ君。」
グラディウスさんは、いつもと変わらない口調で話しかけてくれる。
「は… はい。」
「ほらほら。まだ肩に力が入っているわよ。」
グラディウスさんは、そう言いながら、僕の肩へと手を伸ばし、軽く揉みほぐしてくる。
「えっと、グラディウスさん?」
その行動に少し戸惑うが、
「いいからいいから。お、ノーリ君って思ったより、筋肉がついているんだね。」
グラディウスさんは、そんなの関係ないといった感じで、肩もみを続けた。
「はぁ… 分かりました…」
これは、何言っても聞かなそうだと判断した僕は、グラディウスさんが自分で止めてくれるまで待つ事にした。
「うん、これぐらいでいいかな。」
少しして、肩から手を離してくれる。
「それじゃあ、ノーリ君。話をしましょうか。」
「はい、分かりました。」
肩もみのお陰なのか、少しあった緊張はなくなっていた。
「じゃあ、単刀直入に聞くけど、ノーリ君が持っているそれは、転移結晶であっているわよね?」
グラディウスさんは、僕の目をじっと見つめ、そう質問してきた。




