閑話・一夜開けて
突然の痛みで目を覚ます。
「ぁ… あ…」
誰かを呼ぼうにも、声が出せないほどの痛みが次から次へと襲ってきて、体を動かすのもままならない。
その痛みが治まってきたかと思った瞬間、今度は強烈な眠気が襲ってきて、抵抗も出来ずに、意識が遠のいていった。
◆
「旦那様。旦那様。」
この屋敷の主であるフーリッシュ様が休まれている部屋の前で、少し慌てた様子の家精霊が、声をかけていた。
「どうかされましたか?」
「それが、この時間に起こすよう言われていたので、声をお掛けしているのですが、旦那様が返事をなされないんです。」
「そうですか。もしかしたら、昨夜、いつもより飲まれる量が多かったようですので、眠りが深いのかもしれませんね。」
「どうされますか?」
「そうですね… もう一度、外から声をかけて返事がない場合は、私も同行しますので、中に入って起こしましょうか。」
「分かりました。」
再度ノックして返事がなかった為、家精霊と一緒に部屋の中へと入ろうとした瞬間、
「「うっ…」」
中から何が腐敗したような臭いが漂ってきた。
私は、家精霊と1度顔を見合わせてから、
「窓をお願いします。」
「わ… 分かりました!!」
一言そうお願いし、ハンカチを取り出し、中へと入っていく。
「フーリッシュ様、フーリッシュ様!!」
声をかけながら、昨夜、フーリッシュ様を寝かせたベッドに駆け寄ると、臭いが強くなった。
シャー バン
カーテンを開けた事で、暗かった室内に日の光が入り込む。
「フーリッシュ様!!」
そこには、干からびたお姿になったフーリッシュ様が横になっていた。
その姿に言葉を失っていると、
「ひっ!!」
家精霊もその姿をみたのか、悲鳴を上げ後ずさる。
「す… すぐに治療士を呼んで来て下さい!!」
それをみて、正気を取り戻した私は、後ずさる家精霊にそう指示を出す。
「は… はい、分かりました!!」
家精霊は、指示通り治療士を呼びに部屋を後にした。
だけど、指示を出しはしたが、声をかけても反応がなく、更には、かけてある布団が上下に動いている様子もない事から、たぶんもう手遅れであるのは、目に見えている。
「何故こんな事に…」
家精霊が呼びに行った治療士が来るまで、部屋の外で待っていようと足を動かそうとした際、だらっと布団から腕がはみ出していたので、それだけでもベッドの上に上げる為、口に当てていたハンカチを使い、腕を上げる。
触った腕は、ハンカチ越しではあるが、ネチョとしていた。
「ん?」
その際、昨日は気づけなかったが、上げた腕につけていた腕輪についている石が割れており、壊れているのに気づいた。
「あ… あの、どうかされたんですか?」
声がした方へ振り返ると、屋敷の者たちが心配した様子で集まっていた。
「何でもありません。それより、皆さんは、いつも通り仕事に取りかかって下さい。」
そう言いながら、入り口からフーリッシュ様が見えないよう背に隠し指示する。
私も、今度こそ部屋の外に出て治療士を待った。
そして、駆けつけた治療士に見て貰ったが、案の定既に亡くなっており、その原因も分からないようだった。