閑話・悲痛
リリーは、一礼し部屋を出ていった。
一応、今回も部屋の鍵をかけて席に戻ると、
「それでグラディウスは、今後はどうするつもりなの?」
そうお母さんが話しかけてきた。
「今後?」
「えぇ、そうよ。今は確か、冒険者ギルドのギルドマスターをやってるんだったわよね?」
「え、うん、やってるよ。」
「でもそれって、エルマーナを治すための情報を集める為になったのよね?」
「まぁ、そうなるかな。」
「なら、エルマーナが治った今、グラディウスがそれを続ける理由がなくなった訳じゃない。だから、グラディウスは、他にやりたい事とかはないの?」
「私がやりたい事…」
確かに言われてみれば、エルマーナが治った今、これ以上ギルドマスターを続ける意味はあまりない。
「えぇ、そうよ。エルマーナが治った今言うのはずるいと思うんだけど、私たちの力が及ばなかった為に、貴方たちに負担をかけて悪いと思ってるの。だから、グラディウス。今後は自分のやりたい事をやってほしいの?」
お母さんの顔からは、少し悲痛の色が伺えた。
まさか、お母さんがそんな事を思っているなんて、思いもしなかった。
「ねぇ、お母さん?」
「…なに?」
「家族を助ける為に、自分なりに考えてやった事なんだから、負担だなんて思った事なんてないわ。それに、ギルドマスターという貴重な体験も出来たし、冒険者だけやってたら得られなかった交流先も出来て、逆に得したくらい何だから。だから、お母さん。そんな顔をしないで。」
私の本心を伝える。
「そう… ありがとう、グラディウス。」
お母さんは涙ぐむが、浮かべていた悲痛の色は消え去っていた。
そうこうしていると、
コンッコンッ
と扉がノックされたので、扉に近づき、合言葉のやり取りをしてから扉を開ける。
「レジーナ様。グラディウス様。遅れてしまい申し訳ございません。少々探すのに手間取ってしまいました。」
中に入ってきたリリーは、入室早々謝ってきた。
「私は、気にしてないわ。お母さんは、どう?」
「私も、気にしていないから、頭を上げて頂戴、リリー。」
「かしこまりました。お二人とも、ありがとうございます。レジーナ様、こちらが書く物になります。」
「ありがとう、リリー。じゃあ、今から書くわね。」
「了解。あ、じゃあ、リリー。お昼を取らずにこっちに来たから、悪いんだけど、何かつまめるものをお願いしていいかな?」
「かしこまりました。レジーナ様は、どうされますか?」
「なら、私もグラディウスと同じものをお願い。」
「かしこまりました。では、準備して参ります。」
再び、リリーは、一礼し部屋を出ていく。




